154 / 377
第七章 光が射す方角
大好きな人
しおりを挟む
レセプションパーティーが行われたあと、夜も更けていたというのにソレスティア王城の一室に三人の王子が集まっていた。
「フェリクス兄様、お身体の具合はいかがですか?」
ここは第二王子フェリクス・ルミナス・セントローゼスの寝室である。
仲の良い三人の王子たち。寝たきりであるフェリクスを気遣って本日の出来事を彼に伝えているらしい。
「うん、少し体調は良くなったかな。楽しい夜を過ごしたみたいだね?」
「僕はね。でも、ルーク兄様は疲れただけみたい」
「セシルはもう少しご令嬢たちの相手をしろ。俺が全て請け負うなんてあり得ん」
一応はセシルも参加者だった。
まだ貴族院には入っていないけれど、王家の人間として歓迎会には参加している。
パーティーには上位貴族が集っているのだ。お相手を選ぶという目的も王家筋の参加には含まれているらしい。
ルークは最初から最後までずっとご令嬢たちの相手をしていた。自ら女性を選ぶことなく、順番待ちの行列をひたすら捌いていたという。
「兄様は第一王子だからね。やはり色々な女性を見てもらわなきゃ。王太子妃に相応しい人を探して欲しいと思ってる。だから、僕は壁際に徹していたんだ。まだ貴族院の生徒でもないし、しゃしゃり出るのも違うと思うし」
セシルは王族の務めとして参加しただけである。
十六歳である彼が参加した理由はそれだけしかない。
「そういえばルーク兄は意中の人がいたんじゃなかったかな?」
ここでフェリクスがそのような話を始める。
確かセシルから聞いた話。同い年のご令嬢に熱を上げているとかどうとか。
思わぬ質問にルークは頭を掻く。その件については、もう完全に終わったこと。気持ちの整理は付けたはずだ。
「今は他国の人になってしまったからな……」
判然としない返答にフェリクスは小首を傾げる。
深読みすると嫌いになったわけではなさそうだ。
「他国の貴族と結婚したってこと?」
重ねられた質問にルークの目が泳ぐ。
この話はフェリクスにしたことがない。セシルもまた最悪の結末を迎えた二人について知らせていなかった。
「そうじゃない。でも、そんな感じだ……」
益々分からない話にフェリクスは眉根を寄せている。
ルークはセントローゼス王国という大国の第一王子なのだ。
気に入った女性がいたのなら、妃ではなくとも妾として迎えるくらいわけない立場だというのに。
「フェリクス兄様、ルーク兄様は……」
「セシル、やめろ!」
セシルが代弁しようとした瞬間、ルークが釘を刺す。
「いやルーク兄、どうか教えてくれませんか? ずっと寝たきりである私は世間の話に疎い。兄上のお相手について聞かせてください」
どうしてかフェリクスは続きを聞きたいという。ルークの心情はそれとなく分かったはずなのに。
問われてしまえば、ルークは答えるしかない。ずっと寝たきりのフェリクスが不憫でならなかったからだ。
都合のいい話しかメイドは口にしないし、悪い話は少しもフェリクスの元まで届かない。話したくない内容であっても、不憫な弟の頼みは断り切れなかった。
徐にルークは話し始める。まだ痛みを感じる胸に、そっと手を当てながら。
「大好きだった人がいた――」
「フェリクス兄様、お身体の具合はいかがですか?」
ここは第二王子フェリクス・ルミナス・セントローゼスの寝室である。
仲の良い三人の王子たち。寝たきりであるフェリクスを気遣って本日の出来事を彼に伝えているらしい。
「うん、少し体調は良くなったかな。楽しい夜を過ごしたみたいだね?」
「僕はね。でも、ルーク兄様は疲れただけみたい」
「セシルはもう少しご令嬢たちの相手をしろ。俺が全て請け負うなんてあり得ん」
一応はセシルも参加者だった。
まだ貴族院には入っていないけれど、王家の人間として歓迎会には参加している。
パーティーには上位貴族が集っているのだ。お相手を選ぶという目的も王家筋の参加には含まれているらしい。
ルークは最初から最後までずっとご令嬢たちの相手をしていた。自ら女性を選ぶことなく、順番待ちの行列をひたすら捌いていたという。
「兄様は第一王子だからね。やはり色々な女性を見てもらわなきゃ。王太子妃に相応しい人を探して欲しいと思ってる。だから、僕は壁際に徹していたんだ。まだ貴族院の生徒でもないし、しゃしゃり出るのも違うと思うし」
セシルは王族の務めとして参加しただけである。
十六歳である彼が参加した理由はそれだけしかない。
「そういえばルーク兄は意中の人がいたんじゃなかったかな?」
ここでフェリクスがそのような話を始める。
確かセシルから聞いた話。同い年のご令嬢に熱を上げているとかどうとか。
思わぬ質問にルークは頭を掻く。その件については、もう完全に終わったこと。気持ちの整理は付けたはずだ。
「今は他国の人になってしまったからな……」
判然としない返答にフェリクスは小首を傾げる。
深読みすると嫌いになったわけではなさそうだ。
「他国の貴族と結婚したってこと?」
重ねられた質問にルークの目が泳ぐ。
この話はフェリクスにしたことがない。セシルもまた最悪の結末を迎えた二人について知らせていなかった。
「そうじゃない。でも、そんな感じだ……」
益々分からない話にフェリクスは眉根を寄せている。
ルークはセントローゼス王国という大国の第一王子なのだ。
気に入った女性がいたのなら、妃ではなくとも妾として迎えるくらいわけない立場だというのに。
「フェリクス兄様、ルーク兄様は……」
「セシル、やめろ!」
セシルが代弁しようとした瞬間、ルークが釘を刺す。
「いやルーク兄、どうか教えてくれませんか? ずっと寝たきりである私は世間の話に疎い。兄上のお相手について聞かせてください」
どうしてかフェリクスは続きを聞きたいという。ルークの心情はそれとなく分かったはずなのに。
問われてしまえば、ルークは答えるしかない。ずっと寝たきりのフェリクスが不憫でならなかったからだ。
都合のいい話しかメイドは口にしないし、悪い話は少しもフェリクスの元まで届かない。話したくない内容であっても、不憫な弟の頼みは断り切れなかった。
徐にルークは話し始める。まだ痛みを感じる胸に、そっと手を当てながら。
「大好きだった人がいた――」
10
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。
三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*
公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。
どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。
※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。
※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる