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第九章 永遠の闇の彼方

定めの通りに

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「何を仰います? 凄くお似合いです。ルイ様の美しい髪色も浮き上がって見えます。僕は貴方様をエスコートしたいと考えているのですよ。どうぞ僕の腕を取ってください」

 何度目でしょうか? 死に戻った私は再びセシルの話を聞く羽目に。

 更新されていないセーブポイントは私を王城での茶会へと連れ戻しています。

 どうしたら良いのだろう。

 私は考えていました。カルロを救う術はないのか。恩に報いるため、私には何ができるのかと。

(もう逃げ道はない)

 無慈悲にも世界は私を救ってくれない。

 ただルークから逃げたいだけであったというのに、どうしても私を逃してくれないのです。それが予め決められた結末であるかのように。

(でも、カルロだけは生かす……)

 私は決意していました。

 自由を得ることはもう諦めている。ならば、カルロだけでも助かる未来を手に入れようと。

「セシル殿下、どうか助けてください……」

 もうセシルを頼るしかない。

 大国セントローゼス王国の第三王子殿下。彼に小国同士の揉め事へと首を突っ込んでもらうことしか。

「突然、何を……?」

 流石に戸惑うセシルですが、私は止まらない。もう自分でさえも止められないのよ。

「対価は私です。これから起こるサルバディール皇国とヴァリアント帝国の戦争に介入してください。殿下なら戦争を止められると、私は考えています」

 王子であるセシルに支払うのは私自身だ。お金で満足してもらえるとは思えないもの。

「本気ですか? いや、戦争って勃発する前提なのでしょうか?」

 驚くのも無理はないね。グレン大臣が死去したあと開戦となるだなんて、この時点のセシルが知るはずもありません。

「確実に到来する未来ですわ。私の予知では皇国と帝国は共に滅びてしまいます」

 セシルは考えるようにしている。

 火竜の聖女がしたという予知を精査しているかのように。

「双方とも滅びる? ルイ様はラマティック正教会の所属ですし、統治者が変わるだけではないのでしょうか?」

「私は匿っていただいた皇国に感謝しております。その恩義に報いなければなりません。ですが、私ではどうすることもできないのです」

 尚も訴える私ですが、事態は好転しません。

 セシルにとって大陸の東端で勃発するいざこざは首を突っ込むに値しない話のようです。

「僕には王国軍を動かす権力がありません……」

 やはり軍は動かせない。当たり前ですけれど、第三王子殿下にそのような権力は与えられていないとのこと。

「やはり、カルロ殿下を心配されているのでしょうか?」

 セシルの質問には頷きを返す。

 それ以外の理由はない。私は彼を助けると決めたんだ。この世界線を選んでしまった私には彼を救う義務がある。

「もちろんです。恩義に感じておりますから。私は見過ごせないのです」

 世界も女神も私を救おうとしない。

 最後まで私が王宮物語にキャスティングされているのだと確信を得た。だけど、カルロだけは私を助けようとしてくれたんだもの。

 世界と女神がどう考えていようと、カルロだけは絶対に救ってみせる。

「そうですか。では、先ほどの話は本気なのですね? 対価はルイ様自身であるというお話は……」

 セシルは真っ直ぐに私を見ている。私の真意を確認しようとして。

 逃げ道がないのだから、私は決めなきゃいけない。

 私は最初から最後まで天界によって送り込まれた主人公的プレイヤー。心を捨てたとしても、プレイし続ける役目が私にはある。

「私を好きにしていただいて結構です。妻でも妾でも。私はもう逃げないと決めたのです」

 逃げ切れないのだから、受け入れる。

 受け入れたのなら、即座に終わらせる。

 どうせ百年も生きるはずがないもの。今までに過ごした期間を考えると、それは僅かな時間よ。

 心が叫び声を上げようとも、苦しんでいる内に終わりを告げることでしょう。

「妾だなんてそんな……。ルイ様、貴方は美しいです。久しぶりにお会いした貴方様はまるで太陽のよう。貴方が手に入るのなら、僕は悪魔にでも魂を売り払うでしょう」

 私はセシルの同意を取り付けていました。

 権力がないと口にした彼でしたが、労力に見合った報酬に気が変わったのかもしれません。

「よろしくお願いいたしますわ。私はもう疲れてしまいました。攻めることも逃げることにも。世界が与える運命を受け入れ、ただ時を経ていくだけ……」

 希望も何もないの。もう一度、ルークと結ばれるのでなければ、私はただのお人形だ。

 誰かに愛され、誰かの子をもうける。天界の導く結末が一定なのだから、それはセシルと決まっているのよ。

「茶会には出席いたしませんので、私はこれで。ご機嫌よう……」

 空振りに終わった世界線と同じく、私は茶会をキャンセルすることに。

 まともな交流ができるはずもない。カルロに斬り殺されて戻ってきた私は正常な精神状態ではなかったのですから。

 一人、馬車へと戻る。会場であるガゼボを目前にして、私は屋敷へと戻っていく。

 屋敷にはカルロがいるだろうけれど、気にする必要はない。

 愛ゆえに私を斬った事実は私しか知らないのだから。


 どこまでも救いようのない愛の行方。

 私は意志を介さず、この身を委ねることに決めていました。

 決められたままを生きるしか、私にはないってことを。
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