青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

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第八章 絶望の連鎖に

すれ違うだけ

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 ソレスティア王城内にあるセシルの自室に第一王子ルークの姿があった。

「セシル、茶会で何があった?」

 意味不明な質問にセシルは小首を傾げている。

「いや、茶会でアナとどんな話をしたんだ?」

 続けられた話に、ようやくと理解する。

 ルイ・ローズマリーが長期休暇を前に帰国した話を聞いたのだと。

「いや、あまりに美しかったもので、婚約者になってくれませんかと……」

 イセリナが予想したままであった。

 ルークは貴族院で彼女の成長を見ていたけれど、セシルは出会う場がない。

 いきなり婚約を申し出るほど衝撃的であったのだと思われる。

「アナは断ったのか? それで帰国してしまったのか?」

「話は受けても良いとお返事をもらいました……」

 どうにも話が繋がらない。

 アナスタシアが了承したのであれば、彼女が国を出て行く必要はないはず。

「どういうことだ? 詳しく話してくれ」

「僕も驚いたのですけれど、ルイ様は戦争に参加されるみたいです。カルロ様への恩義を行動で示すために」

「お前は止めなかったのか!?」

 セシルは怒鳴られていた。

 兄の気持ちは知っていたけれど、兄は既に婚約者がいる。だからこそ、思い切って婚約話をしていたというのに。

「止めましたよ。しかし、彼女は本気でした。火竜の聖女は一国よりも強大なのだと。実際に彼女は王国の懸念であった火竜二頭を一撃で倒してしまわれたのでしょう?」

「ま、まあ確かに……」

 今も思い出す。ルークは強大な魔法をこの目で見た。勇ましい彼女の姿に一目惚れをしたのだ。

 火竜という災禍に対して臆することなく戦った彼女の雄姿が、今も脳裏に焼き付いたままである。

「アナは格好良かったな……」

 しかも十二歳という幼い頃の話。現在の彼女は当時よりも遥かに強くなっているのだと容易に想像できた。

「すまん。俺でも止められない」

「でしょ? それにカルロ殿下への恩義をなくさないことには彼女も前へと進めないのですよ」

 あの一件のあと、アナスタシアはサルバディール皇国へと行ってしまったのだ。

 嫌われたからだとしか思えない。だが、イセリナによると、アナスタシアも自分の事が好きだという。

(何が目的なんだ?)

 イセリナはアナスタシアが目的に真っ直ぐ突き進む人だとも語っている。

 自身もそれには同意しかないが、彼女が何を思って行動しているかなど想像もできない。

(俺のためであるのなら……)

 理由は分からないが、アナスタシアの気持ちは知らされていた。

 何しろアナスタシアは自分の婚約話を聞いて一日中泣き続けたという。嫌っている相手が誰と婚約しようと無関心であるはずだ。

(どうして、別れることになった?)

 疑問はそれだけだ。

 国外逃亡の理由はリッチモンド公爵に脅されていたという話が明らかとなっていたけれど、逃げる以外の道があったように思う。

(俺を頼れなかったのか?)

 第一王子である自分なら何とかできたかもしれない。

 なのに彼女は去って行くことで事態の収拾にあたった。

(やはり俺は頼りない王子だった……)

 結論はそんなところである。

 もし仮に有能な王子であれば、彼女は自分を頼ったかもしれない。

 しかし、証拠もない状況で信用ならない王子に真相を告げられるはずがないのだ。

「なぁ、セシル……」

 思わず口を衝いてしまう。

 自分には権利などなかったというのに、ルークは想いのままに告げていた。

「アナと婚約しないでくれ――」
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