239 / 377
第十一章 謀略と憎悪の大地
やるべきこと
しおりを挟む
新年早々の授爵式が終わり、私は所領であるエスフォレスト地方の主要都市クルセイドへ赴く計画を立てています。
「困ったなぁ。貴院長選に出るのなら、三月まで動けないわ……」
できること全てを成す。
少しでも早くクルセイドの住民に私が領主であることを知らせたいと考えていますが、禁書庫での閲覧許可を目指す私は貴院長選をスルーできずにいます。
もう私はルークしか見ていないのです。
それはつまりセシルの枠が空くことでありまして、そこにエリカが収まる可能性は少なからずありました。
「古代魔法は禁書扱いでもおかしくない。何かしら、情報が得られるはず」
世界線を動かすのであれば、やはり禁書庫の閲覧権は必須。この世界線に入ったのは私の責任であり、そもそも停滞する世界を動かすことは私の使命でもあるのですから。
「暴動とか起きなきゃいいけど……」
ただでさえ十七歳の少女が領主です。
少なからず不満に感じている住民がいるはずで、姿すら見せないなんて許される話じゃないような気がする。
「貴院長選に出馬するのは私の使命だ……」
こうなると新年早々の授爵式はタイミングが悪いと思えてなりません。
所領を得るのなら、延期してもらうべきであったかと思います。
「ま、しょうがない。ペガサスで往復する手もあるし……」
ここは髭に泣きついてみよう。
ランカスタ公爵家ならペガサスを持っているし、ペガサスであれば二日あれば視察をして戻ってこれるのですから。
「アナ、入るわよ?」
自室で色々と思案していると、イセリナが入ってきました。
「入ってから、聞くのはどうなの?」
「いいじゃない。ここはワタクシの家なんだもの」
それを言われるとぐうの音も出ないわ。
私は単に居候。家主の気分次第でどうとでもなる存在でしかない。
「じゃあ、何の用? これでも私は忙しいのだけど?」
「ワタクシは暇なのよ。だから相手をしなさい」
えっと、私は忙しいっていったよね? 暇人の相手をしている時間なんてないっての。
「昼寝でもしてなさいよ……」
「お昼寝から起きたところですの!」
どうしようもないな、この人……。
夕飯まで眠っててくれたら助かったのに、変な時間に目覚めちゃうなんて最悪だわ。
「アナは何をしていたの?」
「いや、クルセイドに顔見せにいかなきゃと思ってね」
「ああ、アナの所領でしたわね。では今から行きましょうか」
「いやいや、流石に急すぎるよ……」
私だって予定くらいある。
それに現地に連絡もせずに向かうなんて非常識すぎるわ。
「そういえば、北部で当年ワインの瓶詰めが始まったとお父様が話しておられましたね……」
「イセリナ、ペガサスを用意して!」
私は掌を返しています。
別に飲んだくれるつもりはないのですが、領主として新酒の品質を確認しておかなきゃ。
「現金ですわねぇ。王城のペガサスを借りられるかしら?」
ランカスタ公爵家の別邸にペガサスはおりません。従ってイセリナは王城のペガサスを借り受けるように話します。
「えっと、大丈夫なの?」
「ワタクシは第一王子殿下の婚約者ですわ! クロでもシロだと言い張ってみせます!」
稀少なペガサスと言えども、王城には巨大なペガサスの馬房がありますので、借りるくらいはできるかもね。
私たちは直ぐさま王城へと向かいました。イセリナだけでなく、今や私も顔パスです。
「ペガサスの管理って、やっぱ騎士団管轄よね……」
馬房に向かったとして許可がなければ借りられません。恐らく責任者はレグス近衛騎士団長か、彼以上の存在であるはず。
しかしながら、彼はルークの側付騎士。急激にテンションが下がったのは語るまでもないでしょう。
躊躇する私にイセリナは笑みを浮かべて言いました。
レグス団長の居場所を言い当てるかのように。
「アナ、王宮殿へ向かいますわよ!」
「困ったなぁ。貴院長選に出るのなら、三月まで動けないわ……」
できること全てを成す。
少しでも早くクルセイドの住民に私が領主であることを知らせたいと考えていますが、禁書庫での閲覧許可を目指す私は貴院長選をスルーできずにいます。
もう私はルークしか見ていないのです。
それはつまりセシルの枠が空くことでありまして、そこにエリカが収まる可能性は少なからずありました。
「古代魔法は禁書扱いでもおかしくない。何かしら、情報が得られるはず」
世界線を動かすのであれば、やはり禁書庫の閲覧権は必須。この世界線に入ったのは私の責任であり、そもそも停滞する世界を動かすことは私の使命でもあるのですから。
「暴動とか起きなきゃいいけど……」
ただでさえ十七歳の少女が領主です。
少なからず不満に感じている住民がいるはずで、姿すら見せないなんて許される話じゃないような気がする。
「貴院長選に出馬するのは私の使命だ……」
こうなると新年早々の授爵式はタイミングが悪いと思えてなりません。
所領を得るのなら、延期してもらうべきであったかと思います。
「ま、しょうがない。ペガサスで往復する手もあるし……」
ここは髭に泣きついてみよう。
ランカスタ公爵家ならペガサスを持っているし、ペガサスであれば二日あれば視察をして戻ってこれるのですから。
「アナ、入るわよ?」
自室で色々と思案していると、イセリナが入ってきました。
「入ってから、聞くのはどうなの?」
「いいじゃない。ここはワタクシの家なんだもの」
それを言われるとぐうの音も出ないわ。
私は単に居候。家主の気分次第でどうとでもなる存在でしかない。
「じゃあ、何の用? これでも私は忙しいのだけど?」
「ワタクシは暇なのよ。だから相手をしなさい」
えっと、私は忙しいっていったよね? 暇人の相手をしている時間なんてないっての。
「昼寝でもしてなさいよ……」
「お昼寝から起きたところですの!」
どうしようもないな、この人……。
夕飯まで眠っててくれたら助かったのに、変な時間に目覚めちゃうなんて最悪だわ。
「アナは何をしていたの?」
「いや、クルセイドに顔見せにいかなきゃと思ってね」
「ああ、アナの所領でしたわね。では今から行きましょうか」
「いやいや、流石に急すぎるよ……」
私だって予定くらいある。
それに現地に連絡もせずに向かうなんて非常識すぎるわ。
「そういえば、北部で当年ワインの瓶詰めが始まったとお父様が話しておられましたね……」
「イセリナ、ペガサスを用意して!」
私は掌を返しています。
別に飲んだくれるつもりはないのですが、領主として新酒の品質を確認しておかなきゃ。
「現金ですわねぇ。王城のペガサスを借りられるかしら?」
ランカスタ公爵家の別邸にペガサスはおりません。従ってイセリナは王城のペガサスを借り受けるように話します。
「えっと、大丈夫なの?」
「ワタクシは第一王子殿下の婚約者ですわ! クロでもシロだと言い張ってみせます!」
稀少なペガサスと言えども、王城には巨大なペガサスの馬房がありますので、借りるくらいはできるかもね。
私たちは直ぐさま王城へと向かいました。イセリナだけでなく、今や私も顔パスです。
「ペガサスの管理って、やっぱ騎士団管轄よね……」
馬房に向かったとして許可がなければ借りられません。恐らく責任者はレグス近衛騎士団長か、彼以上の存在であるはず。
しかしながら、彼はルークの側付騎士。急激にテンションが下がったのは語るまでもないでしょう。
躊躇する私にイセリナは笑みを浮かべて言いました。
レグス団長の居場所を言い当てるかのように。
「アナ、王宮殿へ向かいますわよ!」
1
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
【完結】あなたの瞳に映るのは
今川みらい
恋愛
命を救える筈の友を、俺は無慈悲に見捨てた。
全てはあなたを手に入れるために。
長年の片想いが、ティアラの婚約破棄をきっかけに動き出す。
★完結保証★
全19話執筆済み。4万字程度です。
前半がティアラside、後半がアイラスsideになります。
表紙画像は作中で登場するサンブリテニアです。
【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに
おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」
結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。
「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」
「え?」
驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。
◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話
◇元サヤではありません
◇全56話完結予定
あなたの側にいられたら、それだけで
椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。
私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。
傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。
彼は一体誰?
そして私は……?
アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。
_____________________________
私らしい作品になっているかと思います。
ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。
※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります
※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる