230 / 377
第十章 闇夜に咲く胡蝶蘭
黒薔薇に魅せられて
しおりを挟む
遂に胡蝶蘭の夜会が始まっていました。
とはいえ、パートナーは既に帰ってしまいましたので、私は壁際が確定しています。
稀少なシャンパンが置いてる隣に突っ立ったままで、飲み干すや腕を伸ばして執事についでもらうを繰り返していました。
「アナスタシア様は踊らないのでしょうか……?」
もう既に三曲目くらいでしょうか。 シャンパンボトルを持つ執事が話しかけてきました。
今もまだ最初のパートナーと全員が踊っているので、あぶれた私が踊る機会などないというのに。
「私は一人ですのよ? なのでシャンパンをいただいております。それとも貴方様が踊ってくれるのかしら?」
「滅相もない! 私は別にそのドレスが悪いとは感じません。寧ろ、貴方様の髪色が映えて、とても美しいとさえ感じます。なので、貴方様が壁際で誘いを待たれないのは勿体ない気がしております」
まあ確かに。壁に背を預けている現状で誘いがあるはずもないのです。
誘いを待つのであれば、ダンスする周囲を取り囲むようにしていなければなりません。
「それはありがとう。でもね、私はこのシャンパンが気に入ったの。全部飲み干すまで帰らないわよ?」
「それでしたら、屋内ではなく、屋外に参りましょうか。私はダンスパートナーを務められませんけれど、専属のバトラーとして貴方様に相応しい場所へご案内することができましょう」
屋外の会場とはテラスエリア。ノブレスガーデンにせり出している白亜の舞台であり、王族や国賓たちの観覧席もそこにありました。
「私に惨めな思いをさせたいの?」
「いえいえ、逆ですよ。私は貴方様が輝く場所へと導くだけ。テラスは床一面が白く輝いております。貴方様のドレスは誰よりも映えて美しく見えることでしょう。そもそも貴方様を見ようと集まった来賓の方が多くいると聞いております。恥ずかしがらずに、向かいましょうか」
執事は私の返事を聞くことなく、ボトルを積んだ台車を押していく。
ちょっと待って。
シャンパンがなくなったら、私がここにいる意味合いがないじゃないの。待ちなさいってば……。
渋々と私は執事について行きます。
さりとて、胡蝶蘭の館は迎賓館のような場所であって、広大なテラスに私一人が迷い込んだとして誰も気付かないことでしょう。
ところが、ちょうど曲が終わった瞬間であり、静まり返ったテラスに私は踏み込んでいました。
刹那に拍手が送られています。
最初は小さかったそれは私がテラスへと進むにつれて大きくなり、今や引き返すことを許さぬほど万雷の拍手となっていました。
「あれ……?」
意図せず前世の記憶が蘇っています。ルークに手を引かれて、初めてテラスへと入った瞬間のこと。
あのときも地鳴りのような拍手が私を出迎えてくれたのです。
「アナスタシア様、堂々となさってください。やはり全員が貴方様の登場を待たれていたようです」
今となっては否定などできません。私が挨拶するまで、この拍手が鳴り止みそうもなかったから。
私はドレスの裾を上げ、観覧席に向け礼をしています。
このようなドレスで申し訳ないと。シャンパンにつられてやって来ただけなんです。
私の挨拶を待っていたのか、次の演奏が始まっています。
とりあえず、観覧席の下側にある壁際に姿を消す。顔を見せただけで充分だろうと。
「早くつぎなさい!」
「アナスタシア様はお強いですねぇ」
執事が笑っています。
でも、仕方ないでしょ? テラスに踏み入れてしまえば、嫌でも目に入る。
ルークとイセリナのダンスが。
前世で踊った記憶を客観的に見せつけられてしまうの。
お酒でも呑んでいないと、それこそ感情に呑まれてしまうわ……。
とはいえ、パートナーは既に帰ってしまいましたので、私は壁際が確定しています。
稀少なシャンパンが置いてる隣に突っ立ったままで、飲み干すや腕を伸ばして執事についでもらうを繰り返していました。
「アナスタシア様は踊らないのでしょうか……?」
もう既に三曲目くらいでしょうか。 シャンパンボトルを持つ執事が話しかけてきました。
今もまだ最初のパートナーと全員が踊っているので、あぶれた私が踊る機会などないというのに。
「私は一人ですのよ? なのでシャンパンをいただいております。それとも貴方様が踊ってくれるのかしら?」
「滅相もない! 私は別にそのドレスが悪いとは感じません。寧ろ、貴方様の髪色が映えて、とても美しいとさえ感じます。なので、貴方様が壁際で誘いを待たれないのは勿体ない気がしております」
まあ確かに。壁に背を預けている現状で誘いがあるはずもないのです。
誘いを待つのであれば、ダンスする周囲を取り囲むようにしていなければなりません。
「それはありがとう。でもね、私はこのシャンパンが気に入ったの。全部飲み干すまで帰らないわよ?」
