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第六章 揺れ動く世界線

罪深き愛の行方

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 控え室へと案内されていました。

 アドルフは何食わぬ顔をして去って行きます。暗殺者であることがバレているとも知らずに。

「ルイ、どういうこと?」

 この場にはオリビアもいましたが、イセリナは疑問を口にしています。

 ルークの毒殺計画に関しては知らない彼女ですけれど、潜り込ませた間者の名がコンラッドであることは知っていたのです。

「少し待ってください……」

 盗聴防止の術式を張ろうと考えましたが、私は思い留まる。

 アドルフが盗聴したことは一度もありません。私が考えた攻略法を見破ったのはコンラッドしかいないのです。

 逆に考えるとコンラッドが私たちの会話を盗み聞きしているかもしれない。だとすれば術式の展開は今後に支障を来すかもしれません。

「アドルフという執事は暗殺者の一人ですわ……」

「ちょちょ、待ちなさい! ルイは味方を潜り込ませたと話していたでしょう!? 担当が違うだけでなく、暗殺者だなんて聞いておりませんわ!」

「静かに。声を荒らげたとして何も変わりません。そもそもアドルフであるのなら、攻略可能ですわ。私の話す通りに動いていただければ問題ございません」

 それこそ何百回と試行したデータが私にはあります。

 アドルフであれば、ステージ上での暗殺は退けられるはず。従って、改めて攻略法を伝授しなければなりません。

「私が教える通りに動いてください。少しでも間違えば痛い思いをしますから」

「痛いってどういうことです!?」

「落ち着いて。イセリナ、貴方は誰にも屈しないのでしょう?」

 私はイセリナの負けず嫌いにかけようと思う。

 彼女であれば恐怖で身が竦むよりも、奮い立ってくれるだろうと。

「も、もちろんですわ! 早く教えなさい!」

 これでいい。全て上手く回っている。しかし、私の鼓動は高鳴るばかり。

 なぜなら、時が経過するたびに、あの光景が近付いてくる。

 毒に苦しむルークの表情を見て、平常心でいられるかどうか自信がなかったのよ。

 長い恋愛を経て、愛に気付いたあの瞬間。二代に亘った恋物語のプロローグがまたやって来るのです。

 思わず口づけを交わしてしまったあの感情を抑えきらねば意味はありません。

 修羅の如き世界線を選んだ私は自身の愛に打ち勝たねばなりませんでした。
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