144 / 377
第七章 光が射す方角
四日目のできごと
しおりを挟む
貴族院が始まって四日。私は前世界線の記録を更新していました。
前世界線はたった三日でありましたけれど、トラウマの三日目を終えられたことは新しい世界線がようやく始まったようにも感じられています。
本日は試験のみ。さりとて、とても基礎的な内容で、受験の内容よりも簡単なものでした。
「やはり私は傍観者であるべきだ……」
四日目が終わって思う。過度に介入せずとも世界が救われるのであれば、私は首を突っ込む必要なんてないのだと。
試験はつつがなく終わったはずなのですけれど、教員による講評が続けられることになっています。
「貴族院は優秀な人材を輩出するためにある。もちろん上位貴族にとっては義務ともいえることだ。しかしながら、現状において諸君らは期待値を遥かに下回っている。それは貴族院の品位を貶めるほどに……」
まだ始まったばかりだというのに、教師の小言が続きます。
試験は現状の学力を把握するためのものであったはずなのに。
「成績下位の10名には課題を出す。来週までに提出すること」
私は嘆息しています。なぜなら、その10名に我らが姫様も含まれていたからです。
学力試験はゲームでも不可避のイベントでしたから、私は勉強しろと力説していたというのに。
「続いて成績上位者を発表する……」
成績が振るわなかった者を名指しで説教したあと、教師は優秀者の発表を始めていました。
「成績トップはルイ・ローズマリー。よくやった。貴殿は満点であったぞ」
私はトップでした。まあ、必ず一番になるつもりだったわけですけれど。
成績優秀者は高慢チキなご令嬢から謂れのない悪口を言われる運命だからです。そんな役目をエリカがする必要はなく、悪役令嬢である私が請け負うべきだからね。
「二位はエリカ・ローズマリー。……ん? 二人は双子なのか?」
教師は無知を晒しています。エリカのことはともかく、私はそれなりに有名人なのです。
話題にもなったというのに、知らないなんて試験の成績をとやかく言えないような気がしますね。
「私とルイ様は双子ではありません。血も繋がっておりませんけれど、同じ苗字であることは誇りに感じております……」
小さく返答したのはエリカでした。
ここは私が答えるべきだったね。二位でも充分な好成績。ミランダ辺りが文句を言いそうだわ。
「そうか。貴様は一問間違いがあった。まあしかし、よく学習できている」
貴族院は表向き爵位を加味しない。
教師が指導しやすいように、全員を同列に見ることになっています。しかしながら、生徒にまで徹底されているかといえば、その限りではありません。
だからこそ、教師の目が届かない場所でのイジメがあるのですから。
「三位はルーク・ルミナス・セントローゼス。上位二人との差はあったが、好成績だった。この調子で精進したまえ」
三位はルーク。この辺りはゲームとの差異はありません。ゲームでは私の代わりにイセリナが上位三人に入っていたのですけれど。
説教のあと、生徒たちは解放されています。自分が怒られたわけでもなかったというのに、やはり小言を聞くのは疲れてしまうのよね。
「ルイ、課題手伝って!」
教師が講堂を去るや、お馬鹿さんが言いました。
私の忠告を聞いていなかったせいであるというのに。
「嫌よ。自分でやらなきゃ、課題の意味がないもの……」
この先を考えると、甘やかしていては駄目だ。
イセリナには立派な公爵令嬢になってもらい、王太子妃として相応しい知性を身につけてもらわないと。
「そんなぁ……」
「さぁ、帰るわよ。寝る時間が惜しいのなら、早く帰って机に向かうことね」
「イセリナ様、頑張ってください!」
オリビアのエールにイセリナは頷く。
課題を与えられたのは概ね上位貴族でした。イセリナだけでなく、ミランダまで成績不良だなんてセントローゼス王国は大丈夫なのかしらね?
私たちが帰り支度をし始めると、
「ルイ・ローズマリーはまだいるか? ランカスタ公爵様が面会を求められている」
教員らしき男性が私の名を呼びました。
(髭が何のよう?)
ひょっとすると魔導書が見つかったのかもしれない。
「イセリナ、先に帰ってて。髭に会ってくるから」
「お父様ならワタクシも同行しますわ!」
「ああ、すまない。公爵殿はルイ・ローズマリーだけを連れてくるよう仰られている。君が同行を願いでても断るように仰せつかった」
込み入った話なのでしょうね。
イセリナの同行を許さないというのなら、恐らくはリッチモンド公爵への謀略に関すること。
まあしかし、貴族院でする話ではないと思えています。
何だか嫌な予感しかしないわね。とはいえ、髭に命令されたのなら従うしかありません。
私は渋々と教員のあとを付いていくのでした。
前世界線はたった三日でありましたけれど、トラウマの三日目を終えられたことは新しい世界線がようやく始まったようにも感じられています。
本日は試験のみ。さりとて、とても基礎的な内容で、受験の内容よりも簡単なものでした。
「やはり私は傍観者であるべきだ……」
四日目が終わって思う。過度に介入せずとも世界が救われるのであれば、私は首を突っ込む必要なんてないのだと。
試験はつつがなく終わったはずなのですけれど、教員による講評が続けられることになっています。
「貴族院は優秀な人材を輩出するためにある。もちろん上位貴族にとっては義務ともいえることだ。しかしながら、現状において諸君らは期待値を遥かに下回っている。それは貴族院の品位を貶めるほどに……」
まだ始まったばかりだというのに、教師の小言が続きます。
試験は現状の学力を把握するためのものであったはずなのに。
「成績下位の10名には課題を出す。来週までに提出すること」
私は嘆息しています。なぜなら、その10名に我らが姫様も含まれていたからです。
学力試験はゲームでも不可避のイベントでしたから、私は勉強しろと力説していたというのに。
「続いて成績上位者を発表する……」
成績が振るわなかった者を名指しで説教したあと、教師は優秀者の発表を始めていました。
「成績トップはルイ・ローズマリー。よくやった。貴殿は満点であったぞ」
私はトップでした。まあ、必ず一番になるつもりだったわけですけれど。
成績優秀者は高慢チキなご令嬢から謂れのない悪口を言われる運命だからです。そんな役目をエリカがする必要はなく、悪役令嬢である私が請け負うべきだからね。
「二位はエリカ・ローズマリー。……ん? 二人は双子なのか?」
教師は無知を晒しています。エリカのことはともかく、私はそれなりに有名人なのです。
話題にもなったというのに、知らないなんて試験の成績をとやかく言えないような気がしますね。
「私とルイ様は双子ではありません。血も繋がっておりませんけれど、同じ苗字であることは誇りに感じております……」
小さく返答したのはエリカでした。
ここは私が答えるべきだったね。二位でも充分な好成績。ミランダ辺りが文句を言いそうだわ。
「そうか。貴様は一問間違いがあった。まあしかし、よく学習できている」
貴族院は表向き爵位を加味しない。
教師が指導しやすいように、全員を同列に見ることになっています。しかしながら、生徒にまで徹底されているかといえば、その限りではありません。
だからこそ、教師の目が届かない場所でのイジメがあるのですから。
「三位はルーク・ルミナス・セントローゼス。上位二人との差はあったが、好成績だった。この調子で精進したまえ」
三位はルーク。この辺りはゲームとの差異はありません。ゲームでは私の代わりにイセリナが上位三人に入っていたのですけれど。
説教のあと、生徒たちは解放されています。自分が怒られたわけでもなかったというのに、やはり小言を聞くのは疲れてしまうのよね。
「ルイ、課題手伝って!」
教師が講堂を去るや、お馬鹿さんが言いました。
私の忠告を聞いていなかったせいであるというのに。
「嫌よ。自分でやらなきゃ、課題の意味がないもの……」
この先を考えると、甘やかしていては駄目だ。
イセリナには立派な公爵令嬢になってもらい、王太子妃として相応しい知性を身につけてもらわないと。
「そんなぁ……」
「さぁ、帰るわよ。寝る時間が惜しいのなら、早く帰って机に向かうことね」
「イセリナ様、頑張ってください!」
オリビアのエールにイセリナは頷く。
課題を与えられたのは概ね上位貴族でした。イセリナだけでなく、ミランダまで成績不良だなんてセントローゼス王国は大丈夫なのかしらね?
私たちが帰り支度をし始めると、
「ルイ・ローズマリーはまだいるか? ランカスタ公爵様が面会を求められている」
教員らしき男性が私の名を呼びました。
(髭が何のよう?)
ひょっとすると魔導書が見つかったのかもしれない。
「イセリナ、先に帰ってて。髭に会ってくるから」
「お父様ならワタクシも同行しますわ!」
「ああ、すまない。公爵殿はルイ・ローズマリーだけを連れてくるよう仰られている。君が同行を願いでても断るように仰せつかった」
込み入った話なのでしょうね。
イセリナの同行を許さないというのなら、恐らくはリッチモンド公爵への謀略に関すること。
まあしかし、貴族院でする話ではないと思えています。
何だか嫌な予感しかしないわね。とはいえ、髭に命令されたのなら従うしかありません。
私は渋々と教員のあとを付いていくのでした。
10
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
【完結】あなたの瞳に映るのは
今川みらい
恋愛
命を救える筈の友を、俺は無慈悲に見捨てた。
全てはあなたを手に入れるために。
長年の片想いが、ティアラの婚約破棄をきっかけに動き出す。
★完結保証★
全19話執筆済み。4万字程度です。
前半がティアラside、後半がアイラスsideになります。
表紙画像は作中で登場するサンブリテニアです。
あなたの側にいられたら、それだけで
椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。
私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。
傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。
彼は一体誰?
そして私は……?
アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。
_____________________________
私らしい作品になっているかと思います。
ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。
※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります
※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)
【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに
おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」
結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。
「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」
「え?」
驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。
◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話
◇元サヤではありません
◇全56話完結予定

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる