245 / 377
第十一章 謀略と憎悪の大地
思い出される過去
しおりを挟む
「もう五年になるか……。あの日、レグスが卿の申し出を持ち帰ったとき、ワシはレグスを怒鳴りつけた。もちろん、褒美を全て持ち帰ったからだ。そもそもスカーレット子爵と会ってからであれば、少なからず未来は変わっただろう。最終的に褒美の全てが破棄されようと、王家を頼るという選択肢が残ったはず。卿が一人、国を出るようなことにはならなかったのだ」
どうやら五年前の分岐点について、ガゼル王は語っているようです。
当然のこと、事実とはまるで異なる話なのですけれど、王様は私が王家を頼れなかった理由としているみたい。
「翌日にスカーレット子爵と面会したのだが、子爵もまた激怒されてな。褒美はおろか、卿の捜索隊を王家が出すという話すら首を振っておった……」
ダンツは私を一人で捜していた。
その理由が今さらになって王様から告げられていました。
「お父様がとんだご無礼を……」
「いや、それこそ王家の落ち度だ。前日であったなら、捜索隊を編成することくらいは承諾してもらえただろう。結果として、子爵にも卿にも悪いことをした」
それは違う。私が軽はずみな行動をしただけだもの。
ダンツも王様も悪くない。ルークやレグス近衛騎士団長でさえも。
「だからこそ、五年前に戻れたかのように感じておる。知っておろうが、ルークは卿のことを欲しておった。周りが見えなくなるくらいに、好いておったのだ……」
これまた返答に困る話。当時の様子だと、恐らく王家の全員が知っていたのかもね。
「私は殿下の気持ちを知って、あのような態度を取っています。ルーク殿下もレグス騎士団長様も悪くありません。一つ悪いことがあったとすれば、タイミングが悪かったと思います。あの頃、私は王家と接点を持つべきでなく、身を潜めるしかなかったのですから」
「どうしてだ? 王家の庇護下にあれば、リッチモンドといえども手出しはできなかっただろう?」
「そうなのですけれど、私は予知にてイセリナの暗殺計画を知っていました。それは非常に綿密な計画でして、一つずつ潰していくしか光明を見出せません。王国内にいては不可能だと判断したのです。外から全体を操って行こうと」
王家の庇護下を離れる理由はそんなところでしょうか。
そもそも、私はルークから逃げようとしていたのであって、そこに複雑な理由は存在しませんけれど。
「むぅ、十二歳でそこまで考えておったのか?」
「まあ、もう終わったことですわ。朝食が冷めてしまいます……」
上手い具合に配膳された朝食。私は話を切るようにしています。
正直に過剰なまでの遠回りであり、明らかに不要な回り道でした。セシルやイセリナの心情を知ってさえいれば、私はサルバディール皇国へ亡命していなかったことでしょう。
とりあえず、私も食事を始めます。
本当に懐かしい。ハチミツがかけられたベーグルにカリカリのベーコンが添えてある。サラダとスープも記憶にあるままでした。
「アナスタシアさま、わたし人参を食べられるようになったのです。エリカが好き嫌いしてはいけないというので、頑張りましたの!」
シャルロットが突然、そのように話します。無言よりも有り難いね。
(ああ、そうなんだ……)
私が知らないところで、エリカも頑張っていたのね。
既にイセリナと私の問題だと考えていましたが、実際にはエリカの問題を私は残しています。
エリカがお姫様になりたいと語った夢。私とイセリナがその位置を奪ってしまったのなら、准男爵でしかないエリカに出番はありません。
私の願望を叶えることはエリカの居場所を奪うことになってしまうのです。
「シャルロット殿下、ご立派です。エリカはさぞかし良い教育者なのでしょうね。一番上のお兄様も彼女から学んではどうでしょうか?」
私は冗談を口にしています。
するとシャルロットは大きく頷いていました。
「それは良いお話です! お兄さまも好き嫌いをなくすべきですよね?」
「ええ、本当に。ピーマンとナスビが食べられないなんて残念ですわ……」
私は軽く返答を終えた。
しかし、問題が発生してしまう。
「アナスタシアさまは何でも知っているのですね! お兄さまはピーマンとナスビが食べられないから、いつも遅れてお食事を取っていますの!」
「アナスタシア嬢、そんなことまで知っておったのだな?」
問われて気付く。現状のアナスタシアが知っているはずのない話だと。
全てイセリナだった頃の記憶。アナスタシアになってから、ルークと食事したのは火竜を退治したあとの晩餐会だけだったのですから。
ま、ここも誤魔化しておこう。
夢のような時間の話は信用してもらえるはずもないのですから……。
どうやら五年前の分岐点について、ガゼル王は語っているようです。
当然のこと、事実とはまるで異なる話なのですけれど、王様は私が王家を頼れなかった理由としているみたい。
「翌日にスカーレット子爵と面会したのだが、子爵もまた激怒されてな。褒美はおろか、卿の捜索隊を王家が出すという話すら首を振っておった……」
ダンツは私を一人で捜していた。
その理由が今さらになって王様から告げられていました。
「お父様がとんだご無礼を……」
「いや、それこそ王家の落ち度だ。前日であったなら、捜索隊を編成することくらいは承諾してもらえただろう。結果として、子爵にも卿にも悪いことをした」
それは違う。私が軽はずみな行動をしただけだもの。
ダンツも王様も悪くない。ルークやレグス近衛騎士団長でさえも。
「だからこそ、五年前に戻れたかのように感じておる。知っておろうが、ルークは卿のことを欲しておった。周りが見えなくなるくらいに、好いておったのだ……」
これまた返答に困る話。当時の様子だと、恐らく王家の全員が知っていたのかもね。
「私は殿下の気持ちを知って、あのような態度を取っています。ルーク殿下もレグス騎士団長様も悪くありません。一つ悪いことがあったとすれば、タイミングが悪かったと思います。あの頃、私は王家と接点を持つべきでなく、身を潜めるしかなかったのですから」
「どうしてだ? 王家の庇護下にあれば、リッチモンドといえども手出しはできなかっただろう?」
「そうなのですけれど、私は予知にてイセリナの暗殺計画を知っていました。それは非常に綿密な計画でして、一つずつ潰していくしか光明を見出せません。王国内にいては不可能だと判断したのです。外から全体を操って行こうと」
王家の庇護下を離れる理由はそんなところでしょうか。
そもそも、私はルークから逃げようとしていたのであって、そこに複雑な理由は存在しませんけれど。
「むぅ、十二歳でそこまで考えておったのか?」
「まあ、もう終わったことですわ。朝食が冷めてしまいます……」
上手い具合に配膳された朝食。私は話を切るようにしています。
正直に過剰なまでの遠回りであり、明らかに不要な回り道でした。セシルやイセリナの心情を知ってさえいれば、私はサルバディール皇国へ亡命していなかったことでしょう。
とりあえず、私も食事を始めます。
本当に懐かしい。ハチミツがかけられたベーグルにカリカリのベーコンが添えてある。サラダとスープも記憶にあるままでした。
「アナスタシアさま、わたし人参を食べられるようになったのです。エリカが好き嫌いしてはいけないというので、頑張りましたの!」
シャルロットが突然、そのように話します。無言よりも有り難いね。
(ああ、そうなんだ……)
私が知らないところで、エリカも頑張っていたのね。
既にイセリナと私の問題だと考えていましたが、実際にはエリカの問題を私は残しています。
エリカがお姫様になりたいと語った夢。私とイセリナがその位置を奪ってしまったのなら、准男爵でしかないエリカに出番はありません。
私の願望を叶えることはエリカの居場所を奪うことになってしまうのです。
「シャルロット殿下、ご立派です。エリカはさぞかし良い教育者なのでしょうね。一番上のお兄様も彼女から学んではどうでしょうか?」
私は冗談を口にしています。
するとシャルロットは大きく頷いていました。
「それは良いお話です! お兄さまも好き嫌いをなくすべきですよね?」
「ええ、本当に。ピーマンとナスビが食べられないなんて残念ですわ……」
私は軽く返答を終えた。
しかし、問題が発生してしまう。
「アナスタシアさまは何でも知っているのですね! お兄さまはピーマンとナスビが食べられないから、いつも遅れてお食事を取っていますの!」
「アナスタシア嬢、そんなことまで知っておったのだな?」
問われて気付く。現状のアナスタシアが知っているはずのない話だと。
全てイセリナだった頃の記憶。アナスタシアになってから、ルークと食事したのは火竜を退治したあとの晩餐会だけだったのですから。
ま、ここも誤魔化しておこう。
夢のような時間の話は信用してもらえるはずもないのですから……。
1
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。

運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
悪役令嬢のビフォーアフター
すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。
腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ!
とりあえずダイエットしなきゃ!
そんな中、
あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・
そんな私に新たに出会いが!!
婚約者さん何気に嫉妬してない?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる