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第十一章 謀略と憎悪の大地
侵食する闇
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旧マキシム侯爵邸へと到着した私たちは領主代行であるゼクシス男爵と面会していました。
彼曰く、民衆の間で妙な噂話が流れていたことを最近になって知ったようです。
「酷い扱いを受けられたようで、申し訳ございません。今後は民たちの動向にも注視させていいただきます」
「ああいえ、別に構わないわ……」
私は嘆息している。及第点すら与えられない弁明に対して。
「貴方は本日付で解雇します。どうぞ好きなところへお行きなさい。たとえばメルヴィス公爵領とか?」
「アナスタシア様!?」
即座にモルディン大臣が口を挟むけれど、私は理解している。
私に配慮して男爵を代理としたのだろうけれど、メルヴィス公爵がそれを利用しないはずがないもの。
「いや、潔白です! 私はガゼル王より命を受けてこの地へと来ました! 慣れぬ業務に忙しく、民衆まで手が回らなかったのです! メルヴィス公爵とは何の繋がりもございません!」
「アナスタシア様、ご再考願います! ゼクシス男爵は本当に知らなかったのだと思われます!」
二人して私の考えを否定するけれど、生憎と私は信用していない。
長く髭と暮らした私は盲目的に人を信頼しないの。
「三年も代行をして慣れていない? ならば、この魔法陣に契約できまして? 署名と血判。それをしてくださるのでしたら、信用いたしましょう」
一応は譲歩案を提示してみます。
私との契約は絶対なの。彼を信用するのなら、署名後しかあり得ません。
「その術式は私のオリジナルでして、あらゆる契約に優先されますの。如何なる時も私に従うこと。裏切らないこと。もしも違反しているのであれば、貴方様は心臓を破裂させて死に至るでしょう。また私はメルヴィス公爵が放った間者を捕らえております。間者の話と貴方の話が食い違うのであれば、市中引き回しの上に火刑と処するつもりですわ」
モルディン大臣は息を呑んでいます。
まあでも、小娘の覚悟を分かってもらう良い機会かもしれません。
目の前で人が爆発する様子を目撃し、私に向けられる悪意が少なくないことを知ってもらいましょうか。
「署名した全員が死ぬ術式なんじゃないか!?」
「いいえ、何でしたらモルディン大臣、ご署名してくださらない? あとで契約は解除できます。悪意がなければ爆発しない事例として署名をお願いしますわ」
どうにも不可解であったことでしょうが、モルディン大臣は頷いています。
私が用意した契約書にサインと血判を押してくださいました。
「どうです? 何の反応もないでしょう? 悪意がなければ何も反応しませんの。貴方様も安心してご署名ください。もしも、民衆を扇動したとかいう事実がないのであれば……」
過呼吸気味になりながら、ゼクシスはペンを取った。
しかし、名を書くのかと思えば、ペンを落としてしまう。
「許してくれ! 私は脅されていたんだ! メルヴィス公爵から民衆に噂を流すように指示されていた!」
そういった直後、彼は大量の血を吐いた。それはもう心臓が爆発するのと変わらないくらいに。
どうやらメルヴィス公爵とも契約したみたいね。さりとて、その名を口にしてくれてありがとう。感謝申し上げますわ。
「モルディン大臣、やはりメルヴィス公爵が動いているようですね?」
「そのようで……。しかし、アナスタシア様に疑われた時点でゼクシス男爵の命はなかったのですな。最後の台詞は王国への忠義としてもよろしいですか?」
この期に及んでモルディン大臣はゼクシスを庇うような話をしています。
別にそれは構わないわ。彼の家族にまで恨みはないし、最後はメルヴィス公爵を裏切っていたのですから。
「丁重に扱ってください。とりあえず私のギフトに収納しましょうか?」
「構わないのですか? 遺体ですけれど……」
「大臣は私を令嬢じゃないと仰いましたけれど、扱いは令嬢なのですね。こう見えて私は戦争にも参加したのですよ? 肝の据わり方は男性よりもしっかりとしておりますの」
私の話にモルディン大臣は笑っています。
髭の使いとして戦場へ向かった話は既に誰でも知っていることなのです。
「ですが、困りましたね。領主代行がいなくなってしまいました。流石に問題がありますので、次の代行が到着するまで、私はこの地へ残ることにします」
「よろしくお願いします。それで次の代行は私どもが決めてよろしいので?」
今回の件があったからか、モルディン大臣は確認を取る。
再び王家で人選して良いのかどうか。
「複数人お連れくださいな? その中から私が決めさせていただきますわ」
「承知しました。領主邸に残られるのであれば、遺体は私が持ち帰りましょう。これでも修羅場を潜り抜けた爺ですので、同じゴンドラ内でも問題ありませんし」
話は纏まったようで、まだ問題を残しているみたい。
モルディン大臣が続けました。
「屋敷の使用人たちを解雇しましょうか? 既にメルヴィス公爵の手が回っているやもしれません」
面白くなってきました。
もしかすると、屋敷にいる全員が敵だなんてこともあり得る。かといって、私はイセリナであった頃も、同じような状況を経験しています。
だから望むところです。幾らでも相手になってあげましょう。
「平気ですわ。私は火竜二頭をも仕留めたことをお忘れですか?」
「いやしかし、もしアナスタシア様に何かあれば、私は陛下に顔向けできません」
「何なら書面を用意します。私が本気を出せば、この屋敷はなくなってしまうかもしれませんけれど、ご了承くださいまし」
追加的な話をして、ようやくモルディン大臣は頷いています。
年老いた大臣がいては邪魔になることを分かっていただけたみたいですね。
後ろ髪を引かれながらも、モルディン大臣が屋敷を去って行く。
遺体はアイテムボックスへと入れたあと、ゴンドラの中で取り出しています。使用人たちに男爵が亡くなったことを気付かれないようにと。
最後にモルディン大臣に礼を言ってから、私はゴンドラの扉を閉めました。
「さてと、使用人は十人か。ランカスタ公爵家と比べたら楽勝よ……」
唐突に行った視察。とりあえず、新酒でもいただきながら、対策を考えましょうかね。
せめて身の回りだけでも、安全を確保したいところです。
彼曰く、民衆の間で妙な噂話が流れていたことを最近になって知ったようです。
「酷い扱いを受けられたようで、申し訳ございません。今後は民たちの動向にも注視させていいただきます」
「ああいえ、別に構わないわ……」
私は嘆息している。及第点すら与えられない弁明に対して。
「貴方は本日付で解雇します。どうぞ好きなところへお行きなさい。たとえばメルヴィス公爵領とか?」
「アナスタシア様!?」
即座にモルディン大臣が口を挟むけれど、私は理解している。
私に配慮して男爵を代理としたのだろうけれど、メルヴィス公爵がそれを利用しないはずがないもの。
「いや、潔白です! 私はガゼル王より命を受けてこの地へと来ました! 慣れぬ業務に忙しく、民衆まで手が回らなかったのです! メルヴィス公爵とは何の繋がりもございません!」
「アナスタシア様、ご再考願います! ゼクシス男爵は本当に知らなかったのだと思われます!」
二人して私の考えを否定するけれど、生憎と私は信用していない。
長く髭と暮らした私は盲目的に人を信頼しないの。
「三年も代行をして慣れていない? ならば、この魔法陣に契約できまして? 署名と血判。それをしてくださるのでしたら、信用いたしましょう」
一応は譲歩案を提示してみます。
私との契約は絶対なの。彼を信用するのなら、署名後しかあり得ません。
「その術式は私のオリジナルでして、あらゆる契約に優先されますの。如何なる時も私に従うこと。裏切らないこと。もしも違反しているのであれば、貴方様は心臓を破裂させて死に至るでしょう。また私はメルヴィス公爵が放った間者を捕らえております。間者の話と貴方の話が食い違うのであれば、市中引き回しの上に火刑と処するつもりですわ」
モルディン大臣は息を呑んでいます。
まあでも、小娘の覚悟を分かってもらう良い機会かもしれません。
目の前で人が爆発する様子を目撃し、私に向けられる悪意が少なくないことを知ってもらいましょうか。
「署名した全員が死ぬ術式なんじゃないか!?」
「いいえ、何でしたらモルディン大臣、ご署名してくださらない? あとで契約は解除できます。悪意がなければ爆発しない事例として署名をお願いしますわ」
どうにも不可解であったことでしょうが、モルディン大臣は頷いています。
私が用意した契約書にサインと血判を押してくださいました。
「どうです? 何の反応もないでしょう? 悪意がなければ何も反応しませんの。貴方様も安心してご署名ください。もしも、民衆を扇動したとかいう事実がないのであれば……」
過呼吸気味になりながら、ゼクシスはペンを取った。
しかし、名を書くのかと思えば、ペンを落としてしまう。
「許してくれ! 私は脅されていたんだ! メルヴィス公爵から民衆に噂を流すように指示されていた!」
そういった直後、彼は大量の血を吐いた。それはもう心臓が爆発するのと変わらないくらいに。
どうやらメルヴィス公爵とも契約したみたいね。さりとて、その名を口にしてくれてありがとう。感謝申し上げますわ。
「モルディン大臣、やはりメルヴィス公爵が動いているようですね?」
「そのようで……。しかし、アナスタシア様に疑われた時点でゼクシス男爵の命はなかったのですな。最後の台詞は王国への忠義としてもよろしいですか?」
この期に及んでモルディン大臣はゼクシスを庇うような話をしています。
別にそれは構わないわ。彼の家族にまで恨みはないし、最後はメルヴィス公爵を裏切っていたのですから。
「丁重に扱ってください。とりあえず私のギフトに収納しましょうか?」
「構わないのですか? 遺体ですけれど……」
「大臣は私を令嬢じゃないと仰いましたけれど、扱いは令嬢なのですね。こう見えて私は戦争にも参加したのですよ? 肝の据わり方は男性よりもしっかりとしておりますの」
私の話にモルディン大臣は笑っています。
髭の使いとして戦場へ向かった話は既に誰でも知っていることなのです。
「ですが、困りましたね。領主代行がいなくなってしまいました。流石に問題がありますので、次の代行が到着するまで、私はこの地へ残ることにします」
「よろしくお願いします。それで次の代行は私どもが決めてよろしいので?」
今回の件があったからか、モルディン大臣は確認を取る。
再び王家で人選して良いのかどうか。
「複数人お連れくださいな? その中から私が決めさせていただきますわ」
「承知しました。領主邸に残られるのであれば、遺体は私が持ち帰りましょう。これでも修羅場を潜り抜けた爺ですので、同じゴンドラ内でも問題ありませんし」
話は纏まったようで、まだ問題を残しているみたい。
モルディン大臣が続けました。
「屋敷の使用人たちを解雇しましょうか? 既にメルヴィス公爵の手が回っているやもしれません」
面白くなってきました。
もしかすると、屋敷にいる全員が敵だなんてこともあり得る。かといって、私はイセリナであった頃も、同じような状況を経験しています。
だから望むところです。幾らでも相手になってあげましょう。
「平気ですわ。私は火竜二頭をも仕留めたことをお忘れですか?」
「いやしかし、もしアナスタシア様に何かあれば、私は陛下に顔向けできません」
「何なら書面を用意します。私が本気を出せば、この屋敷はなくなってしまうかもしれませんけれど、ご了承くださいまし」
追加的な話をして、ようやくモルディン大臣は頷いています。
年老いた大臣がいては邪魔になることを分かっていただけたみたいですね。
後ろ髪を引かれながらも、モルディン大臣が屋敷を去って行く。
遺体はアイテムボックスへと入れたあと、ゴンドラの中で取り出しています。使用人たちに男爵が亡くなったことを気付かれないようにと。
最後にモルディン大臣に礼を言ってから、私はゴンドラの扉を閉めました。
「さてと、使用人は十人か。ランカスタ公爵家と比べたら楽勝よ……」
唐突に行った視察。とりあえず、新酒でもいただきながら、対策を考えましょうかね。
せめて身の回りだけでも、安全を確保したいところです。
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