青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

文字の大きさ
上 下
123 / 377
第六章 揺れ動く世界線

善とは何か

しおりを挟む
 三ヶ月が経過していました。

 正体を知られた私はルークがスラム街まで来てしまうのじゃないかと心配していたのですが、どうやらレグス近衛騎士団長は約束を守ってくれたようです。

 世間は私がアナスタシア・スカーレットだと、まだ知らないままでした。

「今回の誕生パーティーは開催されるはず……」

 初夏からの長雨は今回の世界線でも同じでした。

 髭が進言してくれたおかげか、ガゼル王は治水について諸侯たちに指示してくれたみたい。それを受けて余裕のある貴族領は、それなりの対策をしていると聞き及んでいます。

 それでも日照不足による食料危機は避けられない状況ですが、洪水による人命は幾らかでも軽減されそうです。

 私はデンバー侯爵邸へ向かう前に、スラム街の教会を訪れていました。

 それはもちろんのことエリカに会うためであり、今回の彼女は今のところ赤斑病の症状などありません。

「エリカ、身体に赤い斑点のある患者には迷わず薬を与えるのよ? 神聖魔法では効果がないからね?」

「ルイ様、分かっております。既に何人も処置しましたし、赤斑病の恐ろしさは理解しておりますわ」

 やはり疫病は発生していました。

 スラム街を清潔にしたのですが、どうやら外から赤斑病は持ち込まれたみたいです。

「言っておくけど、エリカ自身に赤斑ができたのなら絶対に飲むこと。薬は沢山用意してあるから」

「心配性ですねぇ。流石は清浄なる光のルイ様です」

 どうしてか私はエリカの二つ名で呼ばれています。

 スラム街では神でも降臨したかのような持ち上げられようで、流石に困惑していました。

「ルイ、出発するぞ」

 おっと、俺様皇太子がお呼びです。

 今回も彼は誕生パーティーイベントに手を貸してくれるらしい。上手くいけばリッチモンド公爵を追い詰められることでしょう。

 私たちは王都ルナレイクを出発し、まずはイセリナを迎えに行きます。

 現世界線でも彼女との関係は良好です。ガラクシアで過ごした半年だけでなく、ルナレイクへ戻ってからも頻繁に会いに行ってましたからね。

 既にオリビアとも打ち解けてまして、まるで三姉妹のような関係です。

「ルイが話していましたように、ずっと雨ですわねぇ……」

 イセリナが馬車の窓から見上げていいました。

 長雨はセントローゼス王国だけでなく、プロメティア世界の南部地域一帯を襲っています。

 よって簡単に支援を求めるようなことはできず、各国は自国の食糧難に対処することもままならない状況でした。

 まあしかし、サルバディール皇国はまだマシだと言えます。私の忠告通りに食料を国家が率先して備蓄しているのですから。

 私たちの馬車は前世界線で橋が流されたという地点へ到着。ところが、現世界線に馬車を停車させる地域住民は存在せず、街道を通過できています。

(髭もやるじゃん……)

 金儲け以外で約束を守ってくれるとは意外です。

 ここに到着するまで半信半疑であったのですが、既に私たちは流されたという橋を渡っているのです。

「ほう、ランカスタ公爵は立派な橋を架けたのだな?」

 カルロが言うと、直ぐにイセリナが答えました。

「ルイと約束しましたからね。お父様は領内の治水工事に大金を叩いておりますわ!」

 自慢げに語る彼女。住民のためにした治水工事はイセリナも誇りