青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

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第七章 光が射す方角

絶望的な未来

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 イセリナには馬車で帰ってもらい、私は髭が待つという部屋へと来ています。

「ルイ、久しぶりだな?」

 ふんぞり返ってソファに腰掛ける髭がいいました。

 確かに、もう何ヶ月もご無沙汰です。かといって、カルロの屋敷に居ついた実の娘よりは会っていたと思いますけれど。

「世間話ではないのでしょう? 本題をお願い致しますわ」

 言って私はこの部屋に盗聴防止の術式をほどこす。聞かれてはまずい話であるのは明らかですからね。

「助かる。まあそれで早い話、飢饉についてだ。今もなお食料が不足しているだろ? 儂が買い付けた保存食もそろそろ底を突く。王家へ多大な支援を行ったからな」

 長雨による影響は三年ほど続きます。

 治水工事により作物の全滅は避けられたのですが、それでも全域の洪水を防いだわけではなく、収穫高はまだ回復していません。

「あれほど蓄えがあったというのに、もうなくなってしまったのですか?」

「まあ、そうなのだが、求められた量を送っておったのでな……」

 何という浅はかな行動をしてんのよ?

 三年目の秋まで持つように買い付けていたのよ? 秋まで半年もある現状でなくなるなんて馬鹿すぎないかしら?

「残りを六等分して支援するしかありませんわ。全てはランカスタ公爵の責任です」

 毅然と返しています。

 恐らく見栄を張った結果だもの。計画通りにしなかった髭が悪いのです。

「そうも言っておられんのだ。メルヴィスが支援を始めたからな……」

 メルヴィスとは副都リーフメルに居を構える北の権力者。ミランダの父親であり、四大公爵家の一角だったりします。

 御年七十歳というご高齢ですが、息子や娘たちに権力の委譲をするどころか、今もまだ上を目指しているみたい。

「北部は比較的長雨の影響が少ないですからね」

「どうにかならんか? 今思えばリッチモンドと同時に廃爵に追い込むべきだった……」

 まあ確かに。でも証拠不十分というグレーな判定で廃爵まで辿り着きませんでした。

 メルヴィス公爵が送った大量のシャンパンはほぼ無毒でありましたし、当然の結果かもしれません。

「ランカスタ公爵家の支援がなくなり、困窮しているところに支援を始めるとか抜け目ないですね。ずっと印象が良くなります。どこかの公爵様が計画を台無しにするから……」

「分かっとる! 何とかしろと言っておるのだ!」

 私としてはメルヴィス公爵家が力を得ようとも問題ありません。

 なぜなら公爵令嬢ミランダが王子殿下の妃となるシナリオは用意されていないのです。

 現状の公爵令嬢で可能性があるとすれば、イセリナかクレアフィール公爵家のエレオノーラだけ。

 かといってメルヴィス公爵家が政治的権力を手に入れると、動きにくくなるのは間違いありません。

「でしたら、私兵を動かすしかありませんね」

「北と戦争を始めろというのか?」

「違いますわ。隣国の話です。サルバディール皇国は三ヶ月も経過しない間に戦争を始めます。その支援を行う代わりに、食料の融通を願うのですよ。かの国は農業国ですからね。私兵を五千ほど送ってあげたのなら、喜んで支援してくれますよ」

 今から半年後のこと。秋を迎えた頃に戦争は激化し、総力戦に伴いカルロは帰国することになるのです。

 髭が私兵を派遣することで、それは回避できるかもしれません。

「五千だと? 領地にいる兵の半分ではないか!?」

「身から出た錆ですわ。それ以外に食料の融通など叶いません。せっかく所領が拡がったのです。兵を募集してみてはいかがでしょう?」

 現状の私はカルロの所有物です。よって彼が帰国するのなら、ついて行くしかありません。

 沈みゆくサルバディール皇国を救うために髭が私兵を送り込むことは寧ろ好機と言えるでしょう。

「その戦争の結末はどうなる?」

 やはり気になるわね。私としても気が重い話なのだけど。

 知り得る未来。嘆息しつつも、私は髭に伝えています。

 長期化の末、サルバディール皇国は滅亡します――と。
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