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第八章 絶望の連鎖に

溜め息のわけ

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「ルイは殿下のことが好きですから……」

 静まり返るルークの自室。それだけはないと分かっていても、鼓動が高鳴っていく。

 堪らずルークは自身が覚えた絶望の記憶を掘り返していた。

「俺は完膚なきまでにフラれたんだぞ?」

「あの子は強情ですからね。自分が決めたことをやり遂げる強さがあるのですよ。その遣り取りがあった頃、ルイは問題ごとを抱えていました。最善の行動が意志に反して、殿下と縁を切ることだったのでしょう」

 呆然と頭を振るのはルークである。しかし、思い返せば不自然に感じるほど、アナスタシアは激昂していた。

 まるで縁を切ることを目的としていたかのように。

「そんな馬鹿な……?」

「殿下が王太子候補として復帰できたのはルイのおかげですわよ? 父をそそのかし、殿下の後ろ盾になれと言ったのはルイに他なりません。国外に逃げ、要職を得たルイが今さら首を突っ込む話ではないというのに」

 知らされていく事実。ルークの心臓は激しく脈打っていた。

「ルーク殿下を気にしていたからこそ、ルイは騒動に身を晒したのですわ。貴方様の潔白を証言したのです。キャサリンの誕生パーティーで見せたルイの表情は全てをやり終えたにしては、悲しげでありましたし……」

「嘘だ……」

 今もまだあの頃の感情が偽物だとは思えない。

 本気で妻に迎えようとしていたこと。彼女の魅力に抗えなくなり、思わず唇を奪おうとしたことまで。

「ワタクシが殿下と婚約した話をしたときには顔色も変えませんでしたけどね。狼狽えることもなく、非常につまらなかったですわ」

 続けられた話に安堵するルークだが、更に感情を揺さぶる話を聞いてしまう。

「まあ、一日中自室に籠もって泣いていましたからね。少なからずショックだったのだと思いますわ。ワタクシの部屋まで泣き声が聞こえて眠れませんでしたの」

 自身の婚約を知って泣き続けるわけ。

 簡単な理由にルークは時間をかけて考えていた。

 もしも知っていたら。

 事前に彼女の気持ちが分かっていたとすれば、イセリナが話すように策を練らずとも纏まったはず。

「俺は……やはり馬鹿だな」

「ええ、大馬鹿ですわね? 現在のルイは男性なら放っておかないことでしょう。近くで見ているワタクシが断言いたしますわ!」

 イセリナの話は理解している。何しろルークは直接謝罪したのだ。

 あの時には、まともに彼女の顔を見られなかった。

 想像以上に美しく成長した彼女を見てしまうと、決意した全てが瓦解するような気がしたから。

「まあ、あの美しい薔薇は恐らく、蕾のまま枯れてしまうことでしょう」

 続けられた話にルークが視線を上げる。

 望むような望まない話は興味を惹くに充分だった。

「アナが枯れる……?」

「あの子は殿下と同じ。自身の幸せなど考えておりませんわ。ワタクシはルイが止めてきたのなら、婚約の話は白紙に戻そうと考えていましたの。でも、あの子はおめでとうと言ってくれた。ワタクシはルイの本心を知っていましたのに……」

 イセリナの話は今さらであった。

 事実がどうあったとして、ルークにはどうしようもない。

 アナスタシアの助力を無にすることのないように選択を終えただけであるのだから。

 ルークの長い溜め息だけが、静まり返る部屋に漏れていた。
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