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第十一章 謀略と憎悪の大地

授爵式

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 王太子妃の椅子を争うことにした私は、いきなり王城へと呼ばれていました。

 本日は私ことアナスタシア・スカーレットの授爵式でありまして、盛大に式典が執り行われる予定です。

 場所は王宮の離れにある燕子花《かきつばた》の間。夜会があった胡蝶蘭の館から回廊を挟んで西側に位置する建物です。


 時間まで着付けと化粧をしてもらっていたのですが、控え室には家族が勢揃いすることに。

「アナ、見違えたぞ? スカーレット家の赤髪がなければ、どこぞの上位貴族にしか見えん」

 ダンツが目を細めて言いました。

 髭に買ってもらったドレスだしね。スカーレット子爵家には逆立ちしたって買えない超高級ドレスですから。

「アナちゃん、綺麗よ! でも、少しくらい家に帰ってきなさいよね?」

「ああ、ごめんね。貴族院を卒業したら帰るから」

 母メイアは目に涙を浮かべています。

 実をいうと母に会うのは五年ぶり。失踪とか隣国の皇太子に拉致されていたため、ようやくの再会でした。

「お姉ちゃん、とっても綺麗だよ!」

「レクシルも大きくなったわね? もう十四歳だっけ?」

 最後は愛しき弟レクシルです。久しぶりに会う天使の笑顔は私を癒しています。

「姫、そろそろ会場の方へ……」

 コンラッドも戻っていました。式典の噂を聞きつけて帰ってきたみたいです。

「それじゃ、行きましょうかね!」

「頑張れ、アナ!」

「アナちゃん、頑張ってね!」

「お姉ちゃんなら大丈夫!!」

 えっと、ねぇ……。我が残念なる家族たちは盛大に誤解しているわ。

 頑張った成果が式典であるというのに、まるで今から試験を受けに行くような感じ。


 執事に扮したコンラッドを引き連れ、壇上へと向かいます。

 家族は途中で観覧席へと行くことになり、コンラッドは付き人として舞台袖まで一緒です。

「姫、一応は警戒してください。子爵位授爵に関して反対していたのはメルヴィス公爵家の筋。寄子に何やら指示している可能性もございます」

 コンラッドが耳打ちをした。

 まあそうでしょうね。ミランダと同い年である私の授爵を望んではいないはず。まして私は名ばかりの子爵ではないのです。

 所領に関してはお断りしていたというのに、イセリナの暗殺未遂で廃爵となったマキシム侯爵領を私は引き継ぐことになっています。

 空白地であった侯爵領の領主に私が選ばれてしまったのですから、隣接するメルヴィス公爵は面白くないことでしょう。

「それは面白いわね? 幾らでも相手になってあげるわ」

「姫、晴れの日くらいは大人しくされてはどうです?」

「暗殺者にしては控えめなのね?」

 私たちは舞台袖で笑い合っています。

 前に進むと決めたんだ。ご老人の世話をしてる暇はないっての。

 ガゼル陛下のお話があったあと、ようやく私の名が呼ばれています。

 万雷の拍手の中、私は子爵位を授かることに。

 物怖じせず堂々と私は壇上へと向かうのでした。
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