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第七章 光が射す方角

ドレスのデザイン

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 レセプションパーティーは思いもしない事態となっていました。

 私は次から次へとダンスしています。もう十曲くらい踊ったでしょうか。しかし、まだ行列は尽きることなく、今もなお伸びているような感じです。

「これは駄目だわ。絶対に目の敵にされるやつ……」

 アルバートが作ってくれた一人一曲という暗黙の了解。それ自体は助かっていましたが、捌けることのない行列を見てしまっては無意味にも感じます。

「申し訳ございません。私疲れてしまいましたので、ダンスはもう踊れません」

 行列に対して頭を深々と下げる。

 いち早く壁際に戻らないと花形エリアで暇を持て余しているご令嬢の反感を買うだけだもの。


 謝罪すると、ようやく行列が捌けていく。

 これには安堵するしかない。無理矢理にでも踊ろうとする男性がいなかったのは幸いでした。

 疲れた表情をして、私はエリカの元へと戻ります。

「お疲れさまでした。ルイ様の人気は凄いですね?」

 エリカは笑っています。

 私としては驚くしかなかったのですけれど、彼女はさも当たり前のように感じているようです。

「素顔を晒したから物珍しいだけよ?」

「そうでしょうか? そのお姿でしたら、男性は放っておけないような気がしますけれど」

「容姿ならエリカの方がずっと可愛いわ。貴方を放置するなんて、見る目がないと思う」

 エリカはBlueRoseの主人公です。可愛くないはずがないというのに、彼女の准男爵という地位は男性を惹き付けない。

 殆どの男性が上位貴族であるのだから、家格を重視しているのは明らかです。

「私は別に褒められる容姿ではありませんよ。ルイ様はお顔もそうなのですけれど、何と言いますかその……」

 エリカは少しばかり口籠もり、私を指さします。

「胸!?」

「声が大きいですって! ルイ様は高貴なお方なのですから!」

 思わず大きな声を出してしまいました。

 いや、失敬。でもね、流石に驚いたよ。同姓から身体付きについて指摘されるなんて。

「流石にそのお身体では男性がこぞって手を挙げられるかと……」

「ええ……。みんな身体目当てなの?」

「そういうわけではないでしょうが、同性から見ても目が離せません……」

 元々がぽっちゃり系のアナスタシアは痩せた今でも豊満です。十二歳になる頃には実りまくってたし。

「そっか。次のパーティーではドレスのデザインを考えよう……」

「いえいえ、今のままで! 素敵ですよ! 本当に美しいと思います!」

 目立ちたくないというのに目立ってしまった。

 多くの男性の目に留まった私はこれからどうなるのでしょう。

 幸いにもカルロたちは今も順番待ちのダンスをこなしており気付いていませんが、休み明けの授業では生活が一変するやもしれません。

 このあと私とエリカは最後まで壁際を貫いています。

 エリカもまだ攻めるときではないのです。徐々に名声を博してパーティーの中心人物になっていくだけ。現状でしゃしゃり出ても、ろくな未来にはならないのですから。


 まあしかし、少しばかりストレスが発散できたように思います。

 アルバート貴院長のおかげで、私は楽しめました。

 後に訪れるだろう面倒事など考えることなく……。
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