「それでしたら、屋内ではなく、屋外に参りましょうか。私はダンスパートナーを務められませんけれど、専属のバトラーとして貴方様に相応しい場所へご案内することができましょう」
屋外の会場とはテラスエリア。ノブレスガーデンにせり出している白亜の舞台であり、王族や国賓たちの観覧席もそこにありました。
「私に惨めな思いをさせたいの?」
「いえいえ、逆ですよ。私は貴方様が輝く場所へと導くだけ。テラスは床一面が白く輝いております。貴方様のドレスは誰よりも映えて美しく見えることでしょう。そもそも貴方様を見ようと集まった来賓の方が多くいると聞いております。恥ずかしがらずに、向かいましょうか」
執事は私の返事を聞くことなく、ボトルを積んだ台車を押していく。
ちょっと待って。
シャンパンがなくなったら、私がここにいる意味合いがないじゃないの。待ちなさいってば……。
渋々と私は執事について行きます。
さりとて、胡蝶蘭の館は迎賓館のような場所であって、広大なテラスに私一人が迷い込んだとして誰も気付かないことでしょう。
ところが、ちょうど曲が終わった瞬間であり、静まり返ったテラスに私は踏み込んでいました。
刹那に拍手が送られています。
最初は小さかったそれは私がテラスへと進むにつれて大きくなり、今や引き返すことを許さぬほど万雷の拍手となっていました。
「あれ……?」
意図せず前世の記憶が蘇っています。ルークに手を引かれて、初めてテラスへと入った瞬間のこと。
あのときも地鳴りのような拍手が私を出迎えてくれたのです。
「アナスタシア様、堂々となさってください。やはり全員が貴方様の登場を待たれていたようです」
今となっては否定などできません。私が挨拶するまで、この拍手が鳴り止みそうもなかったから。
私はドレスの裾を上げ、観覧席に向け礼をしています。
このようなドレスで申し訳ないと。シャンパンにつられてやって来ただけなんです。
私の挨拶を待っていたのか、次の演奏が始まっています。
とりあえず、観覧席の下側にある壁際に姿を消す。顔を見せただけで充分だろうと。
「早くつぎなさい!」
「アナスタシア様はお強いですねぇ」
執事が笑っています。
でも、仕方ないでしょ? テラスに踏み入れてしまえば、嫌でも目に入る。
ルークとイセリナのダンスが。
前世で踊った記憶を客観的に見せつけられてしまうの。
お酒でも呑んでいないと、それこそ感情に呑まれてしまうわ……。
1
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
【完結】あなたの瞳に映るのは
今川みらい
恋愛
命を救える筈の友を、俺は無慈悲に見捨てた。
全てはあなたを手に入れるために。
長年の片想いが、ティアラの婚約破棄をきっかけに動き出す。
★完結保証★
全19話執筆済み。4万字程度です。
前半がティアラside、後半がアイラスsideになります。
表紙画像は作中で登場するサンブリテニアです。
【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに
おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」
結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。
「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」
「え?」
驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。
◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話
◇元サヤではありません
◇全56話完結予定
あなたの側にいられたら、それだけで
椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。
私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。
傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。
彼は一体誰?
そして私は……?
アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。
_____________________________
私らしい作品になっているかと思います。
ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。
※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります
※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる