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第八章 絶望の連鎖に
神の鉄槌
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「野蛮なる侵略者ヴァリアント帝国に告ぐ! 私はノヴァ聖教軍の代表であり、火竜の聖女ルイ・ローズマリー。我がノヴァ聖教国に攻め入った愚か者たち、直ちに降伏しなさい」
拡声魔法により、私は声を届ける。
城だけでなく、帝都の住人たちにも聞こえるように。
「私は怒りを覚えています。かつて火竜の聖女が行った粛正を受けたくないのであれば、降伏すること。降伏するのであれば、罰は施政者だけにしか与えないと約束しましょう……」
戦うよりも効率的。私は無駄と分かっていても、降伏を勧めることに。
だけど、ただ待つだけじゃありません。
「五分おきに古代魔法を撃ち込みます。どうか立派なお城が廃墟となる前にご決断くださいな?」
慈悲などありません。抵抗するなら叩くだけ。
策に嵌まった帝国ですけれど、明確に戦争状態であるのですから。
上空を旋回する私は追加の警告をすることなく待っています。
拡声魔法は恐らくお城の中まで声を届けたはず。早急に話し合いが始まったことだろうと疑っておりません。
ところが、
「悪魔の使いよ、滅びろ!!」
グロムシェイド城の中庭に現れた幾人かの集団。杖を持っていることから、魔道士部隊であると予想されます。
「残念ね……」
彼らは魔法を撃ち放ってきました。上空にいる私に向かって。
これは許諾されなかったことを意味します。徹底抗戦を彼らは選ぶらしい。
「効かないわよ?」
魔道士隊の魔法は様々な属性攻撃でありましたけれど、私にはアンチマジックの術式が施されています。
全ての攻撃は届くことなく消失していました。
「よろしい。邪悪な帝国には神の裁きを与えましょう。帝国民の皆様、本日を以て皇帝の支配は終わりを告げます。その一部始終をお見逃しなく……」
私は古代魔法の詠唱を始めます。と同時にマリィも火球を生成し始めている。
どの道、グロムシェイド城は木っ端微塵にするつもり。彼女を止めるつもりはありません。
巨大な多重術式魔法陣は城下からもよく見えたことでしょう。
私が語った神の裁きという言葉の意味を分かってもらえたはず。
「ロナ・メテオ・バースト!!」
「ガァァアアアッッ!!」
二つ同時に放たれていました。
巨大な隕石と火球がグロムシェイド城を襲います。
夕闇を照らす強大な爆発が起きた。誰の目にも分かる神の裁き。
黒煙を上げるグロムシェイド城の光景は目撃した人たちの目に焼き付いたことでしょう。
「帝国民たちよ、よく見ておきなさい。己を過信した者たちの末路。残念ながら、私の要求は却下されたようです。力を誇示した者たちは同じ力によって滅びゆく。より強大な存在が広大な世界にはあるのですよ。それを理解しない無知なる施政者が貴方たちの君主でありました」
今もなお私には幾つもの魔法が向かっていましたが、一つとして届くことがない。
その姿を帝国民はどう見ているのか。できれば悪魔ではなく、神なる力として見てもらいたいところです。
「ロナ・メテオ・バーストォォッ!」
私は再び古代魔法を撃ち放つ。此度もまたマリィが私の攻撃に合わせていました。
もう殲滅しかない。今さら降伏されたとして和解などあり得ないのだと。
私が愛の淀みから逃げ切れるように。助けてくれた人を生かすためだけに。
このあと私は五発の古代魔法を撃ち込んでいます。
既にグロムシェイド城には生存者などいないことでしょう。そこにお城が存在したという面影は少しですらなかったのですから。
「私は今を以て、この地の統治者となりました。このあとノヴァ聖教軍が侵攻して参ります。抵抗しなければ以前と変わらぬ生活を保障いたしますわ。火竜の聖女の名において、貴方たちの平穏はお約束いたします」
地方にはまだ貴族がいるだろうけれど、施政者が変わったことを明確にしなければならない。
それによってサルバディール皇国の戦争に加わる大義名分が生まれるのだから。
「既存の貴族たちも降伏するように。私に反旗を翻すのであれば容赦いたしません。今後はラマティック正教会を国教とし、住みよい世界を構築して参りましょう。これより、私はこの地を守るべく行動いたします。国境線上で我が国と戦争を繰り返しているかの国へ……」
私は告げるだけだ。
次なる目的を帝国民に知らしめるだけ。
「サルバディール皇国軍に神の鉄槌を――」
これにて事前準備は全て整いました。
暦はまだ八月上旬。カルロが前線へと入るまで二週間ほど残っています。
帝都の上空をグルリと旋回しつつ、私は帝国民にその姿を晒していました。
「元帝国民たちよ、今や貴方たちは火竜の聖女ルイ・ローズマリーの庇護下におかれました」
住民たちに火竜の聖女として認識してもらう。彼らに受け入れてもらわねば、私の正義は成り立たない。
「ご安心ください。我がノヴァ聖教国は善政を敷くとお約束しましょう。凶悪な統治者は既に輪廻へと還しておりますので」
完全制圧を目指している。しかし、余計な血を流すつもりはありません。
「悪の残党が現れたのであれば、先ほどと同じ罰を与えます。皇帝の顔色を窺う生活はもう終わりを告げたのですから」
上空からでも視線を感じます。私は今、神にでもなったような気がしていました。
「我が臣民たちには秩序と自由を与えましょう。世を乱す者には奈落へとご案内いたします」
戦争なんて望むはずがない。圧政を強いる皇帝との比較であれば、悪に染まった私とて慈悲深き神に見えたことでしょう。
「貴方たちの未来に光を。大いなる愛の女神の使徒として祝福を授けます!」
神聖魔法を行使すれば、神の御業を見るだろう。
その神々しさにおののき、跪き、そして畏怖することになる。
「プロメティア世界に祝福を! ホーリー・ブレス!」
神秘的な輝きで帝都を満たす。
白昼に星たちが煌めくかの如く、幾億という輝きが降り注いでいく。
歓声にも似た声。私には届いていました。
「聖なる民たちよ、私はこれより前線へと赴き、戦争を終結させます。ノヴァ聖教国軍に協力してください。彼らの指示をよく聞くのですよ?」
言って私は進路を変える。
国境線での戦闘。最終目的地へと赴くのでした。
拡声魔法により、私は声を届ける。
城だけでなく、帝都の住人たちにも聞こえるように。
「私は怒りを覚えています。かつて火竜の聖女が行った粛正を受けたくないのであれば、降伏すること。降伏するのであれば、罰は施政者だけにしか与えないと約束しましょう……」
戦うよりも効率的。私は無駄と分かっていても、降伏を勧めることに。
だけど、ただ待つだけじゃありません。
「五分おきに古代魔法を撃ち込みます。どうか立派なお城が廃墟となる前にご決断くださいな?」
慈悲などありません。抵抗するなら叩くだけ。
策に嵌まった帝国ですけれど、明確に戦争状態であるのですから。
上空を旋回する私は追加の警告をすることなく待っています。
拡声魔法は恐らくお城の中まで声を届けたはず。早急に話し合いが始まったことだろうと疑っておりません。
ところが、
「悪魔の使いよ、滅びろ!!」
グロムシェイド城の中庭に現れた幾人かの集団。杖を持っていることから、魔道士部隊であると予想されます。
「残念ね……」
彼らは魔法を撃ち放ってきました。上空にいる私に向かって。
これは許諾されなかったことを意味します。徹底抗戦を彼らは選ぶらしい。
「効かないわよ?」
魔道士隊の魔法は様々な属性攻撃でありましたけれど、私にはアンチマジックの術式が施されています。
全ての攻撃は届くことなく消失していました。
「よろしい。邪悪な帝国には神の裁きを与えましょう。帝国民の皆様、本日を以て皇帝の支配は終わりを告げます。その一部始終をお見逃しなく……」
私は古代魔法の詠唱を始めます。と同時にマリィも火球を生成し始めている。
どの道、グロムシェイド城は木っ端微塵にするつもり。彼女を止めるつもりはありません。
巨大な多重術式魔法陣は城下からもよく見えたことでしょう。
私が語った神の裁きという言葉の意味を分かってもらえたはず。
