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第八章 絶望の連鎖に

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「僕の婚約者となってください……」

 唖然としてしましましたが、遅かれ早かれです。

 この茶会でセシルは私を婚約者候補の筆頭に据える。カルロの屋敷にまで来てしまうほど、本気で私を手に入れようとするでしょう。

「受けても構わないのですが、私にはまだやることがあります。それが済んでからでないとお返事はできかねますわ」

 ここは拒否しても意味がない。

 前世界線でそれは嫌というほど味わったのです。辛い思いをするだけならば、抗う必要はありません。

「やるべきことでしょうか?」

「ええ、とても厄介な予知なのです。私はその危機を回避するか、或いは真っ向から立ち向かうか選ばなくてはなりません」

 いずれセントローゼス王国へ戻るにしても、私にはやっておかねばならないことがある。

 逃げ道を通るのではなく、堂々とクリアしてから恋愛ゲームを再開するのだと決めた。

「サルバディール皇国とヴァリアント帝国間の戦争です……」

 セシルも知っているはず。両国間がきな臭いのは随分と前から続いていることですから。

「いや、光属性の神聖魔法で戦争を終結できるのですか?」

 まあ、そう思うのも無理はありません。

 長く燻った両国間の関係が神聖魔法で修復されるはずもないのです。

「サルバディール皇国のグレン大臣が死去されます。彼は戦争否定派の重鎮なのですよ。彼が軍を制止していたからこそ、戦争は始まらなかった。歯止めがなくなった彼らは戦争を始めてしまうのです」

 死に戻りの話は止めておきます。

 過去から語り出すと、私は再び壊れてしまうから。

「ルイ様が戦うと仰るのでしょうか?」

「もうお忘れでしょうか? 私はこう見えて火竜二頭を一撃にて消し去る大魔法使いでもあるのですよ?」

 思えばレグス近衛騎士団長ルートを選ぼうとしたことから、この世界線は始まっている。

 どうしようもなくなったのはあの頃の判断が間違っていたからでしょう。

「でも、一国を相手にして……」

「あら? 火竜は王国を滅ぼすと噂されていましたよね? 私一人で退治したのです。ならば、私はセントローゼス王国の軍勢よりも強いのではないでしょうか?」

「そんなの屁理屈です! 僕は貴方を失いたくありません!」

 私は死んだとして私だからね。

 貴方には分からないわ。私の真意なんか理解できるはずもない。

「受け入れてくれた恩義でしょうか!? 亡命の対価に命を懸けるとか馬鹿げています! 逃げたとしても構わないではないですか!?」

 違うのよ。実際に私は逃げているんだもの。

 戦争に加わることで、ルークから目を逸らそうとしているだけなのだから。

「私はサルバディール皇国へと戻ります。そこに答えがあることを願って……」

 小さく礼をした私は目的地であるガゼボから背を向ける。

 茶会に行くのは止めました。気分転換どころか、気が滅入るだけなんですもの。

「ルイ様、どこへ行かれるのでしょう?」

 ここまで来て引き返す私が信じられないみたい。

 でもね、私は既に茶会を経験しているのよ。二度も同じことをする時間が勿体ないの。

「目指すところは光の届かぬ場所でしょうかね……」

 戦争が起きてから皇国へ戻ろうと考えていましたが、先に行動しておこうと思う。

 今はまだ混乱していたし、頭を冷やすにはセントローゼス王国にいたのでは駄目なのよ。

 私は一足早くサルバディール皇国へと戻る決意を固めていました。
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