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第七章 光が射す方角
秘めたる想い
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イセリナはルークに連れられ、貴族院と王城を繋ぐ回廊に来ていた。
ここは一般の貴族が通ることは少ない。王城務めの貴族が貴族院へと向かう用事があるはずもなく、貴族院の生徒が入城を許可されるはずもないからだ。
つまりは誰にも邪魔されない。自室へと戻るルーク以外が使用するはずもないのだから。
回廊脇のガゼボにイセリナを座らせたルークは小さく息を吐いてから話を始める。
「イセリナ嬢、率直に聞くのだけど、セシルのことをどう思っている?」
眉根を寄せたのはイセリナであった。
二人きりでガゼボに座り、なぜに第三者の話が第一声なのかと。
「ルーク殿下、ワタクシもう帰りたいのですが……」
「そう言わないでくれ。ぶっちゃけて言うと、君は俺にとって妃候補の筆頭格なんだ。どうしてセシルにすり寄るのかと思ってね」
「すり寄る? ダンスをしただけですわよ?」
別に深い意味があってセシルと踊ったわけではない。
イセリナはセシルに誘われたから受けただけなのだ。
「セシルはとても喜んでいた。だから、君の気持ちが聞きたくてね……」
「判然としませんわね? 殿下はワタクシが気になっているのですか?」
単刀直入に聞くイセリナにルークは日和っている。
弟に勧められただけ。自身が歩むべき道について。
「成人するまでに相手を決めなきゃいけない。セシルは俺が決めてからだと話していたんだ。俺がのんびりしていると弟たちが迷惑する……」
聞けば自身のためではなく、フェリクスやセシルのために考えを改めたらしい。
「セシル殿下のために相手を決められるのでしょうか?」
「現状ではそうだとしかいえない。好き嫌いよりも、第一王子に相応しいかどうか。俺はもう選択を間違ってはならないから」
もう十七歳である。歴代の王太子を調べても、概ね貴族院の卒業までに婚約していた。
対して自分はまだ相手すら決まっていない。叶えられない恋心を追い求めるよりも、現実を見据える時期に入っている。
「ルーク殿下、公爵令嬢はワタクシだけではなくてよ? エレオノーラやミランダも貴族院におりますわ。家格を問われるのでしたら、セシル殿下の動向など気になさらなくてもよろしいかと存じます」
歯に衣着せない台詞がルークに向けられている。
しかし、彼とて一日悩んだ末にイセリナへ声をかけたのだ。考えもなしに彼女を誘ったわけではない。
「派閥的にミランダは選べない。同じ理由で三人の中から選ぶべきは君なのだと、俺は結論づけた」
ルークは理由を語った。
それは第一王子としての責務であり、現状の立ち位置から得られた回答に他ならない。
「何とも嬉しくないお話ですこと。公爵家縛りで選ばれても、ワタクシには響きませんわ。どうぞ他を当たってくださいな?」
イセリナの返答にルークは肩を落とす。
現状はセシルの話を聞いてから悩み続けた結果。イセリナを誘って反応を見てみようと。
「俺は駄目な王子だ……」
「ええ、全く駄目ですわね。もし仮に家格で縛らなければ誰を選びたいのか。それを良く考えるべきですわ。今の殿下ではミランダですらお断りされますわよ?」
ランカスタ公爵家は王家に迫る力を得ていた。
それを加味したとしても、イセリナの発言は正直すぎる。二人しかいなかったとして、不敬罪と扱われてもおかしくないほどだ。
「イセリナ、俺はどうすればいい?」
しかし、ルークは彼女を頼る。扱き下ろすイセリナに請うようにして。
「そうですわね。殿下は一度も恋をした経験がございませんの?」
質問したものの、思わぬ返しに遭う。それは自身が今までに何もできなかった原因である。
彼女がいたからこそ輝いた日々があり、彼女がいたからこそ婚約どころではなくなっていた。
