青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

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第九章 永遠の闇の彼方

最後の命令

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「カルロォォオオオオッツ!!」

 未だかつてないほどの絶叫。どうしても生きて欲しかった。

 そこにあった想いは決して愛などではない。しかし、私なりに彼のことを理解し、彼という人を尊重していたのよ。

 恩義に報いるためにも、彼には幸せな未来を手にして欲しかった。


 セントローゼス王国軍とサルバディール皇国軍は一様に唖然と見ているだけです。

 両国とも私とカルロが共に過ごしていたことを知っているはずなのに。

 ひとしきり泣いたあと、私は立ち上がりました。

 決意が揺らぐ前に私は実行しなければならない。彼に対する恩義を忘れないためにも。

『姫!?』

 内股のナイフを取り出した私に念話が届いた。

 どうやらコンラッドにも分かったらしい。私が実行する計画の中身を。しかし、安心して欲しい。

 私はやり直すだけ。全身から血を噴き出してでも、時を戻すだけよ。

 私は彼と同じく胸を貫き、死ぬことでしか罪を償えない。

「何度だってやるわ……。望む未来が手に入るまで……」

 私は躊躇いなくナイフを押し込んでいる。

 愛する人以外のために自害するなんて、少しも考えていませんでした。だけど、私は死に戻る。それ以外に私が納得できる方法がなかったのです。


 ナイフを引き抜くと、再び目にする真っ赤な薔薇。なぜに私は自ら死を選び、この薔薇を観賞しているのでしょうか。

 誰もが唖然と息を呑んでいる。突然、後追いのように自傷した私が信じられなかったのでしょう。

 ごめんなさい。私はまたも過ちを犯しました。

 固定された未来を変えるなんて、恐らくは女神でもできない。

 増長した私は神にでもなったつもりだったのでしょう。

 どうか許してください……。


 ◇ ◇ ◇


 意識を失うや、視界はブラックアウト。

 私は牧歌的なあの茶会へと戻されることでしょう。少しばかり混乱したけれど、私はいつものように意識を戻している。

 完全にノープランだけど、今度は色々と自重しようと考えています。

 残念だけど、カルロはどうあっても救えない。ならば、彼にプレゼントでもして、恩を返しておこうと。


「口づけを……」

 私は固まっていました。

 どう考えても茶会の場面ではありません。

 セシルは横たわっていましたし、私に話しかけたのはカルロに他ならないのですから。

 戸惑う私に気遣うことなく、カルロは最後の台詞を口にする。

「愛している――――」

 焦点が定まらないまま、顔を振っている。

 なぜにここなのか。どうしてセーブされたのか。

 私は疑問しか感じていない。女神アマンダの意図が少しも分かりませんでした。

 明確に先ほどの場面です。自害する直前に違いない。

「カルロ……」

 私が唱えたエクストラヒールはセシルしか救えなかった。

 それでも女神アマンダはこの世界線を続けろというらしい。

 確かにカルロは予定するシナリオ外のキャラクターでしたけれど、この世界線において彼は重要な役割を担っていたというのに。


『ルイ、もう戻ってくるな――』


 不意にカルロの声が聞こえたような気がした。

 それはずっと言われていたこと。何度も死に戻る私に対しての言葉でした。

「また……戻って来ちゃったよ……」

 再び涙が流れ落ちていく。

 思わず口にした懺悔と共に。

「ごめん……」

 私はもう貴方に報いる術がない。

 アマンダがセーブした時点で謝るしかできません。

 本当にごめんなさい。戻って来たことも、恩を返せなかったことも。

 願わくば迷わずに旅立ってください。私はそれを願っています。


 ひとしきり泣いたあと、私は立ち上がりました。

「サルバディール皇国兵、カルロ殿下の遺体を皇家の方々に届けてくださいまし。私が責任を持って王国軍を撤退させますから」

 動揺する兵たちでしたが、一応は頷きます。

 カルロを救おうとしたことは、少しばかり信頼回復に繋がったのかもしれません。

「ルイ様、どういうことです?」

 ここで私に近寄って来たのはリックでした。

 どうやら彼は一連の行動について疑問を感じているみたい。

「私はカルロ殿下が戦争に担ぎ出されて戦死するという予知を見ました。だからこそ、サルバディール皇国とヴァリアント帝国の戦力を削いで回っていたわけです。でも結果はこの通り。どう動いたとして運命は変わらなかったようです」

 溜め息混じりに伝えています。

 ゲームの理は絶対的な未来となり、カルロは戦争により失われてしまう。

「そうでしたか。それでルイ様はこれからどうされるのです?」

「今はもうアナスタシアよ。議員たちは排除しましたけれど、私は皇家の方々を攻撃しておりません。非常に厳しい状況下と思いますが、皇国を立て直してください。一応は帝国の軍事力も排除しておりますので……」

 リックは頷いている。

 戦争状態にある帝国も同じ状況であれば、何とかなるかもしれないと。

 また彼は私の行動が両国に対する制裁だと分かっているかのようです。

「リック、最後の命令ですわ。貴方は皇国を支え、最後まで戦うこと。私が知る運命ならば、この先に皇国は滅びるでしょう。それでも貴方は身命を賭して皇国に尽くしてください」

 恐らくは私が知る世界線に帰結するだろう。

 帝国と皇国の戦力が削がれた今、この東部三国から頭角を現すのはノヴァ聖教国しかあり得ません。

「承知いたしました。私は命令通り、最後まで皇国の手となり足となり尽力いたしましょう。どうかアナスタシア様もお元気で……」

 これがリックとの別れになることでしょう。

 世界線が行き詰まり、レジュームポイントへと戻されない限りは、もう出会うことなどないはずです。

「ええ、貴方も。皇国に女神アマンダの祝福あれ!!」

 最後に私は祝福を与える。

 少しばかり幸運値が上昇するだけの魔法。けれども、彼らが希望を見出させるようにと。

「ホーリー・ブレス!!――」
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