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第九章 永遠の闇の彼方
輝かしい未来を夢見て
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静まり返るフェリクスの部屋。誰も口を開かない。
当然のこと、ルークとの会話などありませんでした。
「ぅ……ぁ……」
そんなとき、急にフェリクスが声を上げます。
痛みを除去しただけであるというのに、彼は意識を戻し、朧気に目を開いていました。
「フェリクス!」
ガゼル王がベッドに乗り出すようにして話しかけます。
(嘘でしょ……? 瀕死の状態だったはず……)
本当に驚いていました。
治療など施していないというのに、再び意識を戻すなんてと。
「父上……」
どれほどの苦しみが彼を襲っていたのでしょう。
まだ息は荒かったものの、彼は言葉を発しています。
「夢を見ました……」
何の脈略も感じさせない会話。どうやら意識を戻しただけで、彼はまだ朦朧としている感じです。
頷きを返すのはガゼル王です。
既に主治医から今晩が峠だと聞いていた彼は一語一句を聞き逃さぬつもりのよう。
「セントローゼス王国が繁栄していく夢……」
第二王子としての責務なのか、自身の命が風前の灯火であったというのに、フェリクスは王国の未来を考えていました。
「ルーク兄の王太子任命式典……。兄上は立派なお姿を披露されておりました……」
心残りなのかもしれません。
第二王子としてルークが王太子に指名される場面を想像していたようです。
ところが、フェリクスは予想をもしない話を始めています。
「桃色をした髪の美しい婚約者と一緒に――」
唖然と全員が息を呑む。
様々な髪色があるプロメティア世界でも赤髪は珍しい。
何しろ髪色が家名にとなってしまうほど。しかもピンク髪をした女性は私が知る限り一人だけでした。
全員の視線が私に向けられています。
別に悪いことは何もしていなかったというのに、この居たたまれなさは何なのでしょうか。
「ぐぁっ!!」
刹那にリベンジャーの効果が切れたようです。
私は透かさずリベンジャーを施し、彼の痛みを取り除いています。
「父上、私はもうここまでのようです。でも、心残りはありません。最後に女神アマンダ様が顕現してくださいましたから……」
再び語り出すフェリクス。
繋がらない話は相変わらずで、今度は女神アマンダが脳裏に現れたという話でした。
「望みを問われた私はセントローゼス王国の未来が知りたいとお願いしました」
徐々に話が纏まっていく。
接点を持たなかった話が一つになっていきます。
「安心しました。立派な王太子となられるルーク兄だけでなく、羨ましくなるほど美しい婚約者までいらっしゃるなんて……」
先ほどの爆弾発言は女神アマンダが彼の希望を叶えた結果だと口にしています。
フェリクスは妄想にも似た話を続けていたというのに。
「ルーク兄は王妃様との間に二十四人も子供をもうけられるそうです。これなら、もう世継ぎ問題に悩まされる必要はありませんね……」
冗談のような話です。
続けられたこの内容により、全員がフェリクスの願望が夢になっただけだと考えていたことでしょう。
私一人を除いて――。
鼓動が高鳴っていく。
どうしてか私は本当にフェリクスがアマンダと会話したとしか思えなかったのです。
なぜなら、子供24人という話には思い当たる節があったから。
それはアナスタシアとして旅立つ前。天界で間違いなく話をしたことです。
『女神アマンダ、私は十二人も彼の子供を産みました。2ダースも産めるわけないでしょ?』
『まあ確かにルークには愛されていた。でもね、愛さえあれば24人くらい産めるわ。できなかったのは愛が足りないから』
記憶が確かならば、アマンダは確かに24人くらい産めると話していました。
愛さえあればと。
(本当にアマンダなの?)
もし仮にアマンダがフェリクスの脳裏に降臨していたとすれば、彼女が見せた夢は何を意味しているのでしょう。
(どうして私が出てくるのよ?)
疑問はその一点でした。
もしも、フェリクスの願望を叶えるためだけであれば、私じゃなくても構わないはず。
そもそも現状でルークはイセリナのフィアンセであったというのに。
(愛の女神……)
考えられる理由は一つでした。
アマンダは愛の女神。イセリナとルークの間に愛がないことを嘆いているのかもしれない。
だからこそ、私を代理として使ったのではないかと。
考えたとして結論は得られません。
何しろ連絡を取る手段がないのです。フェリクスの妄想であるのか、或いは本当にアマンダが降臨したのか。更にはアマンダのお告げなのかどうかも不明でした。
「父上、母上、ルーク兄、それにセシルとシャルロット。お元気で。私は天から皆の幸せを願っております……」
言ってフェリクスは目を閉じる。まるで使命をやり遂げたかのように。
お別れを口にした彼はもう目を開きませんでした。
「おい、フェリクス! フェリクス!!」
ガゼル王が叫ぶように声をかけるも、フェリクスはもう旅立ったあと。
現世に残るのは彼が存在したという亡骸だけでした。
全員が啜り泣く状況。
私はそっと席を立ち、静かに部屋を出て行きます。お別れの場面に私は不要なのだと。
天命を遂げたフェリクスに祈りを捧げながら、王城の長い廊下を歩いています。
先ほどの話が思い返されていました。
どうしてなのだろう。なぜなのだろうと。
私は呟くだけ。夢と現実の狭間で揺らめいているだけ。
桃色の髪をした女は私なの?――。
当然のこと、ルークとの会話などありませんでした。
「ぅ……ぁ……」
そんなとき、急にフェリクスが声を上げます。
痛みを除去しただけであるというのに、彼は意識を戻し、朧気に目を開いていました。
「フェリクス!」
ガゼル王がベッドに乗り出すようにして話しかけます。
(嘘でしょ……? 瀕死の状態だったはず……)
本当に驚いていました。
治療など施していないというのに、再び意識を戻すなんてと。
「父上……」
どれほどの苦しみが彼を襲っていたのでしょう。
まだ息は荒かったものの、彼は言葉を発しています。
「夢を見ました……」
何の脈略も感じさせない会話。どうやら意識を戻しただけで、彼はまだ朦朧としている感じです。
頷きを返すのはガゼル王です。
既に主治医から今晩が峠だと聞いていた彼は一語一句を聞き逃さぬつもりのよう。
「セントローゼス王国が繁栄していく夢……」
第二王子としての責務なのか、自身の命が風前の灯火であったというのに、フェリクスは王国の未来を考えていました。
「ルーク兄の王太子任命式典……。兄上は立派なお姿を披露されておりました……」
心残りなのかもしれません。
第二王子としてルークが王太子に指名される場面を想像していたようです。
ところが、フェリクスは予想をもしない話を始めています。
「桃色をした髪の美しい婚約者と一緒に――」
唖然と全員が息を呑む。
様々な髪色があるプロメティア世界でも赤髪は珍しい。
何しろ髪色が家名にとなってしまうほど。しかもピンク髪をした女性は私が知る限り一人だけでした。
全員の視線が私に向けられています。
別に悪いことは何もしていなかったというのに、この居たたまれなさは何なのでしょうか。
「ぐぁっ!!」
刹那にリベンジャーの効果が切れたようです。
私は透かさずリベンジャーを施し、彼の痛みを取り除いています。
「父上、私はもうここまでのようです。でも、心残りはありません。最後に女神アマンダ様が顕現してくださいましたから……」
再び語り出すフェリクス。
繋がらない話は相変わらずで、今度は女神アマンダが脳裏に現れたという話でした。
「望みを問われた私はセントローゼス王国の未来が知りたいとお願いしました」
徐々に話が纏まっていく。
接点を持たなかった話が一つになっていきます。
「安心しました。立派な王太子となられるルーク兄だけでなく、羨ましくなるほど美しい婚約者までいらっしゃるなんて……」
先ほどの爆弾発言は女神アマンダが彼の希望を叶えた結果だと口にしています。
フェリクスは妄想にも似た話を続けていたというのに。
「ルーク兄は王妃様との間に二十四人も子供をもうけられるそうです。これなら、もう世継ぎ問題に悩まされる必要はありませんね……」
冗談のような話です。
続けられたこの内容により、全員がフェリクスの願望が夢になっただけだと考えていたことでしょう。
私一人を除いて――。
鼓動が高鳴っていく。
どうしてか私は本当にフェリクスがアマンダと会話したとしか思えなかったのです。
なぜなら、子供24人という話には思い当たる節があったから。
それはアナスタシアとして旅立つ前。天界で間違いなく話をしたことです。
『女神アマンダ、私は十二人も彼の子供を産みました。2ダースも産めるわけないでしょ?』
『まあ確かにルークには愛されていた。でもね、愛さえあれば24人くらい産めるわ。できなかったのは愛が足りないから』
記憶が確かならば、アマンダは確かに24人くらい産めると話していました。
愛さえあればと。
(本当にアマンダなの?)
もし仮にアマンダがフェリクスの脳裏に降臨していたとすれば、彼女が見せた夢は何を意味しているのでしょう。
(どうして私が出てくるのよ?)
疑問はその一点でした。
もしも、フェリクスの願望を叶えるためだけであれば、私じゃなくても構わないはず。
そもそも現状でルークはイセリナのフィアンセであったというのに。
(愛の女神……)
考えられる理由は一つでした。
アマンダは愛の女神。イセリナとルークの間に愛がないことを嘆いているのかもしれない。
だからこそ、私を代理として使ったのではないかと。
考えたとして結論は得られません。
何しろ連絡を取る手段がないのです。フェリクスの妄想であるのか、或いは本当にアマンダが降臨したのか。更にはアマンダのお告げなのかどうかも不明でした。
「父上、母上、ルーク兄、それにセシルとシャルロット。お元気で。私は天から皆の幸せを願っております……」
言ってフェリクスは目を閉じる。まるで使命をやり遂げたかのように。
お別れを口にした彼はもう目を開きませんでした。
「おい、フェリクス! フェリクス!!」
ガゼル王が叫ぶように声をかけるも、フェリクスはもう旅立ったあと。
現世に残るのは彼が存在したという亡骸だけでした。
全員が啜り泣く状況。
私はそっと席を立ち、静かに部屋を出て行きます。お別れの場面に私は不要なのだと。
天命を遂げたフェリクスに祈りを捧げながら、王城の長い廊下を歩いています。
先ほどの話が思い返されていました。
どうしてなのだろう。なぜなのだろうと。
私は呟くだけ。夢と現実の狭間で揺らめいているだけ。
桃色の髪をした女は私なの?――。
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