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第九章 永遠の闇の彼方
聖女とは
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「セシル殿下、私にできることは苦痛を取り除くくらいです。もう幾ばくも持たないことでしょう。王様や王妃様をお連れいただけませんか?」
セシルもようやく受け入れたみたい。私の指示に部屋を出て行きます。
残されたのは私とエリカです。辛い役目を担うことになりますが、仕方ありません。
「アナスタシア様、フェリクス様は……?」
「もう意識も殆どないのかもしれないわ。うなされているというより、苦しみ藻掻いているかのよう。楽にしてあげたいわね……」
フェリクスの容体は他人事ではありませんでした。
肉体的な苦痛と心の痛みという違いはあったけれど、私にはフェリクスの苦しみが分かる。
早く楽にして欲しいと魂が叫んでいるかのようです。
「エクストラヒール!!」
とりあえずエクストラヒールをかけてみます。
しかし、予想したままでした。エクストラヒールでは何の役にも立っていない感じ。
「やはり治療よりも痛みを和らげる方向が望ましいわ」
「できるのですか?」
エリカの問いには頷く。
何しろ私は元イセリナ。刺されたり、毒殺される回数は数えきれません。
死に戻るまでの苦痛を和らげる魔法を私は構築していたのです。
「可能よ。一時的に痛覚を消去する魔法があるの。延命治療できなくて申し訳ないけれど、フェリクス殿下にできることはこれくらいしかないわ」
安らかに逝くことくらいしかできることはない。
不幸な運命にあった王子殿下。その生まれとは裏腹に、華やかさとは無縁の人生であったことでしょう。
「リベンジャー!!」
私は痛覚消去の魔法を施す。
復讐者という魔法名は悪役令嬢の名残なので勘弁してください。必ずクリアするとの意味合いが、その名には込められているのですから。
(まあでも、フェリクスには相応しいかも……)
最高の立場で生まれながら、最低な人生を押し付けられているのです。
天界も女神も恨まれて当然。貴方の御霊が天へと還ったのなら、存分に復讐して欲しいわ。
リベンジャーの効果は直ぐに現れています。
苦痛に顔を歪めていたフェリクスは穏やかな表情となっていたのです。
「アナスタシア様?」
「ええ、効いているみたい。彼が旅立つまで、私は魔法をかけ続けます。あとは任せて欲しい。エリカは自室へと戻りなさい」
王城の離れにエリカの部屋がある。
主治医でもないエリカが最後まで付き合う必要はありません。
「ですが……」
「貴方はシャルロット殿下の教育係でしょ? 殿下はきっと落ち込むはずだから、彼女に寄り添うのが貴方の役目。ちゃんと導いてあげるのよ?」
私の話にエリカは頷いていました。
過度に後ろ髪を引かれながらも、彼女はフェリクスの部屋を出て行きます。
しばらくすると、セシルが戻ってきました。
言い付け通りに、ガゼル王だけでなく、王妃様や兄妹を引き連れて。
「アナスタシア様、フェリクス兄様は? 随分と穏やかになられたのではないでしょうか?」
見た感じは良化しているように思えたことでしょう。
しかし、それは苦痛が和らいだだけなのです。
「いいえ、治療はできませんでした。従って苦痛を除去する魔法を施しているだけです。恐らく、あと数時間。殿下は天へと還られることでしょう」
私の所見にガゼル王は頭を振り、王妃様は泣き出してしまいます。
ルークとシャルロット殿下は呆然と突っ立っているだけでした。
本当にもどかしい。やはり私はなんちゃって聖女だ。無力すぎると痛感させられています。
千年から生きたとして、運命には抗えないのだと……。
セシルもようやく受け入れたみたい。私の指示に部屋を出て行きます。
残されたのは私とエリカです。辛い役目を担うことになりますが、仕方ありません。
「アナスタシア様、フェリクス様は……?」
「もう意識も殆どないのかもしれないわ。うなされているというより、苦しみ藻掻いているかのよう。楽にしてあげたいわね……」
フェリクスの容体は他人事ではありませんでした。
肉体的な苦痛と心の痛みという違いはあったけれど、私にはフェリクスの苦しみが分かる。
早く楽にして欲しいと魂が叫んでいるかのようです。
「エクストラヒール!!」
とりあえずエクストラヒールをかけてみます。
しかし、予想したままでした。エクストラヒールでは何の役にも立っていない感じ。
「やはり治療よりも痛みを和らげる方向が望ましいわ」
「できるのですか?」
エリカの問いには頷く。
何しろ私は元イセリナ。刺されたり、毒殺される回数は数えきれません。
死に戻るまでの苦痛を和らげる魔法を私は構築していたのです。
「可能よ。一時的に痛覚を消去する魔法があるの。延命治療できなくて申し訳ないけれど、フェリクス殿下にできることはこれくらいしかないわ」
安らかに逝くことくらいしかできることはない。
不幸な運命にあった王子殿下。その生まれとは裏腹に、華やかさとは無縁の人生であったことでしょう。
「リベンジャー!!」
私は痛覚消去の魔法を施す。
復讐者という魔法名は悪役令嬢の名残なので勘弁してください。必ずクリアするとの意味合いが、その名には込められているのですから。
(まあでも、フェリクスには相応しいかも……)
最高の立場で生まれながら、最低な人生を押し付けられているのです。
天界も女神も恨まれて当然。貴方の御霊が天へと還ったのなら、存分に復讐して欲しいわ。
リベンジャーの効果は直ぐに現れています。
苦痛に顔を歪めていたフェリクスは穏やかな表情となっていたのです。
「アナスタシア様?」
「ええ、効いているみたい。彼が旅立つまで、私は魔法をかけ続けます。あとは任せて欲しい。エリカは自室へと戻りなさい」
王城の離れにエリカの部屋がある。
主治医でもないエリカが最後まで付き合う必要はありません。
「ですが……」
「貴方はシャルロット殿下の教育係でしょ? 殿下はきっと落ち込むはずだから、彼女に寄り添うのが貴方の役目。ちゃんと導いてあげるのよ?」
私の話にエリカは頷いていました。
過度に後ろ髪を引かれながらも、彼女はフェリクスの部屋を出て行きます。
しばらくすると、セシルが戻ってきました。
言い付け通りに、ガゼル王だけでなく、王妃様や兄妹を引き連れて。
「アナスタシア様、フェリクス兄様は? 随分と穏やかになられたのではないでしょうか?」
見た感じは良化しているように思えたことでしょう。
しかし、それは苦痛が和らいだだけなのです。
「いいえ、治療はできませんでした。従って苦痛を除去する魔法を施しているだけです。恐らく、あと数時間。殿下は天へと還られることでしょう」
私の所見にガゼル王は頭を振り、王妃様は泣き出してしまいます。
ルークとシャルロット殿下は呆然と突っ立っているだけでした。
本当にもどかしい。やはり私はなんちゃって聖女だ。無力すぎると痛感させられています。
千年から生きたとして、運命には抗えないのだと……。
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