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第七章 光が射す方角

反抗

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 一週間が経過した頃、私はどうしてかカルロに呼び出されていました。

「ルイ、お前どういうつもりだ?」

 私を立たせたまま、カルロは机の上にドサッと封書を放ります。

 どういうつもりと言われたところで、まるで意味が分かりません。

「これが何か?」

 貴族らしい封蝋がされた封書の数々。何が記されているのかさっぱりです。

「全てお前宛の釣書だ……」

「えっ?」

 釣書って、お見合いに使うやつ?

 てか、私ってお見合いするの?

「誰と見合いしろと……?」

「馬鹿か。お前と見合いをしたい者たちが送りつけてきたんだよ!」

「えええ!?」

 たった一週間で何通届いているのでしょうか。

 しかし、私がカルロと同じ屋敷にいると知って、カルロ宛に送ってくるなど気が触れているとしか思えない。

「どうなっているのです? イセリナならばまだしも……」

「お前、レセプションパーティーで大勢と踊っただろ?」

「仕方ないじゃないですか? アルバート貴院長に誘われて、断りようがなかったのです。でも、全員とは踊っていません」

 私は別に何も悪くない。基本的に壁際だったのだし、壁際を離れたのもドリンクを取りにいっただけ。

 ダンスの誘いが下位貴族であれば断ったけれど、公爵家の人間であれば無下にはできませんし。

「アルバートと踊ったこと。それだけならまだ許せる。しかし、お前は何人もダンスをしただろ? そのような行動は婚約者がいないと言っているようなものだ」

 どうやら、不特定多数とダンスをしたことが、パートナーの有無を知らせることになっていたようです。

「それで妬いているのですか?」

「誰が妬くか! これは破り捨てるからな!」

 本当に面倒臭い男ですね。放置しているくせに、ヤキモチを焼くなんて。

「待ってください。一応は目を通します!」

「お前は俺の所有物だといっただろ?」

「分かってますよ……」

 でもね、モテ期到来の中身を知りたいと思うじゃないの。

 イセリナであった頃は遠巻きに見られているだけで、直接的には少しの告白すらなかったのですから。

「でも、基本は上位貴族ですよ? お礼とお断りの文面を送らないと、サルバディール皇国としても問題なんじゃないですか?」

 もっともな意見にカルロは、ぐぬぅぅっといった声を上げています。

 ここは冷静になろうよ。私も相手が誰なのか知ることができるし、サルバディール皇国としても筋を通すことができるのですから。

「手紙は書いてから俺のところに持ってこい。いいな?」

 分かっていたことなんだけど、縛りがキツい。内容まで精査しようとするなんて酷すぎませんかね。

「女の手紙を読むとか趣味が悪いですね? それで私、来月にある茶会に誘われておりますの!」

 参加する気はなかったのだけど、ここは所有物にも権利があることを主張するしかない。

 手紙まで検閲するなんて横暴なのだと。

「誰に誘われた?」

 案の定、鋭い視線が私を睨み付けています。しかし、ここで怯んではなりません。

 私にだって少しくらいは自由があっても良いはずなのですから。

「クレアフィール公爵家のエレオノーラ様ですわ!」

 公爵家の名前を出せばカルロは言葉を呑み込むはず。問題となっているアルバート貴院長の実家であると分かっていたとしても。

「ルイ、参加する気か?」

「もちろんですわ! 私にも自由があって然るべき。恩義には感じておりますけれど、殿下は奴隷にも自由を与えるべきです!」

「いや、奴隷だなんて……」

「奴隷ですわ! 修道女ですけれど、もう少し自由があっても良いかと思いますの!」

 この先のことを考えると強気に出ておくべきです。せめて買い物くらいドレスを着ていきたい。

 待遇改善に私は声を荒らげるだけ。

「私も女性なのです! お洒落をして、お茶会くらいでたいのですよ!」

 エレオノーラの思惑通りになるのは癪だけど、ここは利用させてもらおう。

 このままカルロに娶られたなら、私は一生涯ベールを被って過ごさねばならなくなる。ドレスの解禁を目指して訴えるだけだわ。

 声にならない声を上げるカルロでしたが、不満げな顔をして頷いています。

「ならば許可する。しかし、ルイは俺のものだからな?」

 奥手なくせに拘束力だけは一人前なのよね。

 流石は皇太子ってところかしら。

「それは承知していると話していますでしょう? 何なら今からでも既成事実を作りますか?」

「わわ! お前は何てことを言うのだ!? そういうのは結婚してからだ!」

 まあ私のことを大事にしてくれているのは分かっています。だから悪い気はしません。

 サルバディール皇国に嫁ぐことも、彼の妻となることも既に同意している話なのだし。

「茶会に行っても勝手なことはするなよ?」

「分かってますって! 私を誰だと思っておられるのです?」

「問題ごとばかり起こす女だろ?」

 兎にも角にも茶会への出席が決まってしまいました。さりとて、それはドレスを着る口実になるのです。

 少しばかりの反抗もできましたし、私としては上々の話し合いじゃないかしらね?
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