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第八章 絶望の連鎖に
帰国
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「何だと!? 皇国へ戻る!?」
この男は何を言っても文句を言います。
よって私は気にしていません。自身の意志を明確にするだけです。
「開戦が近い。何とかしなきゃ……」
私の一言でカルロは黙り込んでしまう。
母国が戦争を始めようとしていることくらいは彼にも分かったはず。
「ルイ、お前はどこまで知っている?」
聞き返すくらいです。最近の状況を彼も知っているのでしょう。
「恐らく戦争否定派のグレン大臣が亡くなられたのでは?」
開戦して三ヶ月後、夏休み明けにカルロは帰国することになります。
戦況が思わしくないからで、前線の指揮を執るためでした。
「そのあとは?」
「一ヶ月も経たないうちに開戦します。殿下は九月に前線へと赴くことになる。貴族院は卒業できません」
静かに聞いていたカルロでしたけれど、まだ何か疑問があったのか鋭い視線を向けていました。
「そのあとは?」
まるでゲーム内のキャラクターであるかのように、同じ言葉を繰り返すカルロ。
既に彼には伝えていたはずですけれど、詳しい説明を求めているのかもしれません。
「以前、話した通り帝国が勝利します」
「まだあるだろ? 俺は最終的な話が聞きたい」
せっかく伏せてあげたのに。
まあでも、彼は知るべきかも。母国や皇家がどのような結末を迎えるのか。
「カルロ殿下は前線で討ち死にですわ。参戦して僅か数ヶ月で……。もちろん、戦争の最後はウィンドヒル皇城の陥落。皇様も皇妃様も捕らえられ処刑されるという最後です」
カルロは眉根を寄せています。
私は知っている全てを伝えたはずなのに。
「ソフィアはどうなる?」
そういえばソフィア姫殿下について抜けていた。
彼女は戦争に参加することすらありませんでしたから。
「ソフィア姫殿下はセントローゼス王国に亡命されます。よって難を逃れた唯一の人間ですわ」
私はソフィアと出会う茶会をスルーしている。よって彼女は歴史の通りに王国へ亡命するでしょう。
「そうか。それならばいい……」
どうやらカルロは皇家の血が途絶えないことに満足しているみたい。
両親だけでなく、自分自身も討ち死にという結果であるというのに。
「怖くないの?」
「戦争を止められなかったんだ。自分の責任でしかない」
「そいや、皇城で説明したよね? 議会は負け戦だという話を信じてなかったの?」
「枢機卿に関してはラマティック正教会の管轄だぞ? 議会は関係ない。まあつまり、議会はお前を信じていない」
だからこそ教会で寝泊まりしていただろうとカルロ。どうやら教会に間借りしていたのはそういう理由みたいね。
「何て馬鹿揃いなの……」
「そういうな。あれでも皇国のためだと信じているんだ。俺は別に嫌いじゃない」
好き嫌いじゃなかったりするのよね。
皇国の存在が危うい。てか、滅亡は確定しているような気がするの。
だけど、私はできることをしようと思う。滅亡は避けられないとしても、カルロくらいは逃がしてやりたい。
それが私の恩返しであり、前へと進む転換点となるはずです。
「それでお前は今から皇国に向かうつもりか? 貴族院はどうする?」
「私は成績トップなのです。夏期休暇前の一ヶ月を休んだところで問題ありませんわ。理由はラマティック正教会の仕事だと言っておいてください」
「言っておいてって、まさか俺を置いていくつもりか?」
やはりついてくるつもりだったみたいね。でもさ、貴方は連れて行けないよ。これでも私の恩返しなんだからさ。
「殿下はお気になさらず。邪魔ですから。私とマリィは冒険者をしておりましたし、平気ですわ」
「しかしな……」
「心配なさらずとも、あと三ヶ月もすれば、殿下にも帰還要請があります。それまで充分な鍛錬を積んでおいてくださいまし」
戦闘経験は私の方が上でしょう。盗賊や暗殺者ばかりでしたけど、恐らくカルロは人を殺めた経験がないはずです。
「許可した覚えはないぞ?」
しかし、カルロは認めてくれませんでした。彼は私が一人で帰ることを許してくれません。
「カルロ殿下、姫様には私が同行しますので……」
突然、私たちが話し合う執務室の扉が開きました。
現れたのは、ずっと姿を見せなかったコンラッドでした。
「コンラッド、戻っていたの?」
「ええ、一応は魔道書を手に入れております」
どうやらコンラッドは命令していた魔道書を手に入れてくれたらしい。
受け取った魔道書を精査するのはあとにして、カルロへと視線を向けます。
「コンラッドはサルバディール皇国屈指の暗殺者ですわ。彼が一緒ならば下手なことにはなりません。出立して構わないですね?」
苦い顔をしているカルロですが、戦闘経験のある従者がいるのならと頷いています。
「無理はするな。戦争に直接関与するな。守れるなら認めよう」
「もちろんですわ! 私、こう見えて慎重に行動するタイプですの」
「嘘を言うな。くれぐれも思いつきで行動するんじゃないぞ?」
「分かってますって!」
早速と支度をしなければなりません。
きっと貴族院で過ごすよりもマシな生活が待っている。その期間に私は人生について見つめ直そうと思います。
執務室を飛び出していく私。
カルロが最後に口にした言葉は残念ながら届いていませんでした。
「俺は心配なんだよ――」
この男は何を言っても文句を言います。
よって私は気にしていません。自身の意志を明確にするだけです。
「開戦が近い。何とかしなきゃ……」
私の一言でカルロは黙り込んでしまう。
母国が戦争を始めようとしていることくらいは彼にも分かったはず。
「ルイ、お前はどこまで知っている?」
聞き返すくらいです。最近の状況を彼も知っているのでしょう。
「恐らく戦争否定派のグレン大臣が亡くなられたのでは?」
開戦して三ヶ月後、夏休み明けにカルロは帰国することになります。
戦況が思わしくないからで、前線の指揮を執るためでした。
「そのあとは?」
「一ヶ月も経たないうちに開戦します。殿下は九月に前線へと赴くことになる。貴族院は卒業できません」
静かに聞いていたカルロでしたけれど、まだ何か疑問があったのか鋭い視線を向けていました。
「そのあとは?」
まるでゲーム内のキャラクターであるかのように、同じ言葉を繰り返すカルロ。
既に彼には伝えていたはずですけれど、詳しい説明を求めているのかもしれません。
「以前、話した通り帝国が勝利します」
「まだあるだろ? 俺は最終的な話が聞きたい」
せっかく伏せてあげたのに。
まあでも、彼は知るべきかも。母国や皇家がどのような結末を迎えるのか。
「カルロ殿下は前線で討ち死にですわ。参戦して僅か数ヶ月で……。もちろん、戦争の最後はウィンドヒル皇城の陥落。皇様も皇妃様も捕らえられ処刑されるという最後です」
カルロは眉根を寄せています。
私は知っている全てを伝えたはずなのに。
「ソフィアはどうなる?」
そういえばソフィア姫殿下について抜けていた。
彼女は戦争に参加することすらありませんでしたから。
「ソフィア姫殿下はセントローゼス王国に亡命されます。よって難を逃れた唯一の人間ですわ」
私はソフィアと出会う茶会をスルーしている。よって彼女は歴史の通りに王国へ亡命するでしょう。
「そうか。それならばいい……」
どうやらカルロは皇家の血が途絶えないことに満足しているみたい。
両親だけでなく、自分自身も討ち死にという結果であるというのに。
「怖くないの?」
「戦争を止められなかったんだ。自分の責任でしかない」
「そいや、皇城で説明したよね? 議会は負け戦だという話を信じてなかったの?」
「枢機卿に関してはラマティック正教会の管轄だぞ? 議会は関係ない。まあつまり、議会はお前を信じていない」
だからこそ教会で寝泊まりしていただろうとカルロ。どうやら教会に間借りしていたのはそういう理由みたいね。
「何て馬鹿揃いなの……」
「そういうな。あれでも皇国のためだと信じているんだ。俺は別に嫌いじゃない」
好き嫌いじゃなかったりするのよね。
皇国の存在が危うい。てか、滅亡は確定しているような気がするの。
だけど、私はできることをしようと思う。滅亡は避けられないとしても、カルロくらいは逃がしてやりたい。
それが私の恩返しであり、前へと進む転換点となるはずです。
「それでお前は今から皇国に向かうつもりか? 貴族院はどうする?」
「私は成績トップなのです。夏期休暇前の一ヶ月を休んだところで問題ありませんわ。理由はラマティック正教会の仕事だと言っておいてください」
「言っておいてって、まさか俺を置いていくつもりか?」
やはりついてくるつもりだったみたいね。でもさ、貴方は連れて行けないよ。これでも私の恩返しなんだからさ。
「殿下はお気になさらず。邪魔ですから。私とマリィは冒険者をしておりましたし、平気ですわ」
「しかしな……」
「心配なさらずとも、あと三ヶ月もすれば、殿下にも帰還要請があります。それまで充分な鍛錬を積んでおいてくださいまし」
戦闘経験は私の方が上でしょう。盗賊や暗殺者ばかりでしたけど、恐らくカルロは人を殺めた経験がないはずです。
「許可した覚えはないぞ?」
しかし、カルロは認めてくれませんでした。彼は私が一人で帰ることを許してくれません。
「カルロ殿下、姫様には私が同行しますので……」
突然、私たちが話し合う執務室の扉が開きました。
現れたのは、ずっと姿を見せなかったコンラッドでした。
「コンラッド、戻っていたの?」
「ええ、一応は魔道書を手に入れております」
どうやらコンラッドは命令していた魔道書を手に入れてくれたらしい。
受け取った魔道書を精査するのはあとにして、カルロへと視線を向けます。
「コンラッドはサルバディール皇国屈指の暗殺者ですわ。彼が一緒ならば下手なことにはなりません。出立して構わないですね?」
苦い顔をしているカルロですが、戦闘経験のある従者がいるのならと頷いています。
「無理はするな。戦争に直接関与するな。守れるなら認めよう」
「もちろんですわ! 私、こう見えて慎重に行動するタイプですの」
「嘘を言うな。くれぐれも思いつきで行動するんじゃないぞ?」
「分かってますって!」
早速と支度をしなければなりません。
きっと貴族院で過ごすよりもマシな生活が待っている。その期間に私は人生について見つめ直そうと思います。
執務室を飛び出していく私。
カルロが最後に口にした言葉は残念ながら届いていませんでした。
「俺は心配なんだよ――」
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