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第七章 光が射す方角

命令ならば……

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「ルイは受験しろ……」

 背後から話に割り込んだのはカルロでした。

 真相を知る唯一の人物である彼でしたが、どうしてか貴族院へ入ることを望んでいるようです。

「盗み聞きは良くないですよ?」

「黙れ。ルイは来年、受験をして貴族院に入ること……」

 これだから俺様系は……。

 一方的過ぎる。彼は私の気持ちや覚悟まで知っていたというのに。

「嫌です。私はもう辛い目に遭いたくないのです……」

 貴族院に入ればルークと出会う。

 避けようとしても避けられないのは前世界線で嫌というほど理解しているのよ。

「ルイ、逃げるな」

 続けられたカルロの話に私はムッとした表情をする。

 確かに逃げているけれど、私だって好きで逃げているわけじゃない。

 再び自害するという展開を避けるために、私は今世を生きているのですから。

 そもそも、もう戻ってくるなと言ったのは貴方じゃない? 私が貴族院に入ると、あの時間軸に戻る可能性は高いっての。

「これは戦略的撤退というものですわ」

「俺は逃げるなと言っている。ルイは困難と向き合うべきだ」

 この人の考えがまるで分かりません。

 死を選ぶほど愛した人が別の誰かと愛し合う場面を見届けろと言うの? 私の感情を理解しているとは思えない発言だわ。

「俺はお前に後悔して欲しくない。のちに後悔して、またやり直すつもりか?」

「殿下には分からないのです! 私の気持ちなんか!」

「いいや、理解しているよ。貴族院に入らねば君は絶対に後悔する。気持ちの整理がつかなくなり、同じような結末を迎えるだろう……」

 私に手を出さないのは気持ちの整理を付けろってことなの?

 貴族院に行けば確実に頭を悩ますというのに、どうして入れというの?

「ルイ、命令だ。君は貴族院へと入れ」

 遂には最終的な言葉が告げられる。

 それは卑怯な台詞だ。

 今の私はカルロなくして存在し得ない。彼の庇護下にいるからこそ、生きていると言える希薄な存在なのです。

「受験に落ちるかもしれませんよ?」

「馬鹿な奴だな? ラマティック正教会の枢機卿が不合格になる? 受験は入ったあとの体裁を保てるかどうかで行うだけ。俺も君も合格は確実。馬鹿なのに合格したと言われないためだけに勉強しているんだ」

 ああ、なるほど。立場で合格は決まっているのね。

 要は貴族院の品格を保つためだけに高得点を取るってことか。

「殿下こそ、後悔しないでくださいね?」

 私に覚悟を迫るのだ。従って、所有物と口にする彼にも覚悟をしてもらわねばなりません。

 貴族院に入ると、ルークとの接触は避けられない。だとすれば、私の心が壊れないはずがありません。

 間違いなく感情を乱され、平常心ではいられないことでしょう。

「もちろん。ルイが心の整理を付けてくれることを俺は願っている。心の向きを無理矢理に変えるのは好かんのでな……」

 強引なくせに奥手。そう感じるのはカルロが私の気持ちを知っているからのよう。

(気持ちの整理なんてつくはずないのに……)

 前世で応えきれなかった愛を今世では禁じられているのよ?

 どうやって心の向きを正せっていうつもり?

「命令なら受験します。ホント、殿下は自分勝手です……」

 一応は嫌味も言っておかなければ。

 私が断れないことを知って、命令しているのですから。

「俺は自分勝手だろうな。君の心が落ち着く術はそれしかないと思った。過去と現世を断ち、未来に生きて欲しい」

 何よそれ? 急にしおらしく言わないで欲しいわ。

 別に私は貴族院に入ったとして、地味に過ごすだけ。男女交際なんて考えないし、するつもりもないの。

「結局、私は生かされるだけですけどね……」

 この世界線で生きて行くにはカルロと結ばれるしかない。

 本心とは異なる人に、この身を委ねるしかないのです。逆らえないし、私は従うだけなのよ。

「ルイ、逃げることを止め、真っ直ぐに見据えてみろ。俺が言えるのはそれだけだ」

 何を格好つけて。

 真っ直ぐ見たところでカルロはカルロよ。逃げることを止めたとして、行き着くところは貴方の隣。私に選択権など残されていないわ。

 永遠に平行線を辿るような問答のあと、私は自室へと入っていく。

 どうにも遣りきれない。

 私は世界のために動いているだけだというのに……。
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