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第七章 光が射す方角
その胸中は……
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「あれだけの人数が君を待っているんだ。真っ先に来て良かった。君と踊る順番待ちをするだけで、パーティーが終わってしまいそうだからね?」
乾いた声でアルバートは笑っています。
いやいや、笑い事じゃないよ。どうして入り口付近に大行列ができてんの?
本当に私と踊りたくて並んでいるわけ?
「信じられませんわ……」
「幻にでも見えるか? みんな君が壁際から去る瞬間を待っていたみたいだ。スラムを救った聖女。王子殿下の無実を訴えた光の聖女。他国で枢機卿を務めるミステリアスな君の話題性は随一だし、興味を持つのも分かるだろ?」
ああ、そういうこと。物珍しさで集まってしまったのね。
こんな行列を入り口周辺で作ってしまったなら、新入生のご令嬢だけでなく、二年生のご令嬢にまで妬まれてしまいそうだわ。
「困りましたわ……。私は見世物ではございませんのに。素性が知れないというだけで並ばれてしまっては……」
「ルイ枢機卿、本気でそう思っているのか?」
どうしてかアルバートは私の話に疑問を返しています。
本気でって、今貴方が言ったことじゃない? ミステリアスで話題性があるのだと。
ポカンとする私にアルバートは続けました。
「ベールを脱いだ君に全員が心を射貫かれただけさ……」
確かに貴族院では修道服を身に纏い深いベールを被っておりますが、ドレスに着替えただけで状況が一変するなんて思いもしないことです。
「みんな気になっているんだ。スラム街に無償で慈悲を与える聖女に。その彼女が美しく愛らしいご尊顔をしていたのなら、誰でも手を挙げるだろう。悪く思わないでやって欲しい」
アルバートの説明には頷きを返している。
内面と外面。その二つを満たしていると全員が考えているようです。
評価に値しない内面に気付くことなく。
「私は聖女などではありませんわ。ただの物ですから……」
私はカルロの所有物だ。この世界線において、もう身動きできない身の上です。
世界線の結末を誘導したあとは、サルバディール皇国の戦争問題を解決せねば、ろくな人生が待っていないことでしょう。
長い息を吐く私にアルバートもまた溜め息を零しています。けれど、彼は直ぐさま笑顔を作って私に言うのでした。
「王国へ戻りたいのであれば、私は手を貸すことができる」
呆然と彼の顔を見ている。
その意味合いは明らかでしたが、私は疑念しか覚えない。
「できるのですか……?」
「君次第だ。これでもクレアフィール公爵家は外交を得意としていてね。周辺国との関わりはどの公爵家よりも強い。特にサルバディール皇国のカルロ皇太子とは親友でもあるし。まあ親友の所有物を奪い去ろうとしていたりするのだけど」
笑い声で話を締められると、本当かどうか分かりません。
しかし、奪うという単語は彼の真意を表しているのだろうと思います。
「今はまだそのつもりはありません……」
「そうか。気が変わったならいつでも会いに来て欲しい。私は最初のダンスパートナーに君を選んだ。この事実は少なからず憶測を生み、君の周辺にも変化が訪れるだろう」
「怖いこと言わないでくださいまし」
薄い目をして見る私をアルバートは再び笑い飛ばした。ポンと私の背中を叩き、行列を作る者たちへ近寄るように促します。
どうなるのだろう。私は未来を案じています。
これから何十人とダンスをしなければならないというのに、アルバートの言葉がずっと脳裏に渦巻いていました。
王国へ戻りたいのであれば――と。
乾いた声でアルバートは笑っています。
いやいや、笑い事じゃないよ。どうして入り口付近に大行列ができてんの?
本当に私と踊りたくて並んでいるわけ?
「信じられませんわ……」
「幻にでも見えるか? みんな君が壁際から去る瞬間を待っていたみたいだ。スラムを救った聖女。王子殿下の無実を訴えた光の聖女。他国で枢機卿を務めるミステリアスな君の話題性は随一だし、興味を持つのも分かるだろ?」
ああ、そういうこと。物珍しさで集まってしまったのね。
こんな行列を入り口周辺で作ってしまったなら、新入生のご令嬢だけでなく、二年生のご令嬢にまで妬まれてしまいそうだわ。
「困りましたわ……。私は見世物ではございませんのに。素性が知れないというだけで並ばれてしまっては……」
「ルイ枢機卿、本気でそう思っているのか?」
どうしてかアルバートは私の話に疑問を返しています。
本気でって、今貴方が言ったことじゃない? ミステリアスで話題性があるのだと。
ポカンとする私にアルバートは続けました。
「ベールを脱いだ君に全員が心を射貫かれただけさ……」
確かに貴族院では修道服を身に纏い深いベールを被っておりますが、ドレスに着替えただけで状況が一変するなんて思いもしないことです。
「みんな気になっているんだ。スラム街に無償で慈悲を与える聖女に。その彼女が美しく愛らしいご尊顔をしていたのなら、誰でも手を挙げるだろう。悪く思わないでやって欲しい」
アルバートの説明には頷きを返している。
内面と外面。その二つを満たしていると全員が考えているようです。
評価に値しない内面に気付くことなく。
「私は聖女などではありませんわ。ただの物ですから……」
私はカルロの所有物だ。この世界線において、もう身動きできない身の上です。
世界線の結末を誘導したあとは、サルバディール皇国の戦争問題を解決せねば、ろくな人生が待っていないことでしょう。
長い息を吐く私にアルバートもまた溜め息を零しています。けれど、彼は直ぐさま笑顔を作って私に言うのでした。
「王国へ戻りたいのであれば、私は手を貸すことができる」
呆然と彼の顔を見ている。
その意味合いは明らかでしたが、私は疑念しか覚えない。
「できるのですか……?」
「君次第だ。これでもクレアフィール公爵家は外交を得意としていてね。周辺国との関わりはどの公爵家よりも強い。特にサルバディール皇国のカルロ皇太子とは親友でもあるし。まあ親友の所有物を奪い去ろうとしていたりするのだけど」
笑い声で話を締められると、本当かどうか分かりません。
しかし、奪うという単語は彼の真意を表しているのだろうと思います。
「今はまだそのつもりはありません……」
「そうか。気が変わったならいつでも会いに来て欲しい。私は最初のダンスパートナーに君を選んだ。この事実は少なからず憶測を生み、君の周辺にも変化が訪れるだろう」
「怖いこと言わないでくださいまし」
薄い目をして見る私をアルバートは再び笑い飛ばした。ポンと私の背中を叩き、行列を作る者たちへ近寄るように促します。
どうなるのだろう。私は未来を案じています。
これから何十人とダンスをしなければならないというのに、アルバートの言葉がずっと脳裏に渦巻いていました。
王国へ戻りたいのであれば――と。
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