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第十一章 謀略と憎悪の大地

予期せぬ顔見せ

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「とりあえず、広場にゴンドラを降ろしてみましょう。住人たちへ先に挨拶するのは悪い話ではございませんし」

 モルディン大臣は御者に命令し、ゴンドラがゆっくりと降下していく。

 放射状に伸びるストリートのど真ん中。住人憩いの場とも言えそうな広場へと。

「えっ!?」

 どうしてか窓が音を立て、何やら汚れています。

 まるで理解できなかったのですが、大きな声により私は気付かされていました。

「聖女を騙る邪悪な女は王都へ帰れ!!」

 はっきりと聞こえる。と同時に再び窓に向かって、再び何かが投げつけられています。

「タマゴ?」

 唸り声を上げるマリィを宥めてから、私はモルディン大臣へと視線を向ける。

 流石に彼も予想していないのか、何度も顔を振るだけでした。

「アナスタシア様、ゴンドラを浮上させます!」

「待って!!」

 タマゴだけでなく、固い石のようなものまで投げつけられてしましたが、私は目的を達しようと思う。

「モルディン様は馬車の中にいてくださいな? 私は住人たちに挨拶がございます」

「いや、暴徒化する寸前じゃないですか!?」

 あらゆる物が投げつけられている現状。流石にモルディン大臣はこの場から立ち去るべきだと考えているみたい。

 でもね、逃げるのはもうやめたのよ。人心掌握とは心を向き合わせて行うべきであって、背を向けた状態では成し得ない。

 私はマリィに大人しくするように命じてから、外へと出ました。

 すると、生身であるというのに、タマゴや石が投げつけられています。

 ドレスは汚れ、額からは血が流れている。

 なんなら、気が済むまで投げたら良いわ。どこへ死に戻るのか分からないけれど、死んだとして問題はないの。

 私はもう最終的な覚悟を決めているのだから。

 しばらくは罵声と共に色々と投げつけられていましたけれど、私が何の反応もしなかったからか、徐々に数が減り、遂には広場を静寂が包みます。

「もう終わり?」

 私は集まった者たちにそう述べています。

 酷い心の痛みに耐えてきた私にとって、肉体的な痛みなど何も感じない。痛覚をなくすリベンジャーを唱える必要すらありません。


 ジッと集まった者たちを見つめていました。

 額から流れる血は頬を伝いドレスへと滴る。既にタマゴによって汚れていたドレスを真紅に染め上げていく。

「お姉ちゃん、大丈夫!?」

 不意に子供が駆け寄って来ました。

 どうやら彼はまだ毒されていないのでしょう。

 あることないことを吹聴され、汚れきった大人たちとは異なるようです。


 割と良い暮らしをしている少年かもね。彼は綺麗なハンカチを私に差し出してくれました。

「ありがとう。でも、ハンカチが汚れちゃうわ」

「大丈夫! ハンカチは汚れを取るために使うものだし!」

 純真な目が私を見ていました。

 流石に地元の少年が近くにいる状況では何も投げつけられません。

 私は少年の頭を撫でたあと、ハンカチを受け取り、額の血を拭う。

「皆様、私は見ての通り若輩者ですけれど、此度エスフォレストの領主となりました。アナスタシア・スカーレットと申しますの。ひいては来年度より、クルセイドの屋敷で住まうことになりました。どうぞよろしくお願いいたしますわ」

 私はアイテムボックスから金貨を取り出し、それを少年へと渡します。

 全員が話を聞いてくれる切っ掛けをくれた少年にはそれでも足りないかもしれません。

「ご不満があるのなら幾らでも愚痴を言ってもらって構いません。刺し殺したいほど憎いのであれば、どうぞ斬り付けてください。私は何も抵抗いたしませんから」

 覚悟を言葉にする。

 私は日和見主義的に領主となったわけではないのだと。確かなビジョンを持ってここに来たことを伝えるしかない。

「良くない噂が隣接する貴族様から伝えられていることでしょう。恐らくこの場所にも潜伏した人員がいるだろうと思います。でも、気にしません。ご自由にどうぞ。私は必ずやクルセイドを北部最大の街へと変貌させます。如何なる妨害があろうとも」

 私がそういった直後、再び石が投げつけられました。

 それは右肩に当たり、私は思わず顔を歪めてしまう。

 連鎖的に投げつけられるのかと覚悟をした私ですが、此度は違っていました。

 石を投げつけた者は即座に周囲の人間に取り押さえられていたのです。恐らくは住人を扇動するための間者に違いありません。

 まずは信じることだ。私が信じないのなら、彼らは私を信頼しない。

 彼らとて生活が大切だもの。妙な噂はこの身を以て掻き消すしかないのよ。

 直に見る私によって上書きしていくしか……。
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