青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

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第七章 光が射す方角

揺らぐ決意

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 屋敷に戻ると、カルロの大きな声がエントランスにまで届いています。

 正直にイセリナが何かやらかしたのだと思いますが、今は相手をするつもりもありません。

 ところが、自室に引き籠もろうとしたところで、イセリナがカルロの執務室から飛び出してきました。

「あら? ルイ、良いところに帰ってきましたわ!」

 私の気も知らず、イセリナは私を見るや笑顔を見せています。

 深呼吸をしてから、唇を噛んだ。心を強く持たなくてはなりません。イセリナとルークが結びつく未来は元より願っていたこと。

 少しばかり予定が早まっただけであり、飢饉や疫病と同じように前倒しとなっただけなのよ。

「どうしたの?」

 平静を装い質問を返します。

 何をやらかして、カルロに怒られているのかと。

「実は殿下が屋敷からワタクシを追い出そうとするのです。ルイからも言ってやってくださらない?」

 屋敷を追い出されるだなんて、何をしたのでしょうか。

 これまでも、イセリナは色々とやらかしていたのですけれど、追い出されはしなかったというのに。

「おい、俺を悪者にするな。当たり前のことを口にしただけだ」

「カルロ殿下、一体イセリナが何をしたというのです?」

 どうやらカルロは本気みたい。

 基本は寝ているだけのイセリナなのですが、彼の逆鱗に触れるようなことをしでかした模様です。

「婚約者がいる女と暮らせるわけがない……」

 ここで私は理由を知らされました。

 それは先ほども聞いた話に他なりません。ルークと婚約した話をイセリナがカルロに伝えた結果なのでしょう。

「婚約……?」

「ルイにはまだ話していませんでしたわね? ワタクシ、ルーク殿下と婚約したのですわ」

 シャルロット殿下の勘違いであればと少なからず考えていましたが、私はイセリナからその事実を突きつけられています。

 そういえば女神アマンダは言っていました。

 放っておいても、ルークとイセリナは婚約するだろうと。私のデータを反映した世界線において、二人は結ばれる運命にあると。

「そっか。おめでとう……」

「何? 覇気のない祝辞ね?」

 私の気も知らないでイセリナは文句を口にします。

 ぶっちゃけると祝いの言葉など選べる精神状態ではないというのに。

「急すぎるだろ? とにかく屋敷から出て行け。ランカスタ公爵家には別邸があるだろう? 第一王子の婚約者を泊めるなんて暴挙はできんからな!」

「別に構わないでしょう? ワタクシは殿下と一緒にいたいからここに住んでいるのではありませんの。ルイと一緒に過ごしたいからです。加えて言うならば、殿下は不要ですわ」

 言うに事欠いて、イセリナは家主が邪魔だと口にしています。

 この件に関してはカルロが正論でしょう。国際問題になりかねない事案を認めるはずがないのですから。

「イセリナ、公爵家の別邸は直ぐ近くでしょ? 諦めて出て行きなさいよ」

「嫌ですわ! ワタクシはこの屋敷から追い出されたくて婚約したわけではありませんの! 今から王城へと向かいルーク殿下の許可をもらってきます。絶対に出て行きませんわ!」

 どれだけ強情なのでしょう。

 悪役令嬢であった頃の記憶でも呼び覚ましているのですかね。無茶を口にするイセリナは悪役令嬢そのものです。

「ルイ、王城へ行きますわよ!」

 とてもそんな気分じゃない。私の気持ちを知らないイセリナは酷な話をしています。

「イセリナ、俺がついていってやろう。王子殿下直々に許可をもらえるのなら、引き続き住んでも構わん」

 カルロが気遣ってくれたのか、イセリナに同行してくれるようです。

 私の真意を知っているのはカルロだけだ。自身の命よりも大切な人が誰であるのか、分かっているのは彼しかいません。

 ぶっきらぼうな皇太子カルロですけれど、やはり彼は気遣いができる優しい人であるみたい。

「殿下、ありがとうございます……」

 感謝を述べたあと、私は二人を見送ります。

 何がどうなって、このような結末に至ったのか。知る由もない私は溜め息を吐くだけでした。

 この世界線において、私は傍観者であろうと決意していたにもかかわらず……。
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