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第七章 光が射す方角
踏み込む勇気
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「お前は俺のものだ……」
溜め息が漏れてしまう。
また命令ですか? 別に私はそういった行為を知っていますし、前世も妻として行為を受け入れてきました。
だけど、命令されたことなんか一度だってない。娼婦のような扱いをされたことはありません。
「乱暴は止めてください。承知しましたから……」
「勘違いするな。俺は別に求めてなんかいない」
なぜかカルロは身体を求めていないと話します。
後ろから抱きついたのは下心ではないとでもいうつもり?
「俺は壊れた持ち物を修理しているだけだ」
やはり私は物扱い。探せば代わりくらい見つかる存在なのね。
どこまでも長い息を私が吐いたあと、彼は続けました。
「お前の心は壊れている……」
「私が壊れている?」
だからって抱きつく? 生憎と高宮千紗であった頃から私はこのままよ。
貴方が言うところの壊れた状態のまま、私は生きているの。
「殿下に抱擁されたからって治りますか?」
「治すよ。礼には及ばん。ジッとしてろ」
背中に温もりを感じていました。
加えて、回した腕が震えているのが分かる。
そっと覆い被さっただけであり、彼は過度な密着を避けてくれているのでしょう。
(何だか笑っちゃうな……)
下心でも構わなかったのに。思い切り抱きついてくれた方が、より温もりを感じられたのに。
「殿下、もう少し下。胸とか触ってみ?」
「わわ、馬鹿! 淑女がそんなことを言うな!? 仮にも聖女だろ!?」
焦るカルロを私は悪戯に笑っています。
少しばかりの仕返しです。手さえも握らぬ彼が婚約者でもない女の胸を触るはずがないのですから。
「そんなんじゃ、結婚したらどうするのです?」
「おお、お前とか!? いや、俺だって正式な手順を踏んだあとなら躊躇しねぇよ!」
「ホントかなぁ?」
「るせぇぞ、所有物!」
言ってカルロは私の肩を掴みました。
緊張しているのが伝わります。だからこそ、私は静かに目を瞑っている。
所有物らしく、彼の手伝いをする感じで。
ようやく重なる唇。と思いきや、息がかかっただけで触れていません。
彼が離れていくのが目蓋越しにも分かりました。
「ヘタレ……」
「言葉を慎めよ! 俺は皇太子だぞ!?」
思わず吹き出してしまう。
まあですよね、皇太子様。貴方にできないことなど数えるほどもないでしょう。
ただその中の一つに私が入っているのは光栄です。大切にしてくれているのがよく分かりました。
「我慢した反動が怖いな。とんでもないモンスターになるんじゃないですか?」
「俺は紳士だ。間違ってもお前を辛い目に遭わせたりしない」
「そうですかねぇ?」
何だかんだでカルロが話す通りになっていました。
追い込みすぎていた私の心はやはり壊れていたのかもしれません。
「殿下、ありがとうございます。おかげさまで、少しばかり回復しましたわ」
「本当かぁ?」
後ろから抱きつかれただけ。キスすらしていない。
でも、私の心は間違いなく暖められ、ひび割れた隙間は消えていたことでしょう。
「随分と笑いましたから。笑わせてくれてありがとうございました!」
「笑わせたんじゃねぇよ!」
最後まで面白かった。ここ何ヶ月で一番笑えたと思います。
「この次、心が病んだときも爆笑をお願いしますね?」
「もう知らん!!」
彼はやはり私を思ってくれている。そう実感できる朝となりました。
さて、そろそろ眠り姫を起こしに行きますか。
イセリナにとっても良いことです。
不機嫌に叩き起こされることを回避できたのですからね。
溜め息が漏れてしまう。
また命令ですか? 別に私はそういった行為を知っていますし、前世も妻として行為を受け入れてきました。
だけど、命令されたことなんか一度だってない。娼婦のような扱いをされたことはありません。
「乱暴は止めてください。承知しましたから……」
「勘違いするな。俺は別に求めてなんかいない」
なぜかカルロは身体を求めていないと話します。
後ろから抱きついたのは下心ではないとでもいうつもり?
「俺は壊れた持ち物を修理しているだけだ」
やはり私は物扱い。探せば代わりくらい見つかる存在なのね。
どこまでも長い息を私が吐いたあと、彼は続けました。
「お前の心は壊れている……」
「私が壊れている?」
だからって抱きつく? 生憎と高宮千紗であった頃から私はこのままよ。
貴方が言うところの壊れた状態のまま、私は生きているの。
「殿下に抱擁されたからって治りますか?」
「治すよ。礼には及ばん。ジッとしてろ」
背中に温もりを感じていました。
加えて、回した腕が震えているのが分かる。
そっと覆い被さっただけであり、彼は過度な密着を避けてくれているのでしょう。
(何だか笑っちゃうな……)
下心でも構わなかったのに。思い切り抱きついてくれた方が、より温もりを感じられたのに。
「殿下、もう少し下。胸とか触ってみ?」
「わわ、馬鹿! 淑女がそんなことを言うな!? 仮にも聖女だろ!?」
焦るカルロを私は悪戯に笑っています。
少しばかりの仕返しです。手さえも握らぬ彼が婚約者でもない女の胸を触るはずがないのですから。
「そんなんじゃ、結婚したらどうするのです?」
「おお、お前とか!? いや、俺だって正式な手順を踏んだあとなら躊躇しねぇよ!」
「ホントかなぁ?」
「るせぇぞ、所有物!」
言ってカルロは私の肩を掴みました。
緊張しているのが伝わります。だからこそ、私は静かに目を瞑っている。
所有物らしく、彼の手伝いをする感じで。
ようやく重なる唇。と思いきや、息がかかっただけで触れていません。
彼が離れていくのが目蓋越しにも分かりました。
「ヘタレ……」
「言葉を慎めよ! 俺は皇太子だぞ!?」
思わず吹き出してしまう。
まあですよね、皇太子様。貴方にできないことなど数えるほどもないでしょう。
ただその中の一つに私が入っているのは光栄です。大切にしてくれているのがよく分かりました。
「我慢した反動が怖いな。とんでもないモンスターになるんじゃないですか?」
「俺は紳士だ。間違ってもお前を辛い目に遭わせたりしない」
「そうですかねぇ?」
何だかんだでカルロが話す通りになっていました。
追い込みすぎていた私の心はやはり壊れていたのかもしれません。
「殿下、ありがとうございます。おかげさまで、少しばかり回復しましたわ」
「本当かぁ?」
後ろから抱きつかれただけ。キスすらしていない。
でも、私の心は間違いなく暖められ、ひび割れた隙間は消えていたことでしょう。
「随分と笑いましたから。笑わせてくれてありがとうございました!」
「笑わせたんじゃねぇよ!」
最後まで面白かった。ここ何ヶ月で一番笑えたと思います。
「この次、心が病んだときも爆笑をお願いしますね?」
「もう知らん!!」
彼はやはり私を思ってくれている。そう実感できる朝となりました。
さて、そろそろ眠り姫を起こしに行きますか。
イセリナにとっても良いことです。
不機嫌に叩き起こされることを回避できたのですからね。
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