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第七章 光が射す方角
奇抜なドレス
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急な王子殿下の婚約話に世間は大騒動となっておりましたが、一ヶ月が過ぎてその話題も次第に下火となっていました。
私もようやく切り替えができた感じで、改めて自分の使命を思い出しています。
「私はアナスタシアなんだ。モブらしく生きるだけよ……」
せめてミランダやエレオノーラであれば、異なる世界線を選べたかもしれない。
けれど、子爵令嬢という下位貴族でスタートした私は現状が最高の状態であって、今以上を望むなんてできるはずもありません。
本日は予定していた茶会が催されます。
王城の中庭で行われるので、まるで気乗りしませんけれど、新しい人生に光明を見出すつもりで参加することにしました。
「ルイ、ドレスを用意した。これを着ていけ」
意外にもカルロは今日の茶会に合わせてドレスを用意してくれたみたい。
ようやく彼も所有物に餌を与える行為を覚えたらしいね。満たされない私を潤すものが何かを、理解したようで何よりだわ。
喜々としてドレスの収納箱を開封します。どのようなドレスを贈ってくれたのかと。
「何これ!?」
蓋を開いて取り出したドレス。私は目が点になっていました。
なぜなら、まるで喪服であるかのように真っ黒であったからです。
「それを着ていけ。命令だ……」
茶会への参加を認めたカルロですが、私を着飾らせるつもりはないようです。
「どのような辱めを受けるよりも恥ずかしいのですが?」
「それが嫌なら修道服を着ていけ」
カルロの物言いに、私は不満げな表情を向けます。
本当に乙女心を分かっていないわ。女子はチヤホヤされたいもの。なのに彼は常々私を日陰へと追いやってしまう。
「分かりました。闇を写し込んだかのようなこのドレスを着ていきます。理由を問われたなら、サルバディール皇国では誰もが黒いドレスを着ていると言いますからね?」
私の返答にカルロもまた眉を潜めますが、彼は何も言いませんでした。
自国の評判よりも私が目立つことを避けたいみたいです。
(ちくしょうめ……)
本当にサルバディール皇国の趣味が最悪だと言いふらしてやるんだから。
だけど、何とかストールとかでコーディネートして喪服だと思われないようにしないとね。
早速と着替えた私はカルロに挨拶することなく屋敷をあとにします。
イセリナは婚約の準備があるとかで、ランカスタ公爵邸へと向かっています。まあ茶会は出会いの場でもありますし、既に婚約者がいる彼女が参加すべきではありません。
とりあえず手持ちの宝石やら羽織るもので何とか誤魔化してみたのですが、基本的に喪服なので奇異の目に映ってしまうことでしょう。
とはいえ、所有者の意向でありますし、私としては気分転換の一つでもあります。別に喪女として見られようとも、私が楽しめたのなら問題なし。
馬車に乗り、私はソレスティア王城の正門から入っていきます。
中庭まで馬車は入り込めるのですけれど、やはり馬車を降りなければパティオの中心にあるガゼボへは辿り着けません。
「やっぱ勇気がいるな……」
過度に躊躇いを覚えますが、参加するしかない。今さら参加しないなど、エレオノーラの顔に泥を塗ることになってしまうし。
短気を起こしてドレスにて参加することにしたのは、やはり失敗でしたね。
「ええい、ままよ!」
私は扉を開いて、馬車を降りました。
周囲には豪華な馬車が幾つも停車しており、私の心を挫こうとしています。
純白の馬車が並べられた場所に暗黒のようなご令嬢が一人立っているのですから。
「ルイ様!」
会場へと向かう勇気がない私に声かけがありました。
思わず飛び上がってしまうほど驚きましたが、振り返る私は仰天させられてしまいます。
「セシル殿下!?」
私に声をかけたのはセシルでした。
彼もこれから会場入りするようで、従者を引き連れて歩いています。
「斬新なドレスですね!」
「ああいや、これは決して私の趣味ではなく、それでその……」
帰ったらカルロを殴る。それは決定事項です。これほどまでに恥ずかしい思いは初めてだよ。
「真っ黒な生地に真っ赤なボレロが映えてお似合いです。アナスタシア……ルイ様は随分と大人になられたようですね?」
私はなぜか謝るように頭を下げていました。
一応は喪服感から脱するため、真っ赤なボレロを羽織っているのです。社交辞令とはいえ、褒めてくれたことには感謝しかありません。
「えっと、セシル殿下も……」
自害エンドから始まったこの世界線において、セシルは熱烈な愛を囁いた彼ではありません。
最後に会ったのはカルロが貴族院の受験をした二年前でしょうか。
セシルも既に十六歳。背も随分と伸びて、私を見下ろすような感じになっています。
「はは、僕は相変わらずですよ。一緒に会場へ参りましょう。エスコートいたしますので」
マジですか……。喪服女のエスコートとかヤバいって。
私は王子殿下に何の罰ゲームを強いているのでしょうか。
「いえいえ、このような格好ですので、殿下のご評判が……」
「何を仰います? 凄くお似合いです。ルイ様の美しい髪色も浮き上がって見えます。僕は貴方様をエスコートしたいと考えているのですよ。どうぞ僕の腕を取ってください」
ここまで言われてしまえば、受け入れるしかありません。
たとえ社交辞令であろうとも、王子殿下のお話を何度も拒否するわけにはならないのですから。
溜め息しか零れませんね。自分だけが恥ずかしい思いをするのではなく、セシルまで巻き込んでしまったのだし。
(まあ、しかたないな……)
失笑は全て私が請け負う。こうなったら何とかセシルが笑われないように振る舞うだけよ。
決意をしたあと、私はセシルの腕へと手を伸ばすのでした。
私もようやく切り替えができた感じで、改めて自分の使命を思い出しています。
「私はアナスタシアなんだ。モブらしく生きるだけよ……」
せめてミランダやエレオノーラであれば、異なる世界線を選べたかもしれない。
けれど、子爵令嬢という下位貴族でスタートした私は現状が最高の状態であって、今以上を望むなんてできるはずもありません。
本日は予定していた茶会が催されます。
王城の中庭で行われるので、まるで気乗りしませんけれど、新しい人生に光明を見出すつもりで参加することにしました。
「ルイ、ドレスを用意した。これを着ていけ」
意外にもカルロは今日の茶会に合わせてドレスを用意してくれたみたい。
ようやく彼も所有物に餌を与える行為を覚えたらしいね。満たされない私を潤すものが何かを、理解したようで何よりだわ。
喜々としてドレスの収納箱を開封します。どのようなドレスを贈ってくれたのかと。
「何これ!?」
蓋を開いて取り出したドレス。私は目が点になっていました。
なぜなら、まるで喪服であるかのように真っ黒であったからです。
「それを着ていけ。命令だ……」
茶会への参加を認めたカルロですが、私を着飾らせるつもりはないようです。
「どのような辱めを受けるよりも恥ずかしいのですが?」
「それが嫌なら修道服を着ていけ」
カルロの物言いに、私は不満げな表情を向けます。
本当に乙女心を分かっていないわ。女子はチヤホヤされたいもの。なのに彼は常々私を日陰へと追いやってしまう。
「分かりました。闇を写し込んだかのようなこのドレスを着ていきます。理由を問われたなら、サルバディール皇国では誰もが黒いドレスを着ていると言いますからね?」
私の返答にカルロもまた眉を潜めますが、彼は何も言いませんでした。
自国の評判よりも私が目立つことを避けたいみたいです。
(ちくしょうめ……)
本当にサルバディール皇国の趣味が最悪だと言いふらしてやるんだから。
だけど、何とかストールとかでコーディネートして喪服だと思われないようにしないとね。
早速と着替えた私はカルロに挨拶することなく屋敷をあとにします。
イセリナは婚約の準備があるとかで、ランカスタ公爵邸へと向かっています。まあ茶会は出会いの場でもありますし、既に婚約者がいる彼女が参加すべきではありません。
とりあえず手持ちの宝石やら羽織るもので何とか誤魔化してみたのですが、基本的に喪服なので奇異の目に映ってしまうことでしょう。
とはいえ、所有者の意向でありますし、私としては気分転換の一つでもあります。別に喪女として見られようとも、私が楽しめたのなら問題なし。
馬車に乗り、私はソレスティア王城の正門から入っていきます。
中庭まで馬車は入り込めるのですけれど、やはり馬車を降りなければパティオの中心にあるガゼボへは辿り着けません。
「やっぱ勇気がいるな……」
過度に躊躇いを覚えますが、参加するしかない。今さら参加しないなど、エレオノーラの顔に泥を塗ることになってしまうし。
短気を起こしてドレスにて参加することにしたのは、やはり失敗でしたね。
「ええい、ままよ!」
私は扉を開いて、馬車を降りました。
周囲には豪華な馬車が幾つも停車しており、私の心を挫こうとしています。
純白の馬車が並べられた場所に暗黒のようなご令嬢が一人立っているのですから。
「ルイ様!」
会場へと向かう勇気がない私に声かけがありました。
思わず飛び上がってしまうほど驚きましたが、振り返る私は仰天させられてしまいます。
「セシル殿下!?」
私に声をかけたのはセシルでした。
彼もこれから会場入りするようで、従者を引き連れて歩いています。
「斬新なドレスですね!」
「ああいや、これは決して私の趣味ではなく、それでその……」
帰ったらカルロを殴る。それは決定事項です。これほどまでに恥ずかしい思いは初めてだよ。
「真っ黒な生地に真っ赤なボレロが映えてお似合いです。アナスタシア……ルイ様は随分と大人になられたようですね?」
私はなぜか謝るように頭を下げていました。
一応は喪服感から脱するため、真っ赤なボレロを羽織っているのです。社交辞令とはいえ、褒めてくれたことには感謝しかありません。
「えっと、セシル殿下も……」
自害エンドから始まったこの世界線において、セシルは熱烈な愛を囁いた彼ではありません。
最後に会ったのはカルロが貴族院の受験をした二年前でしょうか。
セシルも既に十六歳。背も随分と伸びて、私を見下ろすような感じになっています。
「はは、僕は相変わらずですよ。一緒に会場へ参りましょう。エスコートいたしますので」
マジですか……。喪服女のエスコートとかヤバいって。
私は王子殿下に何の罰ゲームを強いているのでしょうか。
「いえいえ、このような格好ですので、殿下のご評判が……」
「何を仰います? 凄くお似合いです。ルイ様の美しい髪色も浮き上がって見えます。僕は貴方様をエスコートしたいと考えているのですよ。どうぞ僕の腕を取ってください」
ここまで言われてしまえば、受け入れるしかありません。
たとえ社交辞令であろうとも、王子殿下のお話を何度も拒否するわけにはならないのですから。
溜め息しか零れませんね。自分だけが恥ずかしい思いをするのではなく、セシルまで巻き込んでしまったのだし。
(まあ、しかたないな……)
失笑は全て私が請け負う。こうなったら何とかセシルが笑われないように振る舞うだけよ。
決意をしたあと、私はセシルの腕へと手を伸ばすのでした。
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