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第七章 光が射す方角

受験日に

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 カルロの受験日となっています。

 試験会場は何とソレスティア王城。隣国の王子様から大貴族、更にはセントローゼス王国内の平民たちまでいます。

 もちろん、大商会の御曹司や金銭的に余裕があるものたちが対象者です。二年間で金貨二百枚の寄付が賄える平民は多くありませんし。

 かといって、彼らは貴族たちの志願者が定員割れした場合にのみ、合格できます。空きがなければ一人も受からないという出来レースともいえる受験でした。

「どうして、私まで……」

「ブツクサ言うな。どうせ来年受験するんだ。雰囲気に慣れておけ」

 絶対に王城へは行きたくなかったというのに、カルロに命令された私は受験会場に向かっています。

 今まさに城門を潜ったところであり、残念ながらサルバディール皇国の馬車は止められることなく素通りしていました。

 雰囲気に慣れろといいますけれど、私は前世をここで過ごしたのですよ。

 もう忘れたの? 金魚並の脳みそしてんじゃないですよ……。


 とはいえ、試験会場は王城そのものではなく、敷地内にある貴族館という建物でした。

(ここならルークたちに出会わないよね……)

 王族たちは基本的に王宮殿という離れにいるのです。貴族館であれば、まず出くわすはずがありません。

 カルロが試験会場へと入ってから、私は貴族館のロビーへと来ていました。ここで試験が終わるまで待つだけで何の問題もないのです。

「下手に彷徨くような真似はするべきじゃないよね。少し寝ておこう」

 ところが、居眠りしていた私は誰かが貴族館にやって来たことで目を覚まします。

「えっ!?」

 思わぬ人が貴族館に来ていました。

 私がここへ来ることは屋敷の人間しか知らないはず。だというのに、どうしてか貴族館に王族が現れていたのです。

 私は直ぐさまベールを深く被りますが、残念ながら話しかけられていました。

「貴方様はカルロ・サルバディール殿下の付き人でしょうか?」

 えっと、どう答えるべきなの? まだ私が誰なのか分かっていないみたい。

 貴族館に現れたのはセシルでした。

 何の用があって貴族館のような離れに来ているのでしょうか。とりま、腹を括るしかない。

 カルロ殿下の従者がルイ・ローズマリーであること。更にはルイ・ローズマリー枢機卿はアナスタシア・スカーレットであること。それらは既に公表されていることなのです。

「ご無沙汰しております。セシル殿下……」

 この世界線のセシルは私を殆ど知らないはず。

 火竜退治の折りにあった晩餐会しか会う機会はなかったと思います。

「やはり貴方様でしたか……。受験者にカルロ殿下がいらっしゃると聞いて、もしやと思い僕は貴族館に足を運んでおります」

 もしかすると、私は咎められるのかもしれません。何しろ、王太子が確定的であった状況を覆してしまったのは私の証言によるところが大きい。ルークは再び王太子候補の有力者になっているのですから。

「申し訳ございません。私は世の認識を改めたかったのです。ルーク殿下が謂れのない非難に遭っていたことを心苦しく感じておりました……」

 とりあえず、謝っておけばいいよね?

 セシルとて私を鞭打ちにしようとして、来たわけではないでしょうし。

「逆ですよ。アナスタシア様の勇敢な発言で助かったと感じています。僕は出自からして、二人のお兄様に及びません。王太子となり、国を率いていく立場には相応しくないのです」

 どうやら、この世界線のセシルは私が知る彼であるみたい。

 気弱な王子殿下。秘めたる能力とは裏腹に、兄が放つ輝きの陰に潜もうとしているようです。

「お礼を言っておこうと思いまして……」

 律儀なことですね。でも、まだ何かあるはず。王子殿下が感謝を伝えるためだけに、足を運ぶとは思えない。

 貴族館に私が来たのは今朝決まったことだし、勘だけを頼りに赴くはずがありません。

「礼には及びませんわ。それよりも、私に何か用事があるのでは?」

 どうせ暇を持て余していたのだし、話は聞いてあげる。

 だけど、聞くだけだから。今更、隣国の王子様に何か言われたとしても、私には無関係な話なのよ。

 頷くセシル。やはり彼には何か頼みごとがあったみたいですね。

「リッチモンドの処刑が行われました。もう、貴方様を煩わせる問題はないと考えます。セントローゼス王国に戻られるのに障害はなくなったかと思います」

 淡々と告げられた話。そんなところだろうと考えていましたけれど。

 聡明な彼らしい判断かなぁと感じます。

「セシル殿下、私はサルバディール皇国の庇護下にございます。行くあてのない私を保護してくださったのです。恩義を感じることはあっても、裏切るような真似はできませんわ」

 ダンツにも言ったけど、やはり現状が動きやすいと思う。

 陰ながら世界線を見守るには今の立ち位置こそが最適なのだと。

「それに私ではなくても、光の聖女は現れているではございませんか?」

 王国を照らす聖女は私じゃない。エリカの闇を排除し、燦々と輝けるようにするのが私の役目なのよ。

 言わば私は陰の聖女かもね。

「エリカ様をご存知なのでしょうか?」

 どうやらエリカは私の話をしていないみたいね。

 彼女からすれば私は外国人だし、当たり前かもしれません。

「知ってるもなにも友人ですわ。エリカは容姿だけでなく、心まで美しい聖女。セントローゼス王国にとって、かけがえのない女性です」

「そういえばアナスタシア様はスラム街で慈善活動をされているのでしたね」

 あくまでアナスタシアと呼ぶセシルには眉根を寄せるしかありません。

「エリカは治癒院での仕事をしながら、手伝ってくれたのですわ。打算ばかりの私とは異なり、彼女は得るものがなくとも無償で働いてくれる。エリカこそが聖女と呼ばれるに相応しい」

 私はこの世界線でプロメディア世界を救うつもり。

 イセリナとエリカが共に王家へと嫁ぎ、セントローゼス王国に繁栄をもたらせる。それが私の目標なのよ。

「アナスタシア様はご自身を卑下しすぎですね。僕は貴方様のことをよく存じ上げませんが、ルーク兄様やレグスが話すところによると、尊ぶべき方であり王国に必要不可欠な存在であると確信しております」

「二人は私に良い印象など持っていないでしょう? 私は感情に任せて二人を追いやり、挙げ句の果て望みもしない方向に時を進めてしまったのですから」

 褒められた人間ではありません。

 私は常に使命を第一としており、世界に生きる人々を蔑ろにしてきました。ルークもレグス近衛騎士団長も巻き込まれた人たちに含まれています。

 けれども、セシルは引き下がりません。彼は私が成した事実を口にするだけでした。

 アナスタシア様は兄様を救ったではありませんか?――と。
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