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第八章 絶望の連鎖に
聖戦の準備
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礼拝を終えた私はダミアン大司教に連れられ、元王城であった聖教議会へと赴いています。
昨日、約束を取り付けたままに、マクスウェル聖議長は時間を取ってくれたみたいです。
「ルイ様、先ほどの演説には感動いたしました。まさか、あのような覚悟をもっておられたとは私も予想しておりませんでしたね」
道すがらダミアンが言った。
建前は巡礼の旅に出た聖女ですからね。そう感じるのも無理はないと思います。
「戦争が始まってしまった以上は後手に回らぬようにいたしましょう。マリィと私に助力していただけるのなら、必ずやこの地に安寧をもたらせるとお約束しますわ」
「それは心強い。さあ、こちらです。既にマクスウェル聖議長がお待ちですので」
言って扉を開いてくれる。
小国らしい地味な装飾が施された部屋。
長机の向こう側に座っている人物こそがマクスウェル聖議長なのでしょう。
「マクスウェル聖議長様、お時間をいただき恐縮ですわ」
敵対してはならない。ここは弱腰でも同意を得なければなりません。
壮大な計画が最初の段階で躓くなんて、あってはならないことですから。
私は徐にベールを脱いで、素顔を晒しています。
「ほう、お噂には聞いておりましたが、枢機卿のご尊顔は想像以上ですな。人々を惹き付けるのも頷ける話です」
国のトップであるというのに、腰が低いね。
これなら異様に沸点の低い私でも、きちんとお話できそうだわ。オホホホ。
「いやですわ。私程度の女性はそこら中におります。ですが、同じ志という意味では存在しないかもしれませんわね」
前置きはこれくらいでいいでしょう。少なからず好印象を得られたと思います。
「それで聖議長様、私は帝国の有りように疑問を感じておりますの。どうか、お力添えをいただきとうございます」
即答できるはずもないのだけど、やはり意思表明はしっかりしておかないと。
「ええ、私も先ほどの演説を拝見させてもらいました。由々しき事態であることは承知しております。ただ出兵に関しては議会の賛成を得ないことには難しいでしょう」
「時間は問題ありません。私は最悪の未来さえ回避できれば構わないと考えております。既に戦争は始まってしまいましたし、制止する手立てもございませんので」
「失礼ですが、確認させてください。ルイ様は我が国に滞在されるようですが、サルバディール皇国に加勢しなくてもよろしいので?」
念のためでしょうけれど、マクスウェル聖議長が聞きました。
私の所属は確実にサルバディール皇国なのです。演説でこの地を守るといった私に疑問を感じているのでしょう。
「皇国には加勢いたしません……」
小首を傾げるマクスウェル聖議長。予想していた返答でなかったのは明らかです。
「どうしてでしょう? ルイ様の就任はサルバディール皇家の推薦により成されております。何らかの親交がおありかと考えておりましたけれど?」
「実をいうと、私は皇国の議会員と対立しておるのです。戦争反対と声を荒らげたのですが、結局は開戦してしまった。よって私は彼らまで救うつもりはないのです。現状はラマティック正教会の信徒たちを第一に考えております」
どうあっても議会とは折り合いがつきません。
カルロは議員たちを悪く言いませんでしたが、私はそんなに甘くないの。
「なるほど、そう言った経緯があるのですね。しかし、三つ巴となってしまえば、収まりがつかないのではないでしょうか?」
「問題ありません。私たちラマティック正教会は最小限の被害で最大級の効果を得られることでしょう。私が予知する未来に到達さえできれば……」
「最大級の効果でしょうか?」
疑問が大きくなっているみたいね。
しかし、簡潔に伝えられる内容でしかありません。
「運命はラマティック正教会に傾いております。三国を巻き込んだ戦争はラマティック正教会、つまりはノヴァ聖教国にのみ正義がある。聖教国は三国を統一し、世界を導いていく。それが予知の全貌でございます」
どこまでも逃げてやるわ。私は心の平穏を求め、どこまでも彷徨う。
たとえ嘘で塗り固められた聖域であったとしても構わないのだから。
「聖戦となるのですか?」
「確実に巻き込まれます。ヴァリアント帝国は程なく聖教国の領土へと攻勢を強めるでしょう。二面作戦にて大陸の南東部を制圧するつもりです」
それはコンラッド頼みです。
彼が上手く潜入し、ノヴァ聖教国に攻め込んでくれないことには計画が実行できないのですから。
「確実にそのときが訪れます。僧兵だけでなく、民衆からも意欲のある者を登用し、準備しなければなりません」
「かつて火竜の聖女はこの地を救ったと伝わっております。アンジェラ・ローズマリーの生まれ変わりである貴方様の意向に沿うことができるでしょう」
どうやらラマティック正教会は火竜の聖女アンジェラ・ローズマリーに救われた歴史があるみたい。
私が枢機卿になれたのも、惜しみない協力もアンジェラのおかげなのかもしれません。
笑顔で頷いた私はマクスウェル聖議長に返すのでした。
世界に安寧をもたらせましょう――と。
昨日、約束を取り付けたままに、マクスウェル聖議長は時間を取ってくれたみたいです。
「ルイ様、先ほどの演説には感動いたしました。まさか、あのような覚悟をもっておられたとは私も予想しておりませんでしたね」
道すがらダミアンが言った。
建前は巡礼の旅に出た聖女ですからね。そう感じるのも無理はないと思います。
「戦争が始まってしまった以上は後手に回らぬようにいたしましょう。マリィと私に助力していただけるのなら、必ずやこの地に安寧をもたらせるとお約束しますわ」
「それは心強い。さあ、こちらです。既にマクスウェル聖議長がお待ちですので」
言って扉を開いてくれる。
小国らしい地味な装飾が施された部屋。
長机の向こう側に座っている人物こそがマクスウェル聖議長なのでしょう。
「マクスウェル聖議長様、お時間をいただき恐縮ですわ」
敵対してはならない。ここは弱腰でも同意を得なければなりません。
壮大な計画が最初の段階で躓くなんて、あってはならないことですから。
私は徐にベールを脱いで、素顔を晒しています。
「ほう、お噂には聞いておりましたが、枢機卿のご尊顔は想像以上ですな。人々を惹き付けるのも頷ける話です」
国のトップであるというのに、腰が低いね。
これなら異様に沸点の低い私でも、きちんとお話できそうだわ。オホホホ。
「いやですわ。私程度の女性はそこら中におります。ですが、同じ志という意味では存在しないかもしれませんわね」
前置きはこれくらいでいいでしょう。少なからず好印象を得られたと思います。
「それで聖議長様、私は帝国の有りように疑問を感じておりますの。どうか、お力添えをいただきとうございます」
即答できるはずもないのだけど、やはり意思表明はしっかりしておかないと。
「ええ、私も先ほどの演説を拝見させてもらいました。由々しき事態であることは承知しております。ただ出兵に関しては議会の賛成を得ないことには難しいでしょう」
「時間は問題ありません。私は最悪の未来さえ回避できれば構わないと考えております。既に戦争は始まってしまいましたし、制止する手立てもございませんので」
「失礼ですが、確認させてください。ルイ様は我が国に滞在されるようですが、サルバディール皇国に加勢しなくてもよろしいので?」
念のためでしょうけれど、マクスウェル聖議長が聞きました。
私の所属は確実にサルバディール皇国なのです。演説でこの地を守るといった私に疑問を感じているのでしょう。
「皇国には加勢いたしません……」
小首を傾げるマクスウェル聖議長。予想していた返答でなかったのは明らかです。
「どうしてでしょう? ルイ様の就任はサルバディール皇家の推薦により成されております。何らかの親交がおありかと考えておりましたけれど?」
「実をいうと、私は皇国の議会員と対立しておるのです。戦争反対と声を荒らげたのですが、結局は開戦してしまった。よって私は彼らまで救うつもりはないのです。現状はラマティック正教会の信徒たちを第一に考えております」
どうあっても議会とは折り合いがつきません。
カルロは議員たちを悪く言いませんでしたが、私はそんなに甘くないの。
「なるほど、そう言った経緯があるのですね。しかし、三つ巴となってしまえば、収まりがつかないのではないでしょうか?」
「問題ありません。私たちラマティック正教会は最小限の被害で最大級の効果を得られることでしょう。私が予知する未来に到達さえできれば……」
「最大級の効果でしょうか?」
疑問が大きくなっているみたいね。
しかし、簡潔に伝えられる内容でしかありません。
「運命はラマティック正教会に傾いております。三国を巻き込んだ戦争はラマティック正教会、つまりはノヴァ聖教国にのみ正義がある。聖教国は三国を統一し、世界を導いていく。それが予知の全貌でございます」
どこまでも逃げてやるわ。私は心の平穏を求め、どこまでも彷徨う。
たとえ嘘で塗り固められた聖域であったとしても構わないのだから。
「聖戦となるのですか?」
「確実に巻き込まれます。ヴァリアント帝国は程なく聖教国の領土へと攻勢を強めるでしょう。二面作戦にて大陸の南東部を制圧するつもりです」
それはコンラッド頼みです。
彼が上手く潜入し、ノヴァ聖教国に攻め込んでくれないことには計画が実行できないのですから。
「確実にそのときが訪れます。僧兵だけでなく、民衆からも意欲のある者を登用し、準備しなければなりません」
「かつて火竜の聖女はこの地を救ったと伝わっております。アンジェラ・ローズマリーの生まれ変わりである貴方様の意向に沿うことができるでしょう」
どうやらラマティック正教会は火竜の聖女アンジェラ・ローズマリーに救われた歴史があるみたい。
私が枢機卿になれたのも、惜しみない協力もアンジェラのおかげなのかもしれません。
笑顔で頷いた私はマクスウェル聖議長に返すのでした。
世界に安寧をもたらせましょう――と。
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