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第八章 絶望の連鎖に
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セントローゼス王国ソレスティア王城の一室に二つの陰があった。
一人はルーク・ルミナス・セントローゼス第一王子であり、もう一人は婚約者のイセリナ・イグニス・ランカスタである。
「殿下、何か話してくださらないと暇ですわ。ワタクシ、これでも忙しいのです」
「仕方ないだろ? 婚約者なんだし、ずっと放置しているわけにはならない」
どうやら二人は婚約した手前、会っているだけらしい。
不仲を周囲に察知されないように、ルークの自室で密談中である。
「気にしませんのに。これならベッドで寝ていた方がマシですわ」
「君は相変わらず歯に衣着せない物言いだな……」
「失礼ですわね。ワタクシの教育者はこれでも非常に恐ろしいのです。ワタクシが寝ていたら、容赦なく叩き起こす悪魔ですわ」
ルークは小首を傾げている。
イセリナの教育係と聞いてピンと来なかったのだ。
「花嫁修業に教育係を雇ったのか?」
「いいえ、十三歳の頃から一緒に暮らしておりますの」
益々分からない。
確かイセリナは十三歳になった折り、サルバディール皇国へ留学していたと聞いている。だからこそ、この美貌で今まで婚約者がいなかったのだと理解していた。
「ルイ・ローズマリーですわ」
返答を聞いたルークはシャンパンを吹き出してしまう。
一緒に暮らしているのは知っていたけれど、まさか教育係であったなんて思いもしないことだ。
「いや、アナは他国の枢機卿だぞ? 君の教育係だなんて……」
「そう言われましてもね。現に勉強から作法まであらゆることをさせられましたわ。あの子、元々が子爵家の出身なのに、何でも知っていますの!」
どうしてか誇らしげにイセリナは語る。
自身の教育係という同い年の女性について。
「じゃあ、アナに話したのか?」
「何のことです?」
「いやその……婚約のことだよ」
眉を顰めるのはイセリナである。
何となく察知していたけれど、自国の王子殿下がフラフラとしているのには不満げであった。
「ルーク殿下、ワタクシとの婚約が形式上だけであることは理解しております。しかし、いつまでも過去に縋っているなんて、どういうつもりですの?」
この婚約は国のためであり、過去を断ち切るためだと聞いたのだ。従って今もルイを気にかけるルークを腹立たしく思う。
「そもそも殿下がしっかりとしておれば、現状のような策を練る必要もなかったのです」
「どういうことだ?」
イセリナはルークの返答に首を振る。なぜに分からないのかと。
よってイセリナは全てを口にしてしまう。それをルークが望んでいないとしても。
「ルイは殿下のことが好きですから――」
一人はルーク・ルミナス・セントローゼス第一王子であり、もう一人は婚約者のイセリナ・イグニス・ランカスタである。
「殿下、何か話してくださらないと暇ですわ。ワタクシ、これでも忙しいのです」
「仕方ないだろ? 婚約者なんだし、ずっと放置しているわけにはならない」
どうやら二人は婚約した手前、会っているだけらしい。
不仲を周囲に察知されないように、ルークの自室で密談中である。
「気にしませんのに。これならベッドで寝ていた方がマシですわ」
「君は相変わらず歯に衣着せない物言いだな……」
「失礼ですわね。ワタクシの教育者はこれでも非常に恐ろしいのです。ワタクシが寝ていたら、容赦なく叩き起こす悪魔ですわ」
ルークは小首を傾げている。
イセリナの教育係と聞いてピンと来なかったのだ。
「花嫁修業に教育係を雇ったのか?」
「いいえ、十三歳の頃から一緒に暮らしておりますの」
益々分からない。
確かイセリナは十三歳になった折り、サルバディール皇国へ留学していたと聞いている。だからこそ、この美貌で今まで婚約者がいなかったのだと理解していた。
「ルイ・ローズマリーですわ」
返答を聞いたルークはシャンパンを吹き出してしまう。
一緒に暮らしているのは知っていたけれど、まさか教育係であったなんて思いもしないことだ。
「いや、アナは他国の枢機卿だぞ? 君の教育係だなんて……」
「そう言われましてもね。現に勉強から作法まであらゆることをさせられましたわ。あの子、元々が子爵家の出身なのに、何でも知っていますの!」
どうしてか誇らしげにイセリナは語る。
自身の教育係という同い年の女性について。
「じゃあ、アナに話したのか?」
「何のことです?」
「いやその……婚約のことだよ」
眉を顰めるのはイセリナである。
何となく察知していたけれど、自国の王子殿下がフラフラとしているのには不満げであった。
「ルーク殿下、ワタクシとの婚約が形式上だけであることは理解しております。しかし、いつまでも過去に縋っているなんて、どういうつもりですの?」
この婚約は国のためであり、過去を断ち切るためだと聞いたのだ。従って今もルイを気にかけるルークを腹立たしく思う。
「そもそも殿下がしっかりとしておれば、現状のような策を練る必要もなかったのです」
「どういうことだ?」
イセリナはルークの返答に首を振る。なぜに分からないのかと。
よってイセリナは全てを口にしてしまう。それをルークが望んでいないとしても。
「ルイは殿下のことが好きですから――」
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