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第九章 永遠の闇の彼方

動き始める世界

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「俺はお前を愛している……」

 もう何年一緒にいるのかな……。

 それはカルロが私にしてくれた初めての告白でした。でもね、そんなことはもう分かりきっている。私は貴方の想いを知っているもの。

 つい先ほど、この身を以て知らされているわ。

 貴方は愛ゆえに私を斬った。

 他の誰にも渡さないとの決意を私に向けたのよ。

 愛と罪は同じ。深ければ深いほど暗く澱んでいく。決して陽の光が届かぬ場所にある愛を私は確かに受け取っていたわ。

「今さらですわね。前世界線でも貴方の想いを聞いたもの。セシル殿下のものになることを嫌がった貴方は私を斬ったのですから……」

 プロメティア世界は永遠に停滞し続けそう。

 アマンダが私とセシルの婚約を望んでいるのなら、私はカルロに斬られ続けるだけ。この闇から抜け出せそうにない。

「俺がルイを?」

「愛しているなら斬れと言ったのよ。何しろ、私は敵軍として貴方の前に立っていたのだから」

「どうしてそうなる!? 帝国に与していたのか!?」

 私は前世界線の話をしました。

 カルロが戦場に赴く原因となる議員たちを排除しようとして、回りくどく参戦した事実を。

 流石に顔を振るだけのカルロ。壮大な計画の全貌は理解不能みたい。

 彼自身は議員たちを悪く思っていないし、恐らく強要されたというより半ば自発的に戦場へと向かったはず。

「でも、もう終わりにしようと思うの。私が望む世界など決して訪れない。だから、アマンダが求める世界を受け入れるわ」

 今度もまたカルロは首を振る。

 私がどのような行動を取ろうとも、彼は否定するのだ。私たちが共に生きる未来など存在しないというのに。

「ルイ……」

「私は屋敷を出て行きます。枢機卿の立場もなかったことにしてください。私はもう生きているだけの人形なの。何も求めない。何も望まない。何の抵抗もしない」

 早巻きで人生を送っていこう。

 それが最も効率的なんだ。下手に抗うから、余計に心を痛める。割り切って生きれば良いだけなのよ。

「ルイ、やめろよ……」

「ううん、私はもうスカーレット子爵家に戻るわ。放っておいてもセシル殿下が迎えに来る。私は彼に愛され、彼の子を産む。それだけの人生よ」

「やめろって言ってんだろ!?」

 脅しても無駄よ。

 私は剣を振り下ろされるときですら、微動だにしていないの。

 死ですらも克服している私に怖いものなどありません。

「何をやめるの? 小国の皇太子に私の未来を変える力があって? 私の未来は女神が決めたもの。色々と試したけれど、もう詰んでるのよ。イセリナとルークが婚約した現状で、私に未来などありません」

 愛が伴わないのならば、誰に愛されようが一緒。

 できればルークから離れて暮らしたかったけど、どうあっても私はセシルと結ばれる運命みたいだからね。

 完全に私たちの話し合いは平行線を辿ると思われましたが、ここで予期せぬ乱入者が現れます。

「ルイ、ワタクシは別にルーク殿下のことなど好きではありませんわ」

 現れたのはイセリナです。

 えっと、いつから聞いていたのかな。

(あれ?)

 何だかおかしい。この時間軸のイセリナは公爵家に戻っているはず。婚約の雑務があるとかどうとか。

「イセリナ、貴方は公爵家に戻ったんじゃ?」

「面倒になりましたので、使者は帰らせましたの。好きにしてくださいと伝えましたわ」

 確実に世界線が動いている。

 私はセシルルートを選んだだけだといういのに。

「イセリナ、それでどこから話を聞いていたの?」

「スカーレット子爵家に戻るとかどうとか……」

 良かった。それなら誤魔化せる。

 イセリナには私の使命を知られたくないんだもの。

「痴話喧嘩なら外でしてもらえません? お昼寝もままならないですわ。あとルイがスカーレット子爵家に戻るのであれば、ワタクシも子爵家にお邪魔しますから……」

 どこまで私に寄生するつもりなのかしら?

 もし仮にイセリナがスカーレット子爵家に住むことになったなら、ダンツが気苦労で死んでしまうかもしれないってのに。

「痴話喧嘩じゃない。私は別に誰と結婚しても良いの。それだけの話よ」

「そうかしら? ワタクシが婚約した折り、一日中泣いてたでしょ?」

 イセリナの返しに私は絶句しています。

 声出てた? 一応は声を出さずに泣いていたはずなんだけど?

「泣いて……ない」

「うるさくて仕方ありませんでしたわ。ねぇ、皇太子様?」

「あ、ああ……」

 隣の部屋であるイセリナだけじゃなく、カルロまで同意してるなんて。

 こうなるとカルロだけじゃなく、イセリナも私の気持ちに気付いている。

 私がルークを好きだってこと……。

 目を泳がせながら、私は取り繕う言葉を探し続けていました。
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