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第九章 永遠の闇の彼方

悪夢の始まり

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 二頭のペガサスはサルバディール皇国内に入ったところで別れます。

 コンラッドはサルバディール皇国の首都ガラクシアへと潜入し、私は二国が争う国境を目指す。

 降りる必要すらありません。上空からの絨毯爆撃で終わらせるつもりだから。

「せめて苦しむことなく……」

 まずは進路上にあるサルバディール皇国軍の軍営地に。続いて後方部隊を殲滅し、両軍が剣を交えるその場所へとロナ・メテオ・バーストを撃ち放つ。

「がぁぁっっ!!」

 マリィは残党の駆除。過剰な火球攻撃が逃げ惑う兵たちを襲う。

 一人として逃さないの。有無を言わせぬ先制攻撃の全貌を知られてはなりません。

 結果として私は一時間もせぬうちに戦場を制圧していました。

「この分だと、三日くらいで戻ってこれるかな……」

 思えば、前世界線の制圧も大した労力ではありませんでした。ただし、此度は軍施設を全て潰しておかねばならないので、その限りではありませんけれど。

 主要都市である五つの街に加え、あらゆる関所や駐屯地を全て破壊するつもりです。火竜の聖女による粛正だとして。

「カルロが招集される前に全てを終わらせるんだ……」

 世界が決めたシナリオを改変すべく、私は行動していく……。


 ◇ ◇ ◇


 三日と見繕っていたヴァリアント帝国の制圧。しかし、帝国の軍事拠点を制圧するのに随分と時間がかかっていました。

 私の攻撃がヴァリアント帝国への制裁であることや、火竜の聖女としての罰であることを明確にする必要があったからです。

 民衆にその姿を見せつける必要性から、日中にしか私は動けなかったのです。

「一週間もかかったけど、カルロは八月末まで王国にいるはず。もう私と過ごしている世界線じゃなくなったんだし……」

 予定より時間がかかったとしても、数日の遅れくらい想定内でした。最前線は既に両軍とも壊滅しているので、万が一の場合も問題なし。


 帝国内を平定したあと、私はサルバディール皇国内の軍事施設も全て破壊していました。

 首都ガラクシアを最後にした理由は任務中のコンラッドに時間を与えるため。できればカルロの家族たちには生き残ってもらいたいと。

「まったく私は悪そのものだわ……」

 もう既に何人の兵を殺めたことでしょう。

 移動中に私は溜め息を漏らします。聖女ではなく、明らかに悪魔。何の抵抗もできない兵を上空から蹂躙しているのです。

 撃たれる矢は届かず、放たれた魔法はアンチマジックによりレジスト。ただの人間にはどうすることもできない魔王にでもなったかのような気がします。

「アマンダはこのような世界線でも喜んでくれるのかな?」

 女神とは地上の守護者です。その使徒である私が地上を破壊し尽くしているなんて。

 天罰にしても、やり過ぎな気がする。何しろ私は私情でもって動いているだけなのですから。

「兵たちはどうせ失われる運命なのよ……」

 それだけが私の心を支えている。かの二国はいずれも滅亡する運命なのだからと。

 ならば兵の命運が尽きることも、早いか遅いかの違いだけ。私の攻撃によって市街地戦が起きないだけマシではないかと考えるようにしていました。

「リセットされないってことはアマンダも肯定しているはず」

 このような惨状となっても、アマンダは世界線をリセットしない。

 ある意味において私はそれを望んでいるというのに、レジュームポイントへと戻されることなく、世界は時を刻み続けていました。

 従って、天界やアマンダにとって現状はまだ許容内であることでしょう。彼女は停滞する世界線を動かせたのなら、文句などないはずです。


 帝国と皇国の軍事施設を無効化した私は再び皇国の首都ガラクシアへと戻っています。

 それはコンラッドと別れてから十一日目のことでした。

 時間は朝の八時。私は皇家の居室がある一角に狼煙を確認しています。

「流石ね、コンラッド……」

 小さく笑みを浮かべ、私は一つ頷いています。

 隔離が成功したのであれば、憂えることなく魔法を撃ち込めるというもの。皇家の居室を除いた全てを破壊するしかありません。

 もう既に火竜の聖女が地方都市で暴れ回っていることは伝わっていることでしょう。しかし、私は声を張る。この名を全員に知らしめるように。

「戦争を始めた愚かなるサルバディール皇国よ! 火竜の聖女アナスタシア・スカーレットが罰を与えましょう!!」
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