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第十一章 謀略と憎悪の大地
強い女
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とりあえずは民たちも落ち着いたように思います。
もう誰も物を投げつけることなどありませんでした。
「ありがとう、私の臣民たち。私は頼りないかもしれませんが、これまで年齢以上の行動をしてきたという自負がございます。この十七年という歳月において、私が目標としていること。それは常に一定でありまして、今もまだその意志を貫いておりますの」
私は演説と言うべき話を続ける。
耳目を集めた今こそ、宣戦布告の時であると。
「悪は許さない。善を蝕む悪は絶対に許しません。ランカスタ公爵家のイセリナ様を暗殺するという予知をしてから、私は十二歳にして動き始めました。あらゆる手段を講じて悪を屠ったのです。デンバー侯爵やリッチモンド公爵を相手として。ご存じのように当地を治めていたマキシム侯爵も同様ですわ」
ここでざわめきが起きました。
デンバー侯爵やリッチモンド公爵は南部の話ですが、やはりマキシム侯爵は地元の名士であり、より身近な人物であったからでしょう。
「ただマキシム侯爵が善であるのか悪であるのか分かりません。何しろマキシム侯爵はより強大な悪に操られていたからです。彼の悪事で判然としていることがあるとすれば、それは巨悪に与したことでしょう。悪の要請を断り切れなかった侯爵は公爵令嬢暗殺未遂という汚名だけを着せられて、切り捨てられたのですから」
一層ざわめき立つ。
私が口にしているのは明らかにメルヴィス公爵批判であり、北部の権力を掌握する者への対立表明であったからです。
「公爵家? 知りませんよ。私は別に身分など気にしていないのです。今までも子爵令嬢として動いてきました。これからもそれは変わらない。喧嘩を売る相手が間違っていたことを公爵様に分かっていただくだけですわ。私は如何なる権力にも屈しない。他にも陰がいるのなら、どうぞ公爵様にお伝えくださいな? 暗殺でも謀略でも好きなだけどうぞ。しかし、覚悟してくださいまし。私は善なる者へ等しく慈悲を与えますけれど、悪は徹底して叩く性分なのですわ!」
どうしてか私の隣にいる少年が拍手をくれました。
有り難いけれど、今は止めた方がいいね。あとでお家の人に怒られちゃうわよ?
私が少年を制止しようとしたそのとき、見守る人たちから一斉に拍手が返されていました。
「ありがとうございます。クルセイドの民たちを悪いようには扱いません。たとえメルヴィス公爵家と敵対しようとも、私は南部と繋がりがございますの。今後、全ての産物は南へと輸出をし、収益を上げたいと考えております。ただし、メルヴィス公爵は敵だとお考えください。領内の膿を出し切ったあと、必ずやメルヴィス公爵家には報いを受けていただきます」
再び盛大な拍手があった。もうこれくらいで良いでしょう。
どうせ領地の拝領が決まってから民衆を扇動しただけだもの。極悪だと教えられたとして、数ヶ月くらいかしら?
実際に私を見た彼らは聞いていた話との差異に戸惑ったことでしょうね。
「エスフォレストの未来に光を! クルセイドの民に幸あれ!」
私は人心掌握の最終段階として、彼らに祝福を授けている。
「ホーリー・ブレス!!」
聖女としてここにいる。私は全身全霊の神聖魔法を披露していました。
天より降り注ぐ光の粒。かつてラマティック正教会の信徒たちをも魅了したこの魔法は臣民たちの心にどう映るのでしょうか。
ここでガタンと音がして、どうしてかゴンドラの扉が開かれました。
確実に扉を閉めたはず。なのにマリィが飛び出して来たわけ。
(モルディン大臣か……)
マリィは泣き叫びながら、私の肩へと飛び乗っています。これには流石に住民たちも驚きを隠せません。
噂に聞く火竜の聖女。本当に幼竜を連れているなんて、考えもしていないことでしょう。
(大臣、助かります……)
心の中で謝意を伝える。
モルディン大臣はきっと求心力を高めるため、マリィを外に出したのね。
まあこのおデブちゃんは怪我をした肩に乗っかっていまして、辛い痛みを私に与えていますけれど。
「聖女様、どうかクルセイドをお守りください!」
少年の母親らしき方が近寄り、頭を下げています。
すると、堰を切ったかのように全員が私の元へと近付いてきました。
ここからは鳴り止まぬ火竜の聖女コール。暗に戦争を仄めかしたというのに、彼らは私に付き従ってくれるようです。
「皆様、私は悪を許しませんが、善なる者には惜しみない愛を与えましょう。エスフォレストの地はお任せください。しばらくは領主代行を立てることになりますけれど、圧政を敷くつもりは毛頭ございません。ざっと資料を見たところですが、現状の税率は高すぎます。恐らくメルヴィス公爵家への上納金が上乗せされていたのでしょう。よって、来月から減税をさせていただく所存であります」
再び大声援を私は受けていました。
とりあえず、首都クルセイドの人民には受け入れられたのかもしれない。暇さえあれば足を向けて、住民たちと話をしていかねばなりませんね。
盛大な拍手に見送られながら、私はゴンドラへと戻ります。