「昔、好きな人がいた。でも俺は嫌われた。あの頃の俺はどんな女の子でも振り向いてくれると考えていたんだ……」
もしも人生をやり直せるのならと何度も思った。
そのような力があるのであれば、誠心誠意彼女と向き合っていたはずと。来る日も来る日もプレゼントを持って、自身の意志を明確に伝え続けただろう。
「諦めたのですか?」
イセリナには相手が誰であるのか理解できた。言い寄ってきた王子殿下を振ってしまう令嬢など一人しか知らない。
ルークが非難を浴びた騒動についても分かっているし、彼が本気で下級貴族に惚れていたことを知らされている。
「しょうがない。俺の責任だしな……」
「ま、そうですわね。ルーク殿下の自業自得ですわ」
若すぎた王子殿下の愚行は大きすぎる代償を支払う羽目になっていた。
かといって、イセリナは擁護するつもりなどない。
「もし仮に、その彼女が上位貴族であったならば、未来は変わったかもしれませんわね。下位貴族が王子殿下に言い寄られるのは問題がありすぎますわ。妾でも構わないと考えているならともかく、芯の強い女であれば断られるものです。下位貴族には寄親もおりますし、勝手な行動を許されておりませんもの」
イセリナの話は今更ながらにルークを苦しめた。
よく考えれば分かること。王家と貴族社会は明らかに異なっているのだ。
貴族は縦で繋がる社会。王家を頂上とした力関係が明確に決まっている。下位貴族が出し抜くような真似をすれば、たちまち立場を失うことだろう。
「出会うのが早すぎた。もしも今出会っていたとすれば、俺は違う形でアプローチできただろう。でも、たらればの世界など存在しないと分かっている。だからこそ、再び歩み始めようと思ったんだ」
「それでワタクシ? 殿下ばもう一度、よく考えるべき。お話いただいた内容では誰も幸せになれないではないですか?」
まさかイセリナから正論を返されるとは思いもしていない。
彼女なら二つ返事で了承されると考えていたのだ。
「はぁ……」
溜め息を吐いたあと、イセリナの話に頷く。
よく考えた末の結論。イセリナが語ったままの未来について返している。
「俺は幸せになるべきじゃない……」
ここは一般の貴族が通ることは少ない。王城務めの貴族が貴族院へと向かう用事があるはずもなく、貴族院の生徒が入城を許可されるはずもないからだ。
つまりは誰にも邪魔されない。自室へと戻るルーク以外が使用するはずもないのだから。
回廊脇のガゼボにイセリナを座らせたルークは小さく息を吐いてから話を始める。
「イセリナ嬢、率直に聞くのだけど、セシルのことをどう思っている?」
眉根を寄せたのはイセリナであった。
二人きりでガゼボに座り、なぜに第三者の話が第一声なのかと。
「ルーク殿下、ワタクシもう帰りたいのですが……」
「そう言わないでくれ。ぶっちゃけて言うと、君は俺にとって妃候補の筆頭格なんだ。どうしてセシルにすり寄るのかと思ってね」
「すり寄る? ダンスをしただけですわよ?」
別に深い意味があってセシルと踊ったわけではない。
イセリナはセシルに誘われたから受けただけなのだ。
「セシルはとても喜んでいた。だから、君の気持ちが聞きたくてね……」
「判然としませんわね? 殿下はワタクシが気になっているのですか?」
単刀直入に聞くイセリナにルークは日和っている。
弟に勧められただけ。自身が歩むべき道について。
「成人するまでに相手を決めなきゃいけない。セシルは俺が決めてからだと話していたんだ。俺がのんびりしていると弟たちが迷惑する……」
聞けば自身のためではなく、フェリクスやセシルのために考えを改めたらしい。
「セシル殿下のために相手を決められるのでしょうか?」
「現状ではそうだとしかいえない。好き嫌いよりも、第一王子に相応しいかどうか。俺はもう選択を間違ってはならないから」
もう十七歳である。歴代の王太子を調べても、概ね貴族院の卒業までに婚約していた。
対して自分はまだ相手すら決まっていない。叶えられない恋心を追い求めるよりも、現実を見据える時期に入っている。
