青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

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第十章 闇夜に咲く胡蝶蘭

黒薔薇に魅せられて

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 遂に胡蝶蘭の夜会が始まっていました。

 とはいえ、パートナーは既に帰ってしまいましたので、私は壁際が確定しています。

 稀少なシャンパンが置いてる隣に突っ立ったままで、飲み干すや腕を伸ばして執事についでもらうを繰り返していました。

「アナスタシア様は踊らないのでしょうか……?」

 もう既に三曲目くらいでしょうか。 シャンパンボトルを持つ執事が話しかけてきました。

 今もまだ最初のパートナーと全員が踊っているので、あぶれた私が踊る機会などないというのに。

「私は一人ですのよ? なのでシャンパンをいただいております。それとも貴方様が踊ってくれるのかしら?」

「滅相もない! 私は別にそのドレスが悪いとは感じません。寧ろ、貴方様の髪色が映えて、とても美しいとさえ感じます。なので、貴方様が壁際で誘いを待たれないのは勿体ない気がしております」

 まあ確かに。壁に背を預けている現状で誘いがあるはずもないのです。

 誘いを待つのであれば、ダンスする周囲を取り囲むようにしていなければなりません。

「それはありがとう。でもね、私はこのシャンパンが気に入ったの。全部飲み干すまで帰らないわよ?」

「それでしたら、屋内ではなく、屋外に参りましょうか。私はダンスパートナーを務められませんけれど、専属のバトラーとして貴方様に相応しい場所へご案内することができましょう」

 屋外の会場とはテラスエリア。ノブレスガーデンにせり出している白亜の舞台であり、王族や国賓たちの観覧席もそこにありました。

「私に惨めな思いをさせたいの?」

「いえいえ、逆ですよ。私は貴方様が輝く場所へと導くだけ。テラスは床一面が白く輝いております。貴方様のドレスは誰よりも映えて美しく見えることでしょう。そもそも貴方様を見ようと集まった来賓の方が多くいると聞いております。恥ずかしがらずに、向かいましょうか」

 執事は私の返事を聞くことなく、ボトルを積んだ台車を押していく。

 ちょっと待って。

 シャンパンがなくなったら、私がここにいる意味合いがないじゃないの。待ちなさいってば……。


 渋々と私は執事について行きます。

 さりとて、胡蝶蘭の館は迎賓館のような場所であって、広大なテラスに私一人が迷い込んだとして誰も気付かないことでしょう。

 ところが、ちょうど曲が終わった瞬間であり、静まり返ったテラスに私は踏み込んでいました。

 刹那に拍手が送られています。

 最初は小さかったそれは私がテラスへと進むにつれて大きくなり、今や引き返すことを許さぬほど万雷の拍手となっていました。

「あれ……?」

 意図せず前世の記憶が蘇っています。ルークに手を引かれて、初めてテラスへと入った瞬間のこと。

 あのときも地鳴りのような拍手が私を出迎えてくれたのです。

「アナスタシア様、堂々となさってください。やはり全員が貴方様の登場を待たれていたようです」

 今となっては否定などできません。私が挨拶するまで、この拍手が鳴り止みそうもなかったから。

 私はドレスの裾を上げ、観覧席に向け礼をしています。

 このようなドレスで申し訳ないと。シャンパンにつられてやって来ただけなんです。

 私の挨拶を待っていたのか、次の演奏が始まっています。

 とりあえず、観覧席の下側にある壁際に姿を消す。顔を見せただけで充分だろうと。

「早くつぎなさい!」

「アナスタシア様はお強いですねぇ」

 執事が笑っています。

 でも、仕方ないでしょ? テラスに踏み入れてしまえば、嫌でも目に入る。

 ルークとイセリナのダンスが。

 前世で踊った記憶を客観的に見せつけられてしまうの。

 お酒でも呑んでいないと、それこそ感情に呑まれてしまうわ……。
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