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第七章 光が射す方角
一番目の王子
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ソレスティア王城では二人の王子が話し合っていた。
昨日の今日であったというのに、ルークとセシルは差し向かいで何やら話し込んでいる。
「ルーク兄様、それは本当ですか!?」
「ああ、イセリナからは了承を得た。父上にも既に話をしている」
どうやらルークはイセリナを婚約者とする旨の話を伝えていたようだ。
「イセリナ様は素敵な人です。兄様が選ばれるのならば、僕はそれで構いません」
「セシルのおかげだ。もう十七歳だし。いつまでも後ろを見ていてはいけないよな……」
セシルの後押しがなければ、きっと今も負の思考に囚われたままだっただろう。
「それなら兄様、僕はエリカを選ぼうかと思います……」
思わぬ返答にルークは驚いていた。
確かにエリカは魅力的な女性。しかし、彼女は准男爵でしかない。
「エリカを妾にするつもりか?」
「ううん、正妻として迎える。彼女は准男爵だけど、教会の公認聖女だし。それに僕は第三王子でしかないからね……。イセリナ様はルーク兄様に譲るよ」
アハハと笑うセシルに、ルークは眉根を寄せている。
正直に気になる存在ではあったけれど、議会や教会を相手にしてまで手に入れようとは思わなかった。
「セシル、それは割とイバラの道かもしれんぞ?」
「兄様が通ってきた道よりも遙かに楽だと思うけどね?」
「ま、確かに……」
弟も焦っているのかと考えてしまう。パーティーに出席するたび、相手について聞かれるのだから。加えて、セシルは王太子候補筆頭にもなったことがあるし、外圧を感じているのだと思う。
「エレオノーラとかは駄目だったのか?」
「正直に角が出ない相手を選びたいんだよ。兄様がイセリナ様を選ぶのであれば、僕は公爵家から選ばない方が良い。ご令嬢たちだけじゃなく、公爵家同士も仲が良いとはいえないからね……」
言われてみると確かにその通りであった。
イセリナとミランダは常に険悪だし、エレオノーラだって第三王子の妃だとか敗北感を覚えるかもしれない。加えて彼女たちの実家もまた有効的とは言えないのだから。
「すまん。俺は色々と駄目だな……」
「気にしないでください。僕は別に嫌々エリカを選ぶわけではありませんから」
本当にできた弟だと思う。思慮深いだけでなく、そこに思い遣りを加えられる。側室の子でなかったのなら、間違いなく王太子に選ばれていただろうと。
「セシル、俺に気を遣うな」
情けないの一言。生まれだけしか弟に勝っていないのだ。
「いやいや、兄様は王太子になるべき人です。僕は気を遣っているのではなく、兄様が立派な王となるために支えていきたい。それだけですから」
やはり自分は幸せになるべきではない。ルークはそんな風に感じていた。イセリナやアナスタシアだけでなく、弟にまで迷惑をかけているのだから。
幸せになるよりも、周囲が望む生き方に務めよう。それこそが恩返しであると思う。
人知れず、ルークは今後の目標を立てるのだった。
昨日の今日であったというのに、ルークとセシルは差し向かいで何やら話し込んでいる。
「ルーク兄様、それは本当ですか!?」
「ああ、イセリナからは了承を得た。父上にも既に話をしている」
どうやらルークはイセリナを婚約者とする旨の話を伝えていたようだ。
「イセリナ様は素敵な人です。兄様が選ばれるのならば、僕はそれで構いません」
「セシルのおかげだ。もう十七歳だし。いつまでも後ろを見ていてはいけないよな……」
セシルの後押しがなければ、きっと今も負の思考に囚われたままだっただろう。
「それなら兄様、僕はエリカを選ぼうかと思います……」
思わぬ返答にルークは驚いていた。
確かにエリカは魅力的な女性。しかし、彼女は准男爵でしかない。
「エリカを妾にするつもりか?」
「ううん、正妻として迎える。彼女は准男爵だけど、教会の公認聖女だし。それに僕は第三王子でしかないからね……。イセリナ様はルーク兄様に譲るよ」
アハハと笑うセシルに、ルークは眉根を寄せている。
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「セシル、それは割とイバラの道かもしれんぞ?」
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「ま、確かに……」
弟も焦っているのかと考えてしまう。パーティーに出席するたび、相手について聞かれるのだから。加えて、セシルは王太子候補筆頭にもなったことがあるし、外圧を感じているのだと思う。
「エレオノーラとかは駄目だったのか?」
「正直に角が出ない相手を選びたいんだよ。兄様がイセリナ様を選ぶのであれば、僕は公爵家から選ばない方が良い。ご令嬢たちだけじゃなく、公爵家同士も仲が良いとはいえないからね……」
言われてみると確かにその通りであった。
イセリナとミランダは常に険悪だし、エレオノーラだって第三王子の妃だとか敗北感を覚えるかもしれない。加えて彼女たちの実家もまた有効的とは言えないのだから。
「すまん。俺は色々と駄目だな……」
「気にしないでください。僕は別に嫌々エリカを選ぶわけではありませんから」
本当にできた弟だと思う。思慮深いだけでなく、そこに思い遣りを加えられる。側室の子でなかったのなら、間違いなく王太子に選ばれていただろうと。
「セシル、俺に気を遣うな」
情けないの一言。生まれだけしか弟に勝っていないのだ。
「いやいや、兄様は王太子になるべき人です。僕は気を遣っているのではなく、兄様が立派な王となるために支えていきたい。それだけですから」
やはり自分は幸せになるべきではない。ルークはそんな風に感じていた。イセリナやアナスタシアだけでなく、弟にまで迷惑をかけているのだから。
幸せになるよりも、周囲が望む生き方に務めよう。それこそが恩返しであると思う。
人知れず、ルークは今後の目標を立てるのだった。
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