「ロナ・メテオ・バースト!!」
「ガァァアアアッッ!!」
二つ同時に放たれていました。
巨大な隕石と火球がグロムシェイド城を襲います。
夕闇を照らす強大な爆発が起きた。誰の目にも分かる神の裁き。
黒煙を上げるグロムシェイド城の光景は目撃した人たちの目に焼き付いたことでしょう。
「帝国民たちよ、よく見ておきなさい。己を過信した者たちの末路。残念ながら、私の要求は却下されたようです。力を誇示した者たちは同じ力によって滅びゆく。より強大な存在が広大な世界にはあるのですよ。それを理解しない無知なる施政者が貴方たちの君主でありました」
今もなお私には幾つもの魔法が向かっていましたが、一つとして届くことがない。
その姿を帝国民はどう見ているのか。できれば悪魔ではなく、神なる力として見てもらいたいところです。
「ロナ・メテオ・バーストォォッ!」
私は再び古代魔法を撃ち放つ。此度もまたマリィが私の攻撃に合わせていました。
もう殲滅しかない。今さら降伏されたとして和解などあり得ないのだと。
私が愛の淀みから逃げ切れるように。助けてくれた人を生かすためだけに。
このあと私は五発の古代魔法を撃ち込んでいます。
既にグロムシェイド城には生存者などいないことでしょう。そこにお城が存在したという面影は少しですらなかったのですから。
「私は今を以て、この地の統治者となりました。このあとノヴァ聖教軍が侵攻して参ります。抵抗しなければ以前と変わらぬ生活を保障いたしますわ。火竜の聖女の名において、貴方たちの平穏はお約束いたします」
地方にはまだ貴族がいるだろうけれど、施政者が変わったことを明確にしなければならない。
それによってサルバディール皇国の戦争に加わる大義名分が生まれるのだから。
「既存の貴族たちも降伏するように。私に反旗を翻すのであれば容赦いたしません。今後はラマティック正教会を国教とし、住みよい世界を構築して参りましょう。これより、私はこの地を守るべく行動いたします。国境線上で我が国と戦争を繰り返しているかの国へ……」
私は告げるだけだ。
次なる目的を帝国民に知らしめるだけ。
「サルバディール皇国軍に神の鉄槌を――」
これにて事前準備は全て整いました。
暦はまだ八月上旬。カルロが前線へと入るまで二週間ほど残っています。
帝都の上空をグルリと旋回しつつ、私は帝国民にその姿を晒していました。
「元帝国民たちよ、今や貴方たちは火竜の聖女ルイ・ローズマリーの庇護下におかれました」
住民たちに火竜の聖女として認識してもらう。彼らに受け入れてもらわねば、私の正義は成り立たない。
「ご安心ください。我がノヴァ聖教国は善政を敷くとお約束しましょう。凶悪な統治者は既に輪廻へと還しておりますので」
完全制圧を目指している。しかし、余計な血を流すつもりはありません。
「悪の残党が現れたのであれば、先ほどと同じ罰を与えます。皇帝の顔色を窺う生活はもう終わりを告げたのですから」
上空からでも視線を感じます。私は今、神にでもなったような気がしていました。
「我が臣民たちには秩序と自由を与えましょう。世を乱す者には奈落へとご案内いたします」
戦争なんて望むはずがない。圧政を強いる皇帝との比較であれば、悪に染まった私とて慈悲深き神に見えたことでしょう。
「貴方たちの未来に光を。大いなる愛の女神の使徒として祝福を授けます!」
神聖魔法を行使すれば、神の御業を見るだろう。
その神々しさにおののき、跪き、そして畏怖することになる。
「プロメティア世界に祝福を! ホーリー・ブレス!」
神秘的な輝きで帝都を満たす。
白昼に星たちが煌めくかの如く、幾億という輝きが降り注いでいく。
歓声にも似た声。私には届いていました。
「聖なる民たちよ、私はこれより前線へと赴き、戦争を終結させます。ノヴァ聖教国軍に協力してください。彼らの指示をよく聞くのですよ?」
言って私は進路を変える。
国境線での戦闘。最終目的地へと赴くのでした。
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