青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

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第十一章 謀略と憎悪の大地

夢幻のように

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「昨日の酒宴で聞いたのですわ!」

 余計な話はするべきじゃないね。

 詮索されるほどに疑惑を生む。疑惑は不信感へと繋がるんだもの。

「それで王様、私はモルディン大臣と面会したいのです。所領に顔を出しておこうと思いまして、助言をいただければと……」

 この席で話すのは本題だけで良い。

 セシルもいるのだし、問題ごとに発展して欲しくないわ。

「ああ、聞いている。昨日、モルディンと話をしたのだが、クルセイドまで同行すると話していた。現状はゼクシス男爵が領主代行を務めておるが、交代させるのは卿の自由だ」

 マキシム侯爵家が廃爵となってから数年が経過しているのだし、既に代行が選ばれているのは当たり前よね。

 ゼクシス男爵は所領を持たない宮廷貴族らしい。名前は聞いたことがあるけれど、ここで抜擢されるほどの人材なのかな?

「そうでしたか。ならばモルディン大臣の都合が合えば出発いたします」

 私は朝食を掻き込んでいる。この居たたまれない場から去って行くしかありません。

「父上、僕も同行させて欲しいのですが?」

 どうしてかセシルが同行を願う。カルロが亡くなり、セシル自身も戦争を終結させられなかった今、私との約束は無効であるはずなのに。

「むぅ? セシルよ、ひょっとしてお前はアナスタシア嬢を?」

 変な方向に話が進んでいく。

 静観するしかない私は朝食を食べ続けるだけでした。

「もちろんです。ルーク兄様にはイセリナ様がいらっしゃいます。どうか父上、お考えを改めてくださいまし」

 あれ? どういうことでしょうか。

 セシルは自分の気持ちを口に出すだけかと思えば、なぜかガゼル王に再考を願っている。

「えっと、シャンパンでもいただけます? オホホ!」

 とにかく、話の腰を折っておこう。加えてガソリンを補充して、私も話の輪に入らなくちゃ。

 もし仮に私の考える未来と異なっているのなら、意見するっきゃありません。

「しかしな、ワシはどうしてもフェリクスの夢が気になっておる……」

 私がシャンパンをついでもらっていると、ガゼル王の話が続きました。

 フェリクス第二王子殿下が亡くなられて久しい。今さら何の話なのでしょう。

「フェリクス兄様は意識が朦朧とされておりました。アマンダ様のご光臨などあるはずがありません!」

「いや、モルディンもワシと同じ意見なんだ。現状でルークが王太子に選ばれる可能性は高い。フェリクスはアナスタシア嬢だけでなく、イセリナ嬢ですら殆ど面識がないのだぞ? ルークと婚約する者の髪色を的確に表現できるとは思えん……」

 私の鼓動は高鳴っていました。

 手に持つシャンパンがグラグラとして、零してしまいそうなほどに。

『桃色をした髪の美しい婚約者と一緒に――』

 思い出されるのは謎の文言です。

 フェリクス曰く脳裏に愛の女神アマンダが現れたのだとか。

「いやしかしですね……」

「在り来たりの髪色じゃない。ワシとモルディンはそれを重く受け止めておる……」

 どうしてなの、アマンダ? なぜに世界線は前世と同じ道を歩もうとしているの?

 困惑する私を余所に、ガゼル王とセシルの話が進みます。

「アナスタシア様は王太子妃に相応しい爵位を持っておりません!」

 ここで明確になる人物像。既に私も気付いていましたが、セシルは声を荒らげて返しています。

「だからこそ、所領を与えた。もしも、アナスタシア嬢が本当に王座の隣へと辿り着くのであれば、何かしらの功を示すだろう。フェリクスの夢が夢でしかないのであれば、何も変わらん。所領を与えたのは予言か夢かを見定めるための褒美……」

 どうやら私は試されているみたい。

 でも、問題はありません。寧ろお誂え向きな状況だと言えます。

「ガゼル陛下、私は必ずや北部地域に安寧と発展をもたらせると誓いましょう。誰一人として不満を覚えない所領運営をしてみせます。加えて、あらゆる事象に対応し、王国の発展に寄与させていただく所存ですわ。それらを評価いただけるのであれば、是非とも見合った身分をいただきとうございます」

 真意を告げるだけだ。

 五年前とは明確に異なる。イセリナであった頃とも違うの。子爵でしかない私は誰よりも権力を欲している。

「モルディン大臣が同行されるのであれば、セシル殿下の同行は必要ございません」

 正直に不敬であるような気もしますが、意志は示しておかねばならない。

 互いの思惑に齟齬を来さないように。


 朝食を食べ終えた私はモルディン大臣の執務室へと向かいます。

 イセリナには悪いけれど連れて行けない。眠り姫にはベッドでゆっくりしてもらいましょう。

 何しろ私は新酒の試飲に行くのではないの。

 戦いに行くのですから。
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