ふと目が合ったモルディン大臣は少しばかり笑みを浮かべている。加えて彼は呟くようにして言うのでした。
貴方様は本当に強い女性だ――と。
もう誰も物を投げつけることなどありませんでした。
「ありがとう、私の臣民たち。私は頼りないかもしれませんが、これまで年齢以上の行動をしてきたという自負がございます。この十七年という歳月において、私が目標としていること。それは常に一定でありまして、今もまだその意志を貫いておりますの」
私は演説と言うべき話を続ける。
耳目を集めた今こそ、宣戦布告の時であると。
「悪は許さない。善を蝕む悪は絶対に許しません。ランカスタ公爵家のイセリナ様を暗殺するという予知をしてから、私は十二歳にして動き始めました。あらゆる手段を講じて悪を屠ったのです。デンバー侯爵やリッチモンド公爵を相手として。ご存じのように当地を治めていたマキシム侯爵も同様ですわ」
ここでざわめきが起きました。
デンバー侯爵やリッチモンド公爵は南部の話ですが、やはりマキシム侯爵は地元の名士であり、より身近な人物であったからでしょう。
「ただマキシム侯爵が善であるのか悪であるのか分かりません。何しろマキシム侯爵はより強大な悪に操られていたからです。彼の悪事で判然としていることがあるとすれば、それは巨悪に与したことでしょう。悪の要請を断り切れなかった侯爵は公爵令嬢暗殺未遂という汚名だけを着せられて、切り捨てられたのですから」
一層ざわめき立つ。
私が口にしているのは明らかにメルヴィス公爵批判であり、北部の権力を掌握する者への対立表明であったからです。
「公爵家? 知りませんよ。私は別に身分など気にしていないのです。今までも子爵令嬢として動いてきました。これからもそれは変わらない。喧嘩を売る相手が間違っていたことを公爵様に分かっていただくだけですわ。私は如何なる権力にも屈しない。他にも陰がいるのなら、どうぞ公爵様にお伝えくださいな? 暗殺でも謀略でも好きなだけどうぞ。しかし、覚悟してくださいまし。私は善なる者へ等しく慈悲を与えますけれど、悪は徹底して叩く性分なのですわ!」
どうしてか私の隣にいる少年が拍手をくれました。
有り難いけれど、今は止めた方がいいね。あとでお家の人に怒られちゃうわよ?
私が少年を制止しようとしたそのとき、見守る人たちから一斉に拍手が返されていました。
「ありがとうございます。クルセイドの民たちを悪いようには扱いません。たとえメルヴィス公爵家と敵対しようとも、私は南部と繋がりがございますの。今後、全ての産物は南へと輸出をし、収益を上げたいと考えております。ただし、メルヴィス公爵は敵だとお考えください。領内の膿を出し切ったあと、必ずやメルヴィス公爵家には報いを受けていただきます」
再び盛大な拍手があった。もうこれくらいで良いでしょう。
どうせ領地の拝領が決まってから民衆を扇動しただけだもの。極悪だと教えられたとして、数ヶ月くらいかしら?
実際に私を見た彼らは聞いていた話との差異に戸惑ったことでしょうね。
「エスフォレストの未来に光を! クルセイドの民に幸あれ!」
私は人心掌握の最終段階として、彼らに祝福を授けている。
「ホーリー・ブレス!!」
聖女としてここにいる。私は全身全霊の神聖魔法を披露していました。
天より降り注ぐ光の粒。かつてラマティック正教会の信徒たちをも魅了したこの魔法は臣民たちの心にどう映るのでしょうか。
ここでガタンと音がして、どうしてかゴンドラの扉が開かれました。
確実に扉を閉めたはず。なのにマリィが飛び出して来たわけ。
(モルディン大臣か……)
マリィは泣き叫びながら、私の肩へと飛び乗っています。これには流石に住民たちも驚きを隠せません。
噂に聞く火竜の聖女。本当に幼竜を連れているなんて、考えもしていないことでしょう。
(大臣、助かります……)
心の中で謝意を伝える。
モルディン大臣はきっと求心力を高めるため、マリィを外に出したのね。
まあこのおデブちゃんは怪我をした肩に乗っかっていまして、辛い痛みを私に与えていますけれど。
「聖女様、どうかクルセイドをお守りください!」
少年の母親らしき方が近寄り、頭を下げています。
すると、堰を切ったかのように全員が私の元へと近付いてきました。
ここからは鳴り止まぬ火竜の聖女コール。暗に戦争を仄めかしたというのに、彼らは私に付き従ってくれるようです。
「皆様、私は悪を許しませんが、善なる者には惜しみない愛を与えましょう。エスフォレストの地はお任せください。しばらくは領主代行を立てることになりますけれど、圧政を敷くつもりは毛頭ございません。ざっと資料を見たところですが、現状の税率は高すぎます。恐らくメルヴィス公爵家への上納金が上乗せされていたのでしょう。よって、来月から減税をさせていただく所存であります」
再び大声援を私は受けていました。
とりあえず、首都クルセイドの人民には受け入れられたのかもしれない。暇さえあれば足を向けて、住民たちと話をしていかねばなりませんね。
盛大な拍手に見送られながら、私はゴンドラへと戻ります。
ふと目が合ったモルディン大臣は少しばかり笑みを浮かべている。加えて彼は呟くようにして言うのでした。
貴方様は本当に強い女性だ――と。
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