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第八章 絶望の連鎖に
理想の世界
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「いいえ、両方よ……」
リックは顔を顰めています。
当然でしょうね。私が悪と定めた者の末路を彼は知っているのですから。
「まさか……ルイ様?」
「残念だけど、時間がないの。プランを変更します。皇国と帝国には仲良く滅びてもらうわ」
リックは唖然としていますが、それでも言葉を絞り出します。
「ご一考いただけませんか?」
「駄目よ。グズグズしていたら、カルロ殿下が前線に引っ張り出されてしまう。それこそ皇国の終焉を意味する。彼を生かすために、皇国は歴史から名を消すのよ……」
リックは静かに頷いていた。
カルロに仕える彼ならば、苦渋の決断を理解してくれることでしょう。
「カルロ殿下に報いる道はそれしかないの。もしも皇国が再興するならば、彼の力が必要。加えて言うならば、現状の議会は不要。リック、この意味合いが分かるかしら?」
私はリックに問う。
現状の国政を維持したいのか、或いは一新した方がいいのか。
膿を出し切るという私の決断に同意できるのかどうかを。
「ルイ様、貴方様はどこまでも歪んでおられる。しかし、目的を真っ直ぐに遂行できる強さをお持ちです。確かにカルロ殿下が失われては意味がありません。事を急ぐついでに悪いものを排除するというのも頷ける話です。ですが、長年従えてきた身としては首を縦に振りにくい。命令であれば良いのですけれど……」
忠臣であればこそかな。リックは背中を押す言葉を待っているみたい。
「嫌なら構わないのよ? 私は決めたことを成すだけだもの。それに契約破棄を望まなかったのは貴方自身ではなくて?」
あくまでリックに選択させる。
命令するのは簡単でいいけれど、やる気の問題に繋がるのだし。
「承知しました。私は何をすれば良いのでしょう? 貴方様が描く未来をお聞かせください」
「もちろん。貴方は議員たちに出兵を促しなさい。私の予知によると彼らは最後の最後まで皇城を離れない。皇国が敗戦する原因は彼ら。真っ先に私兵を出し、前線に陣取ることが戦争容認の条件とするのよ」
どのような条件を出そうとも、彼らは戦争を始める。戦争による利益の分配を考えている彼らであれば……。
「可能なのですか?」
「サルバディール皇と取り決めをするのです。戦争費用を貴族たちが拠出する代わりに、得られたもの全てを参加した貴族たちのものとするように。皇家は利益を享受せず、支出した割合で貴族たちが自由に分配していいと」
「それでは議員たちが余計に力を得てしまうのでは?」
「大丈夫よ……」
リックは私を何だと思っているのかしらね?
今もまだ聖人だと勘違いしているのかしら。
「議員たちは前線で排除するから――」
私の返答にリックだけでなく、コンラッドも声を失っています。
ようやく二人も私が何をしようとしているのか理解できたことでしょう。
「姫、というとノヴァ聖教国は帝国側につくということでしょうか?」
「いいえ、ノヴァ聖教国は戦線に加わる大義名分がありません。そこでコンラッド、貴方は帝国に侵入し、ノヴァ聖教国といざこざを起こしてください。帝国に攻め入る口実となるくらいの……」
クックと笑うコンラッド。彼にも一連の事柄が繋がったようです。
私が求める未来の絵が彼にも思い浮かんだことでしょう。
「承知しました。姫が戦いやすいようにしておきます。私の合流はいつになります?」
「前線に大半の兵を裂いていることでしょう。よって帝都を陥落させるのに魔力回復ポーション十本くらいですかね。帝都を落としたあと、私は聖教国と帝国の併合を宣言します。そのあとで合流しなさい」
「御意に。一夜にして帝国が滅びる様を拝見できるのは愉悦ですな?」
「ちょっと待ってください! ルイ様がノヴァ聖教国とヴァリアント帝国の併合を宣言されると前線はどうなるのです!?」
諜報部員を兼ねているのにリックは察しが悪いわね。
「私の国にサルバディール皇国は攻め込むのですよ? 反撃くらいするでしょう?」
息を呑むリック。回りくどく皇国を滅ぼす算段を彼もようやく理解できたことでしょう。
「戦争後に三国を統一。ノヴァ聖教国は大国として生まれ変わります。戦争に反対していた皇家の面々は皇位を剥奪となりますが、貴族位は与えましょう。しかし、戦争賛成派は親戚縁者まで全て断罪処分とします」
悪の芽は親戚縁者全てを排除する。
反乱分子がいたのでは新国など即座に瓦解してしまうでしょうし。
「姫、やはり貴方は頂点に立つお方。この計画は必ずや成功するでしょう。しかし、姫はよろしかったので? 貴方様はセントローゼス王国でもトップに立てる人だ。イレギュラーの排除が必要でしたら、お申し付けください」
コンラッドは暗殺者らしい話を口にしています。
恐らくイレギュラーとはイセリナのことだろうね。
ランカスタ公爵家に雇われている彼ですが、私のために動こうとしているのかもしれません。
「それは考えていません。私は楽に生きたいのよ。三国統一後は要職に就かせてもらうつもりよ。裏から操るだけでいいわ」
私は安穏と暮らせる場所を作らなきゃいけない。
逃げられるだけ逃げてみせる。心が求めていない現実から、できるだけ遠くへ。
急な作戦会議はこれで終わりです。
リックは皇城へと向かい、コンラッドは帝国への侵入。
私は一人ノヴァ聖教国へと出発します。
理想の居場所を確保するには動いていくしかないのだと。
リックは顔を顰めています。
当然でしょうね。私が悪と定めた者の末路を彼は知っているのですから。
「まさか……ルイ様?」
「残念だけど、時間がないの。プランを変更します。皇国と帝国には仲良く滅びてもらうわ」
リックは唖然としていますが、それでも言葉を絞り出します。
「ご一考いただけませんか?」
「駄目よ。グズグズしていたら、カルロ殿下が前線に引っ張り出されてしまう。それこそ皇国の終焉を意味する。彼を生かすために、皇国は歴史から名を消すのよ……」
リックは静かに頷いていた。
カルロに仕える彼ならば、苦渋の決断を理解してくれることでしょう。
「カルロ殿下に報いる道はそれしかないの。もしも皇国が再興するならば、彼の力が必要。加えて言うならば、現状の議会は不要。リック、この意味合いが分かるかしら?」
私はリックに問う。
現状の国政を維持したいのか、或いは一新した方がいいのか。
膿を出し切るという私の決断に同意できるのかどうかを。
「ルイ様、貴方様はどこまでも歪んでおられる。しかし、目的を真っ直ぐに遂行できる強さをお持ちです。確かにカルロ殿下が失われては意味がありません。事を急ぐついでに悪いものを排除するというのも頷ける話です。ですが、長年従えてきた身としては首を縦に振りにくい。命令であれば良いのですけれど……」
忠臣であればこそかな。リックは背中を押す言葉を待っているみたい。
「嫌なら構わないのよ? 私は決めたことを成すだけだもの。それに契約破棄を望まなかったのは貴方自身ではなくて?」
あくまでリックに選択させる。
命令するのは簡単でいいけれど、やる気の問題に繋がるのだし。
「承知しました。私は何をすれば良いのでしょう? 貴方様が描く未来をお聞かせください」
「もちろん。貴方は議員たちに出兵を促しなさい。私の予知によると彼らは最後の最後まで皇城を離れない。皇国が敗戦する原因は彼ら。真っ先に私兵を出し、前線に陣取ることが戦争容認の条件とするのよ」
どのような条件を出そうとも、彼らは戦争を始める。戦争による利益の分配を考えている彼らであれば……。
「可能なのですか?」
「サルバディール皇と取り決めをするのです。戦争費用を貴族たちが拠出する代わりに、得られたもの全てを参加した貴族たちのものとするように。皇家は利益を享受せず、支出した割合で貴族たちが自由に分配していいと」
「それでは議員たちが余計に力を得てしまうのでは?」
「大丈夫よ……」
リックは私を何だと思っているのかしらね?
今もまだ聖人だと勘違いしているのかしら。
「議員たちは前線で排除するから――」
私の返答にリックだけでなく、コンラッドも声を失っています。
ようやく二人も私が何をしようとしているのか理解できたことでしょう。
「姫、というとノヴァ聖教国は帝国側につくということでしょうか?」
「いいえ、ノヴァ聖教国は戦線に加わる大義名分がありません。そこでコンラッド、貴方は帝国に侵入し、ノヴァ聖教国といざこざを起こしてください。帝国に攻め入る口実となるくらいの……」
クックと笑うコンラッド。彼にも一連の事柄が繋がったようです。
私が求める未来の絵が彼にも思い浮かんだことでしょう。
「承知しました。姫が戦いやすいようにしておきます。私の合流はいつになります?」
「前線に大半の兵を裂いていることでしょう。よって帝都を陥落させるのに魔力回復ポーション十本くらいですかね。帝都を落としたあと、私は聖教国と帝国の併合を宣言します。そのあとで合流しなさい」
「御意に。一夜にして帝国が滅びる様を拝見できるのは愉悦ですな?」
「ちょっと待ってください! ルイ様がノヴァ聖教国とヴァリアント帝国の併合を宣言されると前線はどうなるのです!?」
諜報部員を兼ねているのにリックは察しが悪いわね。
「私の国にサルバディール皇国は攻め込むのですよ? 反撃くらいするでしょう?」
息を呑むリック。回りくどく皇国を滅ぼす算段を彼もようやく理解できたことでしょう。
「戦争後に三国を統一。ノヴァ聖教国は大国として生まれ変わります。戦争に反対していた皇家の面々は皇位を剥奪となりますが、貴族位は与えましょう。しかし、戦争賛成派は親戚縁者まで全て断罪処分とします」
悪の芽は親戚縁者全てを排除する。
反乱分子がいたのでは新国など即座に瓦解してしまうでしょうし。
「姫、やはり貴方は頂点に立つお方。この計画は必ずや成功するでしょう。しかし、姫はよろしかったので? 貴方様はセントローゼス王国でもトップに立てる人だ。イレギュラーの排除が必要でしたら、お申し付けください」
コンラッドは暗殺者らしい話を口にしています。
恐らくイレギュラーとはイセリナのことだろうね。
ランカスタ公爵家に雇われている彼ですが、私のために動こうとしているのかもしれません。
「それは考えていません。私は楽に生きたいのよ。三国統一後は要職に就かせてもらうつもりよ。裏から操るだけでいいわ」
私は安穏と暮らせる場所を作らなきゃいけない。
逃げられるだけ逃げてみせる。心が求めていない現実から、できるだけ遠くへ。
急な作戦会議はこれで終わりです。
リックは皇城へと向かい、コンラッドは帝国への侵入。
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