青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

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第六章 揺れ動く世界線

計画の破綻

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 累計で何年ぶりでしょうか。私は再びデンバー侯爵邸へとやって来ました。

(辟易とするわね……)

 この屋敷を何度見たのか数えきれません。

 二度の人生でいずれも苦汁を嘗めさせられているわけですから。

(今回で終わりにしよう……)

 この世界線ならば、私は天命を全うできることでしょう。

 ルークとの接点は絶ったままだし、懸念であった大洪水からの疫病蔓延まで対策できていたのですから。


 カルロはリックと落ち合ってから、会場入りするとのこと。

 よってイセリナとオリビアを引き連れ、堂々とパーティー会場に乗り込んでいきます。今回は確実にクリアするのだと信じて。

 私たちが受付を済ませると、執事がやって来ました。恐らく控え室まで案内する係なのでしょう。

「え……?」

 私は息を呑んでいました。

 それもそのはず、現れたのはコンラッドではなかったのです。彼ならば確実に入り込んでいるはずなのに。

「私はイセリナ様ご一行を担当いたしますアドルフと申します」

 どうにも困惑する。自害した世界線ではコンラッドが担当でした。

 しかし、アドルフが現れた世界線はいずれもコンラッドが採用されない世界線だったのです。

 過度に焦りを覚えましたが、イベントは私を無視するかのように進行していく。


 会場へと入るや、イセリナが取り囲まれてしまったのです。例によって挨拶詣と呼ぶべきイベントが発生していました。

(しょうがない。切り替えて行こう)

 挨拶詣が始まったのなら、確認するしかない。

 まずは侯爵令嬢サマンサの毒殺を指摘して、誰が現れるのかを。

「貴方、猛毒を塗った手袋でイセリナ様と抱擁するつもりですか!?」

 アドルフが現れた以外は順調でした。だからこそ、世界線を見極める。

 私が選んだ末の結論。世界がどう動いているのかを。

(セシルが現れたのなら終わりね……)

 ここでセシルが現れては全てが破綻する。加えて、衛兵が現れた場合も同様です。

 私が求める人は一人だけしかいないのですから。

「イセリナ嬢、災難だったな……」

 私は言葉を失っていました。

 騒ぎを聞きつけてやって来た人。今や王太子候補から外された彼がやって来たからです。

(この世界線はまだ行き詰まってない……)

 コンラッド以外は前回と同じ。私はこのまま突き進むことを決意しています。

 ベールを深く被り直し、私はイベントを進行させていく。

「ルーク王子殿下、この者の手袋を調べてくださいな」

「うむ、其方はイセリナ嬢の付き人か?」

 部下に指示を出しながら、ルークが聞いた。

 ラマティック正教会は彼も知っているでしょうが、やはりシスターが付き人であるのは違和感を覚えることでしょう。

 まあしかし、イセリナはラマティック正教会の修道院にて修行をしたことになっています。ですので、付き人が修道女であっても不思議ではありません。

「私はラマティック正教会から派遣されております。ルイ・ローズマリー枢機卿でございますわ」

 枢機卿との話にルークは驚くと同時に頭を下げた。

 教会の権威は王家に次ぐものです。加えて私は異教の枢機卿だというのですから、失言などは外交問題に発展しかねません。

「ルイ枢機卿、失礼した。そういえばランカスタ卿は旅行中にラマティック正教会によって命を救われたそうだな」

 そんな話は聞いていないけれど、恐らく髭は出国した理由やその後の遣り取りの理由として嘘を述べただけでしょう。

「ええ、そのご縁でイセリナ様の教育を任されておりますの。護衛も兼ねておりますので」

 私の返答にルークは頷いている。

 下手なことはいえないわね。ここは話を合わせておくしかありません。

「殿下、遅効性の毒が検出されました! 肌に触れるや数時間で死に至る毒のようです!」

「サマンサ・マキシムを拘束せよ! イセリナ・イグニス・ランカスタ嬢の毒殺容疑だ!」

 騒然とするパーティー会場。イレギュラーはありましたが、とりあえず計画通りです。

(私は突き進むだけだ……)

 ルークが現れなければ自害をも考えた。

 しかし、ルークは現れています。ならば、計画に変更はありません。

 私はドリンクを配布する執事からグラスを奪い取るようにします。それを高々と掲げて、私は覚悟の全てを告げました。

「聖杯に毒を注ごうという不届き者を私は許さない! 神に背く暴挙を犯す巨悪は私が天へと還して差し上げますわ! いつでもかかって来なさい。私は全てを浄化して見せましょう!」

 計画は予定通り実行。私はどこかに潜んでいるだろう彼に伝わるよう声を張る。

(コンラッドは必ず潜伏している……)

 私は今もコンラッドを信用していました。

 契約を交わした彼が私を裏切るはずはない。また彼は暗殺者として一流なのです。

 少しばかりのイレギュラーによって動けなくなる三流ではありません。だからこそ、計画が変わらないことを伝える。

 私は何も動揺していないのだと。王子殿下の毒殺未遂計画は実行されるだけであると。

 穢れた愛という猛毒を聖杯に満たすだけよ――。
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