青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

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第八章 絶望の連鎖に

歪んでいく世界

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「アナが枯れる……?」

「残念ですが、あの薔薇は人知れず枯れゆく運命ですわ。まあ、自身が望んでいるのですから仕方ありませんけれど……」

 イセリナが続けた話にルークは唇を噛む。

 彼女が何を言わんとしているのか理解できたからだ。

「今さらだろ? ランカスタ公爵家としても撤回なんかできない。俺たちの関係はもう決まっているんだ」

「お父様は別にワタクシじゃなくても構いませんのよ? もしも、外出先で摘んだ薔薇を接ぎ木したとしても、お父様はそれを愛でることでしょう」

 妙な話である。

 イセリナが婚約に前向きでないのは知っていたけれど、それでも既に王家とランカスタ公爵家は署名し終えているのだ。

「君の狙いは何だ?」

「ワタクシは楽をして生きたいのですわ。王妃だなんて面倒でしかありませんの。つまるところ、ワタクシの教育係がその責務を全うしてくれたなら楽だと申し上げております」

 彼女の教育係は聞く限りにアナスタシアである。

 既に婚約済みであったというのに、イセリナはその立場をアナスタシアに押し付けるような話をしていた。

 これまでの人生で何も問題がなかったのなら、可能かもしれない話だ。

 しかし、ルークは一度王太子候補から外されている。これまで以上の問題を抱えるわけにはならない。

「俺には無理だ……」

 そう告げるだけ。秘めたる想いは成就しないのだと。

「ならば諦めるのですね? もし仮にセシル殿下があの子を手に入れたとしても静観できるのですね?」

 イセリナは尚も感情を揺さぶる。

 確かセシルはエリカを婚約者に選ぼうとしていた。従って、セシルがアナスタシアを選ぶはずはないと思う。

「セシルは他の女性を選ぶよ……」

「そうなのですか? ルイはセシル殿下が参加された茶会に赴いてから様子がおかしいのです。どうしてかサルバディール皇国に戻ると話していましたが?」

 来年度の希望者に対する体験として茶会が開かれたことはルークも知っていた。

 彼も参加する予定であったのだが、婚約したことにより参加が見送られることになっている。

「セシルが何か言ったというのか?」

「殿下は物覚えが悪すぎますわね? ワタクシはルイならば男性が放っておかないと話したはず。茶会の出席者で有望な男性はセシル殿下のみ。何か問題が発生したのは明らかでしょう? ルイが逃げ出すほどの大問題が……」

 ルークは気が気でなかった。

 もしも初恋の人が弟に取られてしまったなら。そう考えるだけで正気を保てない。

「それは事実か?」

「さあ、憶測ですわ。ワタクシも茶会には参加しておりませんので……」

 長い息を吐くルーク。どうしてこうも悪い方向に進むのかと思えてならない。

 セシルとアナスタシアが結ばれる未来はどうしても受け入れられなかった。

「セシルと話をする。アナだけは勘弁してもらいたい」

「そうしてくださいな。ワタクシ、ルイがいませんと朝起きられないのですわ」

 婚約者の話には少しばかり笑みを零す。

 まあしかし、自身が誤った選択を繰り返しているのは理解できた。

 仮初めの婚約者に感謝をし、ルークは動き始めなければならないと思う。

 理想とは異なっても、落胆しない未来を手に入れようと。
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