136 / 377
第七章 光が射す方角
所有物
しおりを挟む
エリカの闇属性を消去しようと考えた私は寝る間を惜しんで魔法構築に精を出していました。
何度も死に戻った世界線とは異なる。睡眠時間を削っていかなければ、絶対に間に合わないだろうと。
ほぼ徹夜をして、私は朝食の席についています。
「ルイ、お前はずっと勉強しているのか?」
カルロが聞いた。部屋の灯りがついているのを確認したのかもしれません。
「魔道書を探してもらっているでしょ? 魔法を構築しようとしているの」
「試験の勉強もせずにか? リックは涙目になっていたじゃないか?」
私は魔道書の捜索をリックとコンラッドに依頼している。
片や皇太子の従者であり、片や暗殺者であるけれど。まあ二人とも暗部みたいなものだし、探すのは得意だろうと考えてのことです。
「ご心配なく。私は勉強などしなくても満点で合格できますわ。リックにお願いしたのは彼ならば早々に見つけられると考えたからです」
現状で私が飛びまわっている時間は残されていない。
彼らが戻るまでに、私は知っている古代文字を使って、概略だけでも組んでおきたいと頑張っているのです。
「しっかり寝ないと体力が持たないぞ?」
「しょうがないじゃないですか? 時間が足りないんですよ……」
それでなくとも飢饉という問題も間近に迫っている。
治水対策はしたものの、日照不足による不作は明らかでした。
私は何度かサルバディール皇国までペガサスで飛び、その年の収穫物を大量に買い付けているけれど、飢饉の規模が分からないので今もなお買い足しています。
「世界を救う時間が足りません……」
刻一刻と迫っています。頑張れるのはあと五年しかない。
累計なら何年もあるでしょうけれど、生憎と繰り返したい思いはありません。
五年頑張れば報われるのなら、命懸けで頑張れば良い。私が出した結論はそんなところです。
「またそれか……」
「使命なんだから殿下には関係ございませんわ」
私は顔を背ける。カルロの信仰心に影を落とすことになろうとも、私の知ったことではありません。
元はといえば、天界のシミュレーションが曖昧だったせいだもの。
初めからアナスタシアを選んでいたのなら、私は恋心に気付くはずもなく、エリカに同情することもなかったことでしょう。
堂々とセシルを籠絡し、世界は救済されたはずです。
「えっ?」
次の瞬間、私は固まっていました。
なぜなら、ふて腐れたように顔を逸らした私に、どうしてかカルロが背後から抱きついていたのです。
手に触れようとすらしなかった彼が、なぜか襲いかかるような行為をするなんて。
「待つのではなかったのですか?」
怪訝そうに声をかけます。
時間がない今の状況で相手をする気にはなれませんでした。
「もちろん待つさ。でもな……」
カルロはその理由を口にします。身体を求めるような行為の弁明について。
だけど、それは覚悟していたこと。私はカルロの所有物なのですから。
「お前は俺のものだ……」
何度も死に戻った世界線とは異なる。睡眠時間を削っていかなければ、絶対に間に合わないだろうと。
ほぼ徹夜をして、私は朝食の席についています。
「ルイ、お前はずっと勉強しているのか?」
カルロが聞いた。部屋の灯りがついているのを確認したのかもしれません。
「魔道書を探してもらっているでしょ? 魔法を構築しようとしているの」
「試験の勉強もせずにか? リックは涙目になっていたじゃないか?」
私は魔道書の捜索をリックとコンラッドに依頼している。
片や皇太子の従者であり、片や暗殺者であるけれど。まあ二人とも暗部みたいなものだし、探すのは得意だろうと考えてのことです。
「ご心配なく。私は勉強などしなくても満点で合格できますわ。リックにお願いしたのは彼ならば早々に見つけられると考えたからです」
現状で私が飛びまわっている時間は残されていない。
彼らが戻るまでに、私は知っている古代文字を使って、概略だけでも組んでおきたいと頑張っているのです。
「しっかり寝ないと体力が持たないぞ?」
「しょうがないじゃないですか? 時間が足りないんですよ……」
それでなくとも飢饉という問題も間近に迫っている。
治水対策はしたものの、日照不足による不作は明らかでした。
私は何度かサルバディール皇国までペガサスで飛び、その年の収穫物を大量に買い付けているけれど、飢饉の規模が分からないので今もなお買い足しています。
「世界を救う時間が足りません……」
刻一刻と迫っています。頑張れるのはあと五年しかない。
累計なら何年もあるでしょうけれど、生憎と繰り返したい思いはありません。
五年頑張れば報われるのなら、命懸けで頑張れば良い。私が出した結論はそんなところです。
「またそれか……」
「使命なんだから殿下には関係ございませんわ」
私は顔を背ける。カルロの信仰心に影を落とすことになろうとも、私の知ったことではありません。
元はといえば、天界のシミュレーションが曖昧だったせいだもの。
初めからアナスタシアを選んでいたのなら、私は恋心に気付くはずもなく、エリカに同情することもなかったことでしょう。
堂々とセシルを籠絡し、世界は救済されたはずです。
「えっ?」
次の瞬間、私は固まっていました。
なぜなら、ふて腐れたように顔を逸らした私に、どうしてかカルロが背後から抱きついていたのです。
手に触れようとすらしなかった彼が、なぜか襲いかかるような行為をするなんて。
「待つのではなかったのですか?」
怪訝そうに声をかけます。
時間がない今の状況で相手をする気にはなれませんでした。
「もちろん待つさ。でもな……」
カルロはその理由を口にします。身体を求めるような行為の弁明について。
だけど、それは覚悟していたこと。私はカルロの所有物なのですから。
「お前は俺のものだ……」
10
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
【完結】あなたの瞳に映るのは
今川みらい
恋愛
命を救える筈の友を、俺は無慈悲に見捨てた。
全てはあなたを手に入れるために。
長年の片想いが、ティアラの婚約破棄をきっかけに動き出す。
★完結保証★
全19話執筆済み。4万字程度です。
前半がティアラside、後半がアイラスsideになります。
表紙画像は作中で登場するサンブリテニアです。
【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに
おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」
結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。
「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」
「え?」
驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。
◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話
◇元サヤではありません
◇全56話完結予定
あなたの側にいられたら、それだけで
椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。
私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。
傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。
彼は一体誰?
そして私は……?
アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。
_____________________________
私らしい作品になっているかと思います。
ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。
※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります
※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる