青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

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第七章 光が射す方角

四日目のできごと

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 貴族院が始まって四日。私は前世界線の記録を更新していました。

 前世界線はたった三日でありましたけれど、トラウマの三日目を終えられたことは新しい世界線がようやく始まったようにも感じられています。

 本日は試験のみ。さりとて、とても基礎的な内容で、受験の内容よりも簡単なものでした。

「やはり私は傍観者であるべきだ……」

 四日目が終わって思う。過度に介入せずとも世界が救われるのであれば、私は首を突っ込む必要なんてないのだと。


 試験はつつがなく終わったはずなのですけれど、教員による講評が続けられることになっています。

「貴族院は優秀な人材を輩出するためにある。もちろん上位貴族にとっては義務ともいえることだ。しかしながら、現状において諸君らは期待値を遥かに下回っている。それは貴族院の品位を貶めるほどに……」

 まだ始まったばかりだというのに、教師の小言が続きます。

 試験は現状の学力を把握するためのものであったはずなのに。

「成績下位の10名には課題を出す。来週までに提出すること」

 私は嘆息しています。なぜなら、その10名に我らが姫様も含まれていたからです。

 学力試験はゲームでも不可避のイベントでしたから、私は勉強しろと力説していたというのに。

「続いて成績上位者を発表する……」

 成績が振るわなかった者を名指しで説教したあと、教師は優秀者の発表を始めていました。

「成績トップはルイ・ローズマリー。よくやった。貴殿は満点であったぞ」

 私はトップでした。まあ、必ず一番になるつもりだったわけですけれど。

 成績優秀者は高慢チキなご令嬢から謂れのない悪口を言われる運命だからです。そんな役目をエリカがする必要はなく、悪役令嬢である私が請け負うべきだからね。

「二位はエリカ・ローズマリー。……ん? 二人は双子なのか?」

 教師は無知を晒しています。エリカのことはともかく、私はそれなりに有名人なのです。

 話題にもなったというのに、知らないなんて試験の成績をとやかく言えないような気がしますね。

「私とルイ様は双子ではありません。血も繋がっておりませんけれど、同じ苗字であることは誇りに感じております……」

 小さく返答したのはエリカでした。

 ここは私が答えるべきだったね。二位でも充分な好成績。ミランダ辺りが文句を言いそうだわ。

「そうか。貴様は一問間違いがあった。まあしかし、よく学習できている」

 貴族院は表向き爵位を加味しない。

 教師が指導しやすいように、全員を同列に見ることになっています。しかしながら、生徒にまで徹底されているかといえば、その限りではありません。

 だからこそ、教師の目が届かない場所でのイジメがあるのですから。

「三位はルーク・ルミナス・セントローゼス。上位二人との差はあったが、好成績だった。この調子で精進したまえ」

 三位はルーク。この辺りはゲームとの差異はありません。ゲームでは私の代わりにイセリナが上位三人に入っていたのですけれど。

 説教のあと、生徒たちは解放されています。自分が怒られたわけでもなかったというのに、やはり小言を聞くのは疲れてしまうのよね。

「ルイ、課題手伝って!」

 教師が講堂を去るや、お馬鹿さんが言いました。

 私の忠告を聞いていなかったせいであるというのに。

「嫌よ。自分でやらなきゃ、課題の意味がないもの……」

 この先を考えると、甘やかしていては駄目だ。

 イセリナには立派な公爵令嬢になってもらい、王太子妃として相応しい知性を身につけてもらわないと。

「そんなぁ……」

「さぁ、帰るわよ。寝る時間が惜しいのなら、早く帰って机に向かうことね」

「イセリナ様、頑張ってください!」

 オリビアのエールにイセリナは頷く。

 課題を与えられたのは概ね上位貴族でした。イセリナだけでなく、ミランダまで成績不良だなんてセントローゼス王国は大丈夫なのかしらね?

 私たちが帰り支度をし始めると、

「ルイ・ローズマリーはまだいるか? ランカスタ公爵様が面会を求められている」

 教員らしき男性が私の名を呼びました。

(髭が何のよう?)

 ひょっとすると魔導書が見つかったのかもしれない。

「イセリナ、先に帰ってて。髭に会ってくるから」

「お父様ならワタクシも同行しますわ!」

「ああ、すまない。公爵殿はルイ・ローズマリーだけを連れてくるよう仰られている。君が同行を願いでても断るように仰せつかった」

 込み入った話なのでしょうね。

 イセリナの同行を許さないというのなら、恐らくはリッチモンド公爵への謀略に関すること。

 まあしかし、貴族院でする話ではないと思えています。

 何だか嫌な予感しかしないわね。とはいえ、髭に命令されたのなら従うしかありません。

 私は渋々と教員のあとを付いていくのでした。
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