「ルーク殿下、公爵令嬢はワタクシだけではなくてよ? エレオノーラやミランダも貴族院におりますわ。家格を問われるのでしたら、セシル殿下の動向など気になさらなくてもよろしいかと存じます」
歯に衣着せない台詞がルークに向けられている。
しかし、彼とて一日悩んだ末にイセリナへ声をかけたのだ。考えもなしに彼女を誘ったわけではない。
「派閥的にミランダは選べない。同じ理由で三人の中から選ぶべきは君なのだと、俺は結論づけた」
ルークは理由を語った。
それは第一王子としての責務であり、現状の立ち位置から得られた回答に他ならない。
「何とも嬉しくないお話ですこと。公爵家縛りで選ばれても、ワタクシには響きませんわ。どうぞ他を当たってくださいな?」
イセリナの返答にルークは肩を落とす。
現状はセシルの話を聞いてから悩み続けた結果。イセリナを誘って反応を見てみようと。
「俺は駄目な王子だ……」
「ええ、全く駄目ですわね。もし仮に家格で縛らなければ誰を選びたいのか。それを良く考えるべきですわ。今の殿下ではミランダですらお断りされますわよ?」
ランカスタ公爵家は王家に迫る力を得ていた。
それを加味したとしても、イセリナの発言は正直すぎる。二人しかいなかったとして、不敬罪と扱われてもおかしくないほどだ。
「イセリナ、俺はどうすればいい?」
しかし、ルークは彼女を頼る。扱き下ろすイセリナに請うようにして。
「そうですわね。殿下は一度も恋をした経験がございませんの?」
質問したものの、思わぬ返しに遭う。それは自身が今までに何もできなかった原因である。
彼女がいたからこそ輝いた日々があり、彼女がいたからこそ婚約どころではなくなっていた。
「昔、好きな人がいた。でも俺は嫌われた。あの頃の俺はどんな女の子でも振り向いてくれると考えていたんだ……」
もしも人生をやり直せるのならと何度も思った。
そのような力があるのであれば、誠心誠意彼女と向き合っていたはずと。来る日も来る日もプレゼントを持って、自身の意志を明確に伝え続けただろう。
「諦めたのですか?」
イセリナには相手が誰であるのか理解できた。言い寄ってきた王子殿下を振ってしまう令嬢など一人しか知らない。
ルークが非難を浴びた騒動についても分かっているし、彼が本気で下級貴族に惚れていたことを知らされている。
「しょうがない。俺の責任だしな……」
「ま、そうですわね。ルーク殿下の自業自得ですわ」
若すぎた王子殿下の愚行は大きすぎる代償を支払う羽目になっていた。
かといって、イセリナは擁護するつもりなどない。
「もし仮に、その彼女が上位貴族であったならば、未来は変わったかもしれませんわね。下位貴族が王子殿下に言い寄られるのは問題がありすぎますわ。妾でも構わないと考えているならともかく、芯の強い女であれば断られるものです。下位貴族には寄親もおりますし、勝手な行動を許されておりませんもの」
イセリナの話は今更ながらにルークを苦しめた。
よく考えれば分かること。王家と貴族社会は明らかに異なっているのだ。
貴族は縦で繋がる社会。王家を頂上とした力関係が明確に決まっている。下位貴族が出し抜くような真似をすれば、たちまち立場を失うことだろう。
「出会うのが早すぎた。もしも今出会っていたとすれば、俺は違う形でアプローチできただろう。でも、たらればの世界など存在しないと分かっている。だからこそ、再び歩み始めようと思ったんだ」
「それでワタクシ? 殿下ばもう一度、よく考えるべき。お話いただいた内容では誰も幸せになれないではないですか?」
まさかイセリナから正論を返されるとは思いもしていない。
彼女なら二つ返事で了承されると考えていたのだ。
「はぁ……」
溜め息を吐いたあと、イセリナの話に頷く。
よく考えた末の結論。イセリナが語ったままの未来について返している。
「俺は幸せになるべきじゃない……」
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