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第十一章 謀略と憎悪の大地
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「ルークには私を選んで欲しい……」
やっと言えた……。
自分の気持ちに気付いてから、始めて私は未来に向けての台詞を口にしていました。
これまでの告白は決別ばかり。前を向くものなど一つもなかったのです。
当然のこと、ルークは困惑して、イセリナと視線を合わせています。
「ルーク殿下、アナを焚き付けたのはワタクシですの。消去法で選ばれるなんて我慢なりませんわ。エレオノーラやミランダとの比較だなんて納得できませんの。アナと比べて、それでもワタクシが良ければ夜会のあとにでも指輪をくださいな?」
イセリナは私との話をそのまま伝えています。
妾でも良いかなと考えていた私の背中を押したままに。
「いや待てって! 君は俺の婚約者だろう!?」
「間に合わせの婚約者ですわ」
もうルークは何も返せませんでした。
図星を突いていたのは明らか。二人は全てを理解した上で婚約したはずなのですけれど。
「ワタクシは選ばれたいのです。そのあとでなら、アナを妾にしようと好きにしてください」
つえーな、この姫様。もう別にお妃である必要性すら感じさせません。彼女はただ負けたくないだけみたいです。
「そういうわけで、私は地位を得たいと考えています。申し訳ございませんが、ルーク殿下には貴院長選挙に参加しないでくださると助かります」
私は意見をぶつけています。
貴院長選の勝利は私の地位を高めるだけでなく、世界線にとっても重要なファクター。従って対抗馬としてルークが名乗り出ないことを祈るだけです。
「いや、俺は貴院長選への出馬が決定しているんだけど?」
「私に負けるとしても?」
勝てる見込みはないけれど、私は絶対に負けられないの。
世界線を動かす鍵があって、加えて自分自身の未来が切り開かれるのであれば。
「アナと戦うのか……」
「第一王子殿下が敗北するなど、世間に顔向けできないでしょ? ここは身を引いてくださいまし」
自信満々に告げる。私とてルークに汚点が残るなんて嫌だもの。
正直に私は勝つまで死に戻るつもりだから、ルークに勝機はなかったりする。
「いや、俺は真っ向から君に挑みたい……」
どうしてか、イセリナがクスリと笑った。
二人の間で何を話していたのか分からないけれど、彼女は本当に私が登り詰める未来を期待しているのかもしれません。
「どうして?」
「アナは俺の憧れだったから。強くて綺麗な君が好きだったから……」
私は意図せず顔を紅潮させていました。
ルークの気持ちは知っていたのに。真っ直ぐに見つめられると視線を合わせられない。
「本当に強くて格好良かったんだ。俺は今でも間近に見たあの魔法を思い出す。絶対に死んだと思ったのに、アナは火竜二頭を前に一歩も引くことなく詠唱を終えたんだ。凄かったよ。火竜が木っ端みじんに吹っ飛ぶなんて考えもしていなかった……」
それは世界線が捻れた原因なのよ。
ルークは私が格好いいと口にするけれど、私はずっとロナ・メテオ・バーストを撃ち放ったことを後悔していたのに。
「今は好きじゃないの?」
どうしてか、私は次なる台詞を求めている。
流石に言い淀むルーク。イセリナがいる場所で適切な台詞はなかったことでしょう。
「まあ、いいわ。私は舞台に上がるだけよ。ぐうたらなお姫様の話に乗ってあげるの。白黒はっきりさせなくちゃ、私だって前に進めないから」
アマンダがこの世界線を続けろというのなら、私は私なりの答えをこの世界線で見つけ出すだけよ。
「アナ、面白くなってきたわね? 胡蝶蘭の夜会を楽しみにしておくわ」
イセリナがそういうと扉がノックされています。
どうやらレグス近衛騎士団長が酒宴の用意を終えたようです。
ま、呑むっきゃないわ。しらふでこの二人と会話できるはずがないもの。
私は王家が用意した最高級のワインに舌鼓をうつのでした。
やっと言えた……。
自分の気持ちに気付いてから、始めて私は未来に向けての台詞を口にしていました。
これまでの告白は決別ばかり。前を向くものなど一つもなかったのです。
当然のこと、ルークは困惑して、イセリナと視線を合わせています。
「ルーク殿下、アナを焚き付けたのはワタクシですの。消去法で選ばれるなんて我慢なりませんわ。エレオノーラやミランダとの比較だなんて納得できませんの。アナと比べて、それでもワタクシが良ければ夜会のあとにでも指輪をくださいな?」
イセリナは私との話をそのまま伝えています。
妾でも良いかなと考えていた私の背中を押したままに。
「いや待てって! 君は俺の婚約者だろう!?」
「間に合わせの婚約者ですわ」
もうルークは何も返せませんでした。
図星を突いていたのは明らか。二人は全てを理解した上で婚約したはずなのですけれど。
「ワタクシは選ばれたいのです。そのあとでなら、アナを妾にしようと好きにしてください」
つえーな、この姫様。もう別にお妃である必要性すら感じさせません。彼女はただ負けたくないだけみたいです。
「そういうわけで、私は地位を得たいと考えています。申し訳ございませんが、ルーク殿下には貴院長選挙に参加しないでくださると助かります」
私は意見をぶつけています。
貴院長選の勝利は私の地位を高めるだけでなく、世界線にとっても重要なファクター。従って対抗馬としてルークが名乗り出ないことを祈るだけです。
「いや、俺は貴院長選への出馬が決定しているんだけど?」
「私に負けるとしても?」
勝てる見込みはないけれど、私は絶対に負けられないの。
世界線を動かす鍵があって、加えて自分自身の未来が切り開かれるのであれば。
「アナと戦うのか……」
「第一王子殿下が敗北するなど、世間に顔向けできないでしょ? ここは身を引いてくださいまし」
自信満々に告げる。私とてルークに汚点が残るなんて嫌だもの。
正直に私は勝つまで死に戻るつもりだから、ルークに勝機はなかったりする。
「いや、俺は真っ向から君に挑みたい……」
どうしてか、イセリナがクスリと笑った。
二人の間で何を話していたのか分からないけれど、彼女は本当に私が登り詰める未来を期待しているのかもしれません。
「どうして?」
「アナは俺の憧れだったから。強くて綺麗な君が好きだったから……」
私は意図せず顔を紅潮させていました。
ルークの気持ちは知っていたのに。真っ直ぐに見つめられると視線を合わせられない。
「本当に強くて格好良かったんだ。俺は今でも間近に見たあの魔法を思い出す。絶対に死んだと思ったのに、アナは火竜二頭を前に一歩も引くことなく詠唱を終えたんだ。凄かったよ。火竜が木っ端みじんに吹っ飛ぶなんて考えもしていなかった……」
それは世界線が捻れた原因なのよ。
ルークは私が格好いいと口にするけれど、私はずっとロナ・メテオ・バーストを撃ち放ったことを後悔していたのに。
「今は好きじゃないの?」
どうしてか、私は次なる台詞を求めている。
流石に言い淀むルーク。イセリナがいる場所で適切な台詞はなかったことでしょう。
「まあ、いいわ。私は舞台に上がるだけよ。ぐうたらなお姫様の話に乗ってあげるの。白黒はっきりさせなくちゃ、私だって前に進めないから」
アマンダがこの世界線を続けろというのなら、私は私なりの答えをこの世界線で見つけ出すだけよ。
「アナ、面白くなってきたわね? 胡蝶蘭の夜会を楽しみにしておくわ」
イセリナがそういうと扉がノックされています。
どうやらレグス近衛騎士団長が酒宴の用意を終えたようです。
ま、呑むっきゃないわ。しらふでこの二人と会話できるはずがないもの。
私は王家が用意した最高級のワインに舌鼓をうつのでした。
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