青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

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第十一章 謀略と憎悪の大地

宣戦布告

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 少しばかり緊張しつつ、私はガゼル陛下の話を聞いていました。

 先日の夜会が人生のクライマックスだと感じた私なのですけれど、こんな今も同じように鼓動が高鳴っています。

「アナスタシア・スカーレットに子爵位を授ける!」

 まるで世界中に轟くかのような声。ガゼル陛下の宣言によって、私は正式に貴族となった。副都リーフメルに隣接する土地の領主となったのです。

 このあと、褒美に関する目録が読み上げられ、私は子爵としての所信表明をすることに。

「皆様、ご紹介にあずかりましたアナスタシア・スカーレットでございます。ご存じかと思いますが、私は紆余曲折を経てこの場にいさせていただいております。ただし、常に自身の正義に基づき行動した結果であり、それが評価されるのであれば嬉しく存じます」

 まずは私の来歴とばかりに簡単な説明を。

 全てを語るのは時間が足りませんので、過度に端折っておりますけれど。

「本当に色々とありました。王国を去った折り、二度と戻ってくることはないと考えていたのですが、どうやら天命は私を導いていたようです。再び祖国の土を踏めましたこと、更には身分不相応な厚遇には感謝しかございません。愛の女神アマンダに誓って、今後とも祖国のため、所領のために尽力していきたい所存です」

 取って付けたような所信表明でしたが、大きな拍手が返されていました。

 見渡す限りの人。全員が私を称えてくれています。

(こんなものかしら?)

 グルリと会場を見渡す。

 こんなにも評価されるなんて本当に恐縮です。言葉とは裏腹に私は国のためではなく、単に逃げ回っていたのですから。

(あっ……?)

 ふとルークの姿が目に入りました。

 壇上には私とガゼル王だけでありまして、王家の方々は観覧席の最前列に並ばれているのです。

 私はそこにルークとイセリナの姿を見つけています。

 ふぅっと息を吐く。所信表明はもう終わりであったはずが、どうしてか私は言葉を繋げていました。

「私は力を手に入れたい……」

 どうしてか、更なる力を求める話が自然と口を衝く。

 少女には過ぎた力を既に得ていたというのに。

「全てを手に入れるまで、私への罰は続く。これまで私は人生を諦めていました。サルバディール皇国に亡命した頃から、先日まで絶望していたのです。何のために生きているのか、誰のために生きているのか。幾ら自問自答しようと、人生は暗く澱むだけでした。だからこそ、私は望む全てを手に入れたい……」

 式典で何を口走っているのか、私にも分からない。でも、ルークが私を見ているのなら、私は伝えなきゃいけない。

 私の覚悟を。

 絶望という底なし沼へと落ちた人生に再び光が差し込むように。

「貴方が私の全てです……」

 これ以上は口にできない。まともに思考できるのはここまでだ。

 これ以上は伝えられない。晴れの日に涙を流すなんて事態は避けなければいけません。

 このあと私は深々と膝を折り、感謝を伝えて壇上を去る。

 当然のこと誰一人として意味を理解していないのですが、私が歩き始めるや、とりあえず的な拍手が送られていました。

「姫、何ですかあれは?」

 コンラッドは苦笑いを浮かべています。

 ま、彼くらいでしょうね。真意を問う人がいるとすれば。

「宣戦布告よ……」

 私はそう返しています。

 ぶっちゃけ誰にも伝わっていないのだけど、それでも構わない。私自身がもう逃げないと覚悟できたのなら。

「コンラッド、王座を取るわよ?」

 続けた話にコンラッドは目を丸くする。

 これまでの私を知る彼には意外な話であったのかもしれません。

「いよいよですか。正直に待ちくたびれました。私にできることはございますか?」

「もちろん。私は最低でも伯爵位を得なければならない。今よりもずっと大きな功績を手に入れなければならないのよ。ちょうど北部に所領ができたしね?」

 濁した内容でしたが、コンラッドはほくそ笑んでいます。

 それはもう式典に不似合いな邪悪にも感じる笑みでした。

「承知しました。リーフメルに潜伏いたします……」

「理解が早くて何よりだわ。一応は魔道書の捜索もお願いね?」

「御意に。北部の掌握が待ち遠しいですな……」

 皆まで口にするコンラッドを睨み付けます。

 式典にはメルヴィス公爵も来場されているのです。迂闊な話をすべきではないと。

「コンラッド、あとには戻れないわよ?」

「姫、私はどこまでもお供させていただくつもりですから」

 言ってコンラッドは一足先に会場を後にしていく。

 まったく、気が早いな。コンラッドは執事役でもあるというのに。

 私は再び前を向くことにしました。どうせなら、幸せになりたい。

 どうにかして、幸せになりたかった……。
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