青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

文字の大きさ
上 下
241 / 377
第十一章 謀略と憎悪の大地

秘めたる使命

しおりを挟む
 えっと、どうしたら良いのかしら?

 レグス団長がお酒の用意に向かってから、私たち三人は無言です。

 一人黙々とお菓子を摘まむイセリナに、私とルークは視線すら合わせることがありませんでした。

 早くお酒が届かないかと考えていたところ、

「アナ、昨日はお疲れさま……」

 ルークが口を開いた。

 それには同意しかありません。式典のあと、私は各諸侯たちとの団欒や挨拶に大忙しであったのですから。

「それで、最後に話したことだけど、どういう意味なんだ?」

 ここで聞くぅ?

 少しばかり昂ぶっていたのは事実だけど、私は嘘を口にしていない。本心を朧気に伝えただけです。

 感情のまま返答してもいいのですが、とりあえずは防音術式を施し、加えてアンチマジックを部屋全体にかける。

 誰かに盗み聞きされただけで、子爵でしかない私の首は軽く飛んでしまうのですから。

「そのままの意味。私は望むものを手に入れるの。だけど、本当に大変なこと。そこの姫様に焚き付けられた結果だけど、私はやろうと思った」

 もう隠す必要はないよね。

 あと一年。私は望む未来を手に入れるため、あらゆる犠牲を厭わないつもりよ。

「まずは目的達成のため、私自身を今よりも磨かなきゃいけない。手始めに私は北部地域を掌握するつもりなの」

 ルークは眉根を寄せていました。

 まだ分からないみたいね。私の決意。人生の全てを擲つ覚悟を。

「副都リーフメルの領主になってみせるわ……」

 具体的な返答にはルークだけでなく、イセリナも固まっています。唖然として、私を見つめるだけです。

「いや、そんなこと……。リーフメルにはメルヴィス公爵がいるんだぞ?」

「分からない? 私の所領は彼の所領と隣接しているのよ? ランカスタ公爵家の庇護下にある私は確実に狙われる。だからこそ、返り討ちにしてあげるの」

 メルヴィス公爵家は今もまだ権力を欲しているはず。

 ランカスタ公爵家の躍進が私のおかげだと知っているのだし、間違いなく私は狙われることになるでしょう。

「何もしてこなければ?」

「してこないはずがないでしょ? イセリナを毒殺しようとしたのよ? 領地の隣に越してきた私を見逃すはずがないわ」

 流石にルークも頷いています。

 権力争いは終盤戦に差し掛かっている。モルディン大臣の退任が噂される今、後任に手を挙げているのは二人しかいないのですから。

「アナ、大丈夫なの?」

「これまで私がどれだけ死線をくぐり抜けて来たと思っているのよ? ご老人一人くらいわけないわ」

 サマンサのマキシム侯爵家が取り潰しになったのは幸いです。所領の周辺にはもう伯爵家くらいしかありません。

 私は子爵でしかありませんけれど、伯爵に脅されるくらいはどうってことないと考えています。

「カルロ殿下が天に還った今、私は自分が望むように生きたい。たとえ愛の女神アマンダの意志に背いていたとしても……」

「大袈裟だな? 愛の女神アマンダがアナに何を願うっていうんだ?」

 ルークは何も知りません。

 教えるつもりもありませんでしたが、私が歩み出した理由を語らねばならないでしょうね。

「お告げというかね、天命というか……。私はプロメティア世界の安寧を願われたの。夢に降臨されたアマンダ様はこう仰ったわ」

 とりあえず夢だということにしておこう。真偽が分からぬ話として濁しておくべきなの。

 私を突き動かす使命については……。

「セントローゼス王家が魔王を降臨させると……」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

【完結】あなたの瞳に映るのは

今川みらい
恋愛
命を救える筈の友を、俺は無慈悲に見捨てた。 全てはあなたを手に入れるために。 長年の片想いが、ティアラの婚約破棄をきっかけに動き出す。 ★完結保証★ 全19話執筆済み。4万字程度です。 前半がティアラside、後半がアイラスsideになります。 表紙画像は作中で登場するサンブリテニアです。

【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに

おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」 結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。 「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」 「え?」 驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。 ◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話 ◇元サヤではありません ◇全56話完結予定

あなたの側にいられたら、それだけで

椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。 私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。 傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。 彼は一体誰? そして私は……? アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。 _____________________________ 私らしい作品になっているかと思います。 ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。 ※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります ※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

処理中です...