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第九章 永遠の闇の彼方
決められた世界と望む世界
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「じゃあ、イセリナは私がルーク殿下を好きだと知って婚約話を受けたの?」
返答によっては毎朝私が起きる時間に叩き起こす。
もう二度とあと少しなんて許さないから。
「仕方ないでしょう? ルーク殿下は焦っておられました。あの様子だとワタクシが断れば、エレオノーラだけじゃなくミランダにまで話を持っていくでしょう。そのような事態になれば、お父様が黙っていると思う? 絶対にワタクシをルーク殿下の婚約者とするはずですわ」
その流れは理解できる。
しかし、ルークが焦っていたってどういうことよ?
「ルークは何に焦っていたの? 誰から婚約を急かされていたの?」
「貴方にフラれた傷心の王子様は貴方の覚悟に応えようとしただけ。ルイのおかげで王太子候補に返り咲いたでしょう? 彼はルイに報いるためだけにワタクシを選んだのですわ。もう二度と貴族界を混乱させないようにね……」
そんな……?
良かれと思って行動したせいで、ルークは立場に相応しい人を選んだというの?
「ルイ、正直になりなさい。ワタクシは望んでもいない婚約をしているのです。王妃だなんて面倒極まりない。ワタクシは楽に生きたいだけなのですわ。貴方が代わりに王妃となってくれたなら、ワタクシは非常に助かりますの」
イセリナの話に私は首を振った。
どう考えても、その提案は遅すぎる。
適齢期となったからこそだろうけど、レジュームポイントに戻れない私にはもうどうすることもできません。
「無理だよ。婚約破棄とか髭が許すはずないじゃん。イセリナはルーク殿下と幸せになって欲しい」
憂鬱になる言葉を絞り出す。
イセリナの相手が固定されてしまえば、残りはセシルだけです。
エリカは問題を抱えているし、エレオノーラやソフィア殿下は今のところ期待できそうにない。何しろ、セシル本人が私を見ているのだから。
「お前ら、俺を余所にして勝手を言うな。ルイ、お前は俺のものだぞ?」
ここでカルロが口を挟む。
私としても、そのつもりで動いていたのですけれど、残念ながら私たち二人のシナリオは用意されていないようです。
居場所を求めていた私だけど、どうあっても私が側にいると貴方は死ぬ。私が心を痛めない限り、貴方は生き残れないの。
「カルロ殿下、お世話になりました。私は貴方に生きていて欲しい。だからこそ、セシル殿下に救済を願ったのです。私と一緒にいると、貴方様には戦死する未来しかありません。どうか、私の覚悟を受け入れ、幸せになってください」
カルロを巻き込みたくない。
この世界線が継続しているのは彼のおかげであり、彼のせいでもある。
早々にリセットされなかった原因であるけれど、彼を憎めないし、継続してしまった現状においては生きて欲しいと願っているのよ。
「そもそもカルロ殿下のお相手はオリビア・アドコック伯爵令嬢です。私が未来を変えてしまった。彼女は貴方好みの真っ直ぐで心の綺麗な女性。間違いなく幸せな生活が送れることでしょう」
私は世界線を戻そうと思う。
けれど、少しだけ。本来あるはずの戦死を回避しつつ、二人を結びつけようと。
ゲームにはなかった大団円を二人のシナリオに書き加えたい。
「オリビア? 新入生だよな?」
「ええ、既に面識があるはずです。どうか、私のことはお忘れになって、彼女を選んでください。私は本日をもって、この屋敷から出て行きます」
これでいいの。回り道をして、ようやく理解できた。
私の進む道。幾ら小道に迷い込んだとして、結局は決められたルートに戻ってしまうのだと。
「ルイ、それならワタクシの屋敷に行きましょう」
ほらね。決まってるのよ。
私は最初から最後までイセリナの側にいる。
下手な回り道を選択せずに、私はミスリル鉱脈のイベントからキャサリン・デンバーの誕生パーティーイベントをクリアすべきでした。
逃げ回った挙げ句、カルロの人生にも影響を与えているのよ。これは猛省すべき事項であって、時間を無駄にしただけなのです。
「よろしくね? あと私は元のアナスタシア・スカーレット。仮初めの聖女という看板は下ろすことにするわ」
カルロとの決別です。だとすれば、もうサルバディール皇国やラマティック正教会とは縁を切らねばなりません。
私はカルロの一存で据えられているだけのお人形ですから。
「待て、ルイ。俺は承諾していないぞ?」
「もう全て完結していることですわ。私と一緒であれば死は避けられない。その一点が確定している限り、私は殿下と共に過ごすなどできません。貴方様の力でサルバディール皇国を強国に押し上げてくださいな」
「いや、しかしな……」
もう決めたことです。世話になった恩は必ず返します。
揺るぎない決意と共に私は告げるだけ。
「諦めてください……」
貴方の幸せを願っている。
優しくされた覚えはありませんけれど、貴方は愛していると言ってくれた。
穢れた思考の馬鹿な女を選ぼうとしてくれたんだもの。
だからこそ、心からの感謝を込めて。私は貴方をこっぴどく振るだけだわ。
「もう二度と会うことはないでしょう……」
言って私は自室へと戻り、引っ越しの準備を始めます。
問答するなんて無駄なのよ。
世界によって決まっていることだし、何より私自身が選んだ道なんだもの……。
返答によっては毎朝私が起きる時間に叩き起こす。
もう二度とあと少しなんて許さないから。
「仕方ないでしょう? ルーク殿下は焦っておられました。あの様子だとワタクシが断れば、エレオノーラだけじゃなくミランダにまで話を持っていくでしょう。そのような事態になれば、お父様が黙っていると思う? 絶対にワタクシをルーク殿下の婚約者とするはずですわ」
その流れは理解できる。
しかし、ルークが焦っていたってどういうことよ?
「ルークは何に焦っていたの? 誰から婚約を急かされていたの?」
「貴方にフラれた傷心の王子様は貴方の覚悟に応えようとしただけ。ルイのおかげで王太子候補に返り咲いたでしょう? 彼はルイに報いるためだけにワタクシを選んだのですわ。もう二度と貴族界を混乱させないようにね……」
そんな……?
良かれと思って行動したせいで、ルークは立場に相応しい人を選んだというの?
「ルイ、正直になりなさい。ワタクシは望んでもいない婚約をしているのです。王妃だなんて面倒極まりない。ワタクシは楽に生きたいだけなのですわ。貴方が代わりに王妃となってくれたなら、ワタクシは非常に助かりますの」
イセリナの話に私は首を振った。
どう考えても、その提案は遅すぎる。
適齢期となったからこそだろうけど、レジュームポイントに戻れない私にはもうどうすることもできません。
「無理だよ。婚約破棄とか髭が許すはずないじゃん。イセリナはルーク殿下と幸せになって欲しい」
憂鬱になる言葉を絞り出す。
イセリナの相手が固定されてしまえば、残りはセシルだけです。
エリカは問題を抱えているし、エレオノーラやソフィア殿下は今のところ期待できそうにない。何しろ、セシル本人が私を見ているのだから。
「お前ら、俺を余所にして勝手を言うな。ルイ、お前は俺のものだぞ?」
ここでカルロが口を挟む。
私としても、そのつもりで動いていたのですけれど、残念ながら私たち二人のシナリオは用意されていないようです。
居場所を求めていた私だけど、どうあっても私が側にいると貴方は死ぬ。私が心を痛めない限り、貴方は生き残れないの。
「カルロ殿下、お世話になりました。私は貴方に生きていて欲しい。だからこそ、セシル殿下に救済を願ったのです。私と一緒にいると、貴方様には戦死する未来しかありません。どうか、私の覚悟を受け入れ、幸せになってください」
カルロを巻き込みたくない。
この世界線が継続しているのは彼のおかげであり、彼のせいでもある。
早々にリセットされなかった原因であるけれど、彼を憎めないし、継続してしまった現状においては生きて欲しいと願っているのよ。
「そもそもカルロ殿下のお相手はオリビア・アドコック伯爵令嬢です。私が未来を変えてしまった。彼女は貴方好みの真っ直ぐで心の綺麗な女性。間違いなく幸せな生活が送れることでしょう」
私は世界線を戻そうと思う。
けれど、少しだけ。本来あるはずの戦死を回避しつつ、二人を結びつけようと。
ゲームにはなかった大団円を二人のシナリオに書き加えたい。
「オリビア? 新入生だよな?」
「ええ、既に面識があるはずです。どうか、私のことはお忘れになって、彼女を選んでください。私は本日をもって、この屋敷から出て行きます」
これでいいの。回り道をして、ようやく理解できた。
私の進む道。幾ら小道に迷い込んだとして、結局は決められたルートに戻ってしまうのだと。
「ルイ、それならワタクシの屋敷に行きましょう」
ほらね。決まってるのよ。
私は最初から最後までイセリナの側にいる。
下手な回り道を選択せずに、私はミスリル鉱脈のイベントからキャサリン・デンバーの誕生パーティーイベントをクリアすべきでした。
逃げ回った挙げ句、カルロの人生にも影響を与えているのよ。これは猛省すべき事項であって、時間を無駄にしただけなのです。
「よろしくね? あと私は元のアナスタシア・スカーレット。仮初めの聖女という看板は下ろすことにするわ」
カルロとの決別です。だとすれば、もうサルバディール皇国やラマティック正教会とは縁を切らねばなりません。
私はカルロの一存で据えられているだけのお人形ですから。
「待て、ルイ。俺は承諾していないぞ?」
「もう全て完結していることですわ。私と一緒であれば死は避けられない。その一点が確定している限り、私は殿下と共に過ごすなどできません。貴方様の力でサルバディール皇国を強国に押し上げてくださいな」
「いや、しかしな……」
もう決めたことです。世話になった恩は必ず返します。
揺るぎない決意と共に私は告げるだけ。
「諦めてください……」
貴方の幸せを願っている。
優しくされた覚えはありませんけれど、貴方は愛していると言ってくれた。
穢れた思考の馬鹿な女を選ぼうとしてくれたんだもの。
だからこそ、心からの感謝を込めて。私は貴方をこっぴどく振るだけだわ。
「もう二度と会うことはないでしょう……」
言って私は自室へと戻り、引っ越しの準備を始めます。
問答するなんて無駄なのよ。
世界によって決まっていることだし、何より私自身が選んだ道なんだもの……。
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