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第九章 永遠の闇の彼方

懐かしきランカスタ公爵邸

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 カルロの屋敷を出た私はイセリナと一緒にランカスタ公爵家の別邸へと来ていました。

 本当に懐かしく思う。現状の世界線を選ぶ前に来たのが最後だったのですから。

 メイドたちが出迎えてくれます。

 明確に初対面であったのですけど、全員の顔を知っていたりするので、何だか妙な感じです。

「アナはワタクシの隣の部屋ですわ!」

 早速と部屋割りが決められています。

 偶然なのか、それとも必然なのか。以前と同じ部屋割りは元の世界線に戻ったかのように感じますね。

「マリィ、貴方デブだから、外でも飛んできなさい」

 窓を開け、マリィを放つ。

 幾分か重そうに飛ぶ彼女を眺めている。

 大空高く舞い上がる様は新しい世界が始まる予感を覚えさせていました。

「さてと、とりあえず魔法研究は続けないとね」

 セシルとの婚約を受け入れていたものの、それは回避したい未来に他なりません。

 ベストを目指すのであれば、私は傍観者であり続けたい。

 辛い想いをするよりも、やはり心穏やかに過ごしたいからです。


 ◇ ◇ ◇


 一ヶ月が過ぎていました。

 もうそろそろサルバディール皇国とヴァリアント帝国との戦争が始まる。

 既に私の手を離れた事象に違いないのですが、気にならないといえば嘘になります。

 国籍の復帰は髭が割と頑張ってくれたみたいで、すんなりと認められていました。

 そもそもの原因がリッチモンド公爵となっているので、王国としても認めないわけにはならなかったみたいです。

「イセリナ、遅刻するわよ!?」

「アナ、急いだとして何の得にもなりませんわ」

 イセリナを急かす日々。住む家が変わっただけであって、少しの変化もありません。

(いや、おかしいって……)

 別邸にはメイドたちが溢れるほど住んでいるというのに、どうして私が世話をしているのかしら?


 何とかイセリナを貴族院まで連れて来た私は講堂で一息ついていました。

 ルークとイセリナは相変わらずで、婚約者だというのに会話することすらありません。

 政略結婚なのは周知の事実でしたけれど、不仲であると噂されるほど二人が親密になることなどありませんでした。

 本日もつつがなく授業が終了。イセリナと迎えが到着するのを待つだけです。

「まったく、先に到着して待っていろと……」

「まあまあ、直ぐに来るからさ……」

 今も私はイセリナとの関係性を変えていません。現状は子爵令嬢という下位貴族なのに、対等な話し言葉を続けています。

 イセリナが気にしていないのなら、構わないかと思って。

「アナスタシア様!?」

 ようやくランカスタ公爵家の馬車が見えたところで、どうしてか私を呼ぶ声。

 振り返ると、そこにはセシルの姿があります。しばらく会いに来ることもなかった彼が現れていました。

「えっと、何用でしょうか?」

 正直に戸惑う。約束ではサルバディール皇国の戦争に介入したあとであったはず。

 過度に身構えていたのですけれど、私を捜していたわけは婚約話とはかけ離れたもの。

 すっかり記憶から抜け落ちていたイベントの通知に他なりません。

 セシルは慌てた様子で、その理由を口にしました。

「フェリクス兄様の容体が急変したのです! 兄様を助けてください!」
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