青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

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第十一章 謀略と憎悪の大地

夜会のあと

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 胡蝶蘭の夜会を終え、私は魔法の構築に精を出していました。

 ルークに誰とも婚約しないと伝えたのです。

 それはセシルの相手をエリカに委ねるということ。つまり私はもう恋愛ゲームに参加しない。エリカの闇属性排除が世界線の維持に必須となっていました。

「コンラッドが新しい魔道書を手に入れてくれたならなぁ……」

 解毒魔法や浄化魔法といった術式をベースとして構わないと考えますが、どうしても属性を示す構文が思いつきません。

「あのとき読んでおけば良かったわ……」

 一つ前の世界線で魔道書を持ち帰ったコンラッドでしたが、今の世界線では発見できなかったようです。

「光属性まで消しちゃったら、エリカは聖女でもなくなってしまうし……」

 BlueRoseは何という設定にしてくれたのだと嘆息するしかない。

 エリカが闇墜ちするシナリオは割と面白かったのですけれど、それを正す身となってしまった現在では余計な設定だとしか思えないのよね。

「アナ、入るわよ?」

 ノックもせずにイセリナが部屋へと入ってきます。

「がぁぁっ!!」

 暇を持て余していたマリィは直ぐさま彼女の肩へと飛び乗る。

 すっかり仲良しな二人ですけれど、私は溜め息を吐くしかありません。

「どうしたの? 夜会に参加してから、また根を詰めてるじゃない?」

「まあね。ルークと踊って、すべきことに気付いたのよ」

 私が目指すべきルートは明確になった。従って、一分一秒を無駄にしたくない。

「でも駄目だわ。千年は軽くかかりそう……」

 手がかりのない現状で幾ら考えても無駄。現代魔法ではなく、古代エルフ文字での構築が必須なんだもの。

 複雑な多重魔法陣は古代エルフ文字でしか成し得ないのです。

「何が問題なの?」

「古代エルフ文字の資料が足りない。神が定めた理を破壊しようとしているんだけど」

「まぁた、アナは世界征服でも考えているの?」

 失敬な。私は世界の安寧を目指して頑張っているのよ。

 呆れたようなイセリナですが、不意に彼女は思いもしない話を始めた。

「古代エルフ文字が何なのか知りませんけれど、王家の禁書庫であれば蔵書があるんじゃない?」

 王家の禁書庫は王家のみが閲覧できる秘蔵図書室です。

 前世の私であれば閲覧可能でしたけれど、結婚してからは特に必要な情報がありませんでした。

 よって私は禁書庫に入った経験がなかったのです。まさか再び転生するなんて思わなかったし。

「禁書庫かぁ。閲覧するには王家の誰かと結婚しなきゃ無理でしょ。それじゃ、遅いのよねぇ」

 未成年者の結婚は許されていないのです。

 もしも私が禁書庫に入ることができるのであれば、それは十八歳以降にセシルと結婚したあとになります。

 しかも、セシルは一つ年下なので、十九歳にならなければ、閲覧できません。

「アナは知らないの? 一応は閲覧できる可能性があるわよ?」

 どうしてかイセリナは私が知らない情報を持っているらしい。

「どうして知っているの?」

「ワタクシ、殿下に呼ばれて登城した折りには本を読んでいますの。まあそれで、読む本がなくなったので、禁書庫へ案内して欲しいと聞いたのですわ」

 えっと、婚約者に呼び出されて、本を読んでいるの? せめて、愛想を振りまいて仲良くなる時間にしなさいよ。

 これほどやる気のないご令嬢に成長してしまうなんて、どこの誰が教育したっての。

「当然、断られましたが……」

 イセリナは続ける。

 私が望む情報の入手方法について。

「貴院長になれば入室できると聞きましたわ」
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