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第十一章 謀略と憎悪の大地
秘めたる使命
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えっと、どうしたら良いのかしら?
レグス団長がお酒の用意に向かってから、私たち三人は無言です。
一人黙々とお菓子を摘まむイセリナに、私とルークは視線すら合わせることがありませんでした。
早くお酒が届かないかと考えていたところ、
「アナ、昨日はお疲れさま……」
ルークが口を開いた。
それには同意しかありません。式典のあと、私は各諸侯たちとの団欒や挨拶に大忙しであったのですから。
「それで、最後に話したことだけど、どういう意味なんだ?」
ここで聞くぅ?
少しばかり昂ぶっていたのは事実だけど、私は嘘を口にしていない。本心を朧気に伝えただけです。
感情のまま返答してもいいのですが、とりあえずは防音術式を施し、加えてアンチマジックを部屋全体にかける。
誰かに盗み聞きされただけで、子爵でしかない私の首は軽く飛んでしまうのですから。
「そのままの意味。私は望むものを手に入れるの。だけど、本当に大変なこと。そこの姫様に焚き付けられた結果だけど、私はやろうと思った」
もう隠す必要はないよね。
あと一年。私は望む未来を手に入れるため、あらゆる犠牲を厭わないつもりよ。
「まずは目的達成のため、私自身を今よりも磨かなきゃいけない。手始めに私は北部地域を掌握するつもりなの」
ルークは眉根を寄せていました。
まだ分からないみたいね。私の決意。人生の全てを擲つ覚悟を。
「副都リーフメルの領主になってみせるわ……」
具体的な返答にはルークだけでなく、イセリナも固まっています。唖然として、私を見つめるだけです。
「いや、そんなこと……。リーフメルにはメルヴィス公爵がいるんだぞ?」
「分からない? 私の所領は彼の所領と隣接しているのよ? ランカスタ公爵家の庇護下にある私は確実に狙われる。だからこそ、返り討ちにしてあげるの」
メルヴィス公爵家は今もまだ権力を欲しているはず。
ランカスタ公爵家の躍進が私のおかげだと知っているのだし、間違いなく私は狙われることになるでしょう。
「何もしてこなければ?」
「してこないはずがないでしょ? イセリナを毒殺しようとしたのよ? 領地の隣に越してきた私を見逃すはずがないわ」
流石にルークも頷いています。
権力争いは終盤戦に差し掛かっている。モルディン大臣の退任が噂される今、後任に手を挙げているのは二人しかいないのですから。
「アナ、大丈夫なの?」
「これまで私がどれだけ死線をくぐり抜けて来たと思っているのよ? ご老人一人くらいわけないわ」
サマンサのマキシム侯爵家が取り潰しになったのは幸いです。所領の周辺にはもう伯爵家くらいしかありません。
私は子爵でしかありませんけれど、伯爵に脅されるくらいはどうってことないと考えています。
「カルロ殿下が天に還った今、私は自分が望むように生きたい。たとえ愛の女神アマンダの意志に背いていたとしても……」
「大袈裟だな? 愛の女神アマンダがアナに何を願うっていうんだ?」
ルークは何も知りません。
教えるつもりもありませんでしたが、私が歩み出した理由を語らねばならないでしょうね。
「お告げというかね、天命というか……。私はプロメティア世界の安寧を願われたの。夢に降臨されたアマンダ様はこう仰ったわ」
とりあえず夢だということにしておこう。真偽が分からぬ話として濁しておくべきなの。
私を突き動かす使命については……。
「セントローゼス王家が魔王を降臨させると……」
レグス団長がお酒の用意に向かってから、私たち三人は無言です。
一人黙々とお菓子を摘まむイセリナに、私とルークは視線すら合わせることがありませんでした。
早くお酒が届かないかと考えていたところ、
「アナ、昨日はお疲れさま……」
ルークが口を開いた。
それには同意しかありません。式典のあと、私は各諸侯たちとの団欒や挨拶に大忙しであったのですから。
「それで、最後に話したことだけど、どういう意味なんだ?」
ここで聞くぅ?
少しばかり昂ぶっていたのは事実だけど、私は嘘を口にしていない。本心を朧気に伝えただけです。
感情のまま返答してもいいのですが、とりあえずは防音術式を施し、加えてアンチマジックを部屋全体にかける。
誰かに盗み聞きされただけで、子爵でしかない私の首は軽く飛んでしまうのですから。
「そのままの意味。私は望むものを手に入れるの。だけど、本当に大変なこと。そこの姫様に焚き付けられた結果だけど、私はやろうと思った」
もう隠す必要はないよね。
あと一年。私は望む未来を手に入れるため、あらゆる犠牲を厭わないつもりよ。
「まずは目的達成のため、私自身を今よりも磨かなきゃいけない。手始めに私は北部地域を掌握するつもりなの」
ルークは眉根を寄せていました。
まだ分からないみたいね。私の決意。人生の全てを擲つ覚悟を。
「副都リーフメルの領主になってみせるわ……」
具体的な返答にはルークだけでなく、イセリナも固まっています。唖然として、私を見つめるだけです。
「いや、そんなこと……。リーフメルにはメルヴィス公爵がいるんだぞ?」
「分からない? 私の所領は彼の所領と隣接しているのよ? ランカスタ公爵家の庇護下にある私は確実に狙われる。だからこそ、返り討ちにしてあげるの」
メルヴィス公爵家は今もまだ権力を欲しているはず。
ランカスタ公爵家の躍進が私のおかげだと知っているのだし、間違いなく私は狙われることになるでしょう。
「何もしてこなければ?」
「してこないはずがないでしょ? イセリナを毒殺しようとしたのよ? 領地の隣に越してきた私を見逃すはずがないわ」
流石にルークも頷いています。
権力争いは終盤戦に差し掛かっている。モルディン大臣の退任が噂される今、後任に手を挙げているのは二人しかいないのですから。
「アナ、大丈夫なの?」
「これまで私がどれだけ死線をくぐり抜けて来たと思っているのよ? ご老人一人くらいわけないわ」
サマンサのマキシム侯爵家が取り潰しになったのは幸いです。所領の周辺にはもう伯爵家くらいしかありません。
私は子爵でしかありませんけれど、伯爵に脅されるくらいはどうってことないと考えています。
「カルロ殿下が天に還った今、私は自分が望むように生きたい。たとえ愛の女神アマンダの意志に背いていたとしても……」
「大袈裟だな? 愛の女神アマンダがアナに何を願うっていうんだ?」
ルークは何も知りません。
教えるつもりもありませんでしたが、私が歩み出した理由を語らねばならないでしょうね。
「お告げというかね、天命というか……。私はプロメティア世界の安寧を願われたの。夢に降臨されたアマンダ様はこう仰ったわ」
とりあえず夢だということにしておこう。真偽が分からぬ話として濁しておくべきなの。
私を突き動かす使命については……。
「セントローゼス王家が魔王を降臨させると……」
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