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第十一章 謀略と憎悪の大地

禁じられた未来

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「当然、断られましたが、貴院長になれば入室できると聞きましたわ」

 イセリナは無謀にも禁書庫の閲覧を申し出ただけでなく、唯一の方法を聞き出したようです。

「本当に? てか、貴院長ってルークがなるものじゃないの?」

 前世でも確かに選挙を行ったのですが、ルークの圧勝でした。

 私は選挙の手伝いをしていたのですけれど、対抗馬が侯爵家の次男坊では格が違いすぎましたね。

「それはアナ次第よ。殿下は立候補されるみたいですけど、アナなら勝てますわ! なぜなら、ワタクシはアナに投票するからですの!」

 えっと、それはどうなの? 婚約者を差し置いて私に投票するって。

 しかも、自分が投票するから勝てるだなんて自信過剰も良いところだわ。

「でもなぁ……」

「夜会での注目を見たでしょう? 貴族たちは貴方の動向が気になっている。天下を取るチャンスですわ!」

「大袈裟な……」

 まあしかし、基本的に貴院長となれば将来は安泰です。

 やらかしたアルバートでさえも、ゆくゆくは国の中枢を担うことになるはずですから。

「ワタクシは是が非でも、アナに地位を得て欲しいのです」

 悪役令嬢らしくない話です。

 これって友情パワー系の何か? 私が地位を得たとしてどうなるっての?

「貴院長になったぐらいで、何も変わらないわ」

「そうかしら? その年で一人しか選ばれない貴院長になること。火竜の聖女の名声は高まることでしょう」

 意味のない話をイセリナは続ける。

 どれだけ注目されたとして、やはり王子殿下を相手に勝ち目などありません。加えて名声を得たところで、私には何の意味もない。

 しかし、イセリナは思いもしない話を始めていました。

「ルーク殿下が選びやすくなる――」

 難解な話です。私は眉根を寄せ、考え込む。今さらルークが何を選ぶのかと。

 理解していないような私にイセリナが続けます。

「ルーク殿下に選んでいただかないことには納得できませんの。現状のワタクシは消去法で選ばれた婚約者ですわ。よくよく考えると、アナに勝ち逃げされたように思いませんこと?」

「いや、私はそもそも選択肢に入ってないよ!?」

 私はただの子爵令嬢です。王子殿下のお相手として相応しいものではありません。

「そんなの関係ありませんの。ワタクシはこの婚約が悪くないものだと思いました。従って全てを手に入れたい。身分や名声といったものは必然とワタクシのものとなるでしょうが、手に入らないものがあります。形式上の婚約者であるワタクシには……」

 凛とした表情を向けるイセリナ。彼女は何が欲しいのかを告げました。

「殿下の全てを手に入れたい」

 どこで心境に変化が起きたのか分かりません。

 婚約破棄とか口にしていたというのに、今は一転してルークを求めるような発言をしています。

「全てが欲しい?」

「そのままですわ。現状のワタクシは当て馬ですもの。だけど、面白くありませんわ。気持ちがアナに向いたままでは負けた気がしますの」

 難しい人だね、ホントに。

 要約すると、ルークが今も私を愛している……って本気で言ってるの!?

「ちょっと待って! 先日のダンスでルークは心残りがなくなったって言ってたんだよ!?」

「それは貴方がまだ舞台に上がっていないからよ。彼が選択できるレベルにアナがいないだけ。選択肢に加われば、彼はきっと貴方を選ぶわ……」

 どうやらイセリナは本気で言っているらしい。

 区切りをつけたかのようなルークでしたが、それは本心を欺いた結論なのだと。

「アナには貴院長となって欲しい。その上でワタクシを選んでもらえたのなら、ワタクシも満足できますわ。納得をして王家に嫁げるというものですの」

 イセリナは私が貴院長を目指すように、背中を押し続けています。よく分からない勝負がしたいと、本気で考えているみたい。

「今のままじゃ納得できないの?」

「じゃあ、逆に言いますけれど……」

 歯に衣着せない物言いは相変わらずなのですが、これでもイセリナは私を心配してくれている。

 だからこそ、口にするのね。私の心情を掻き乱すような言葉を……。

「アナは妾で構わないの……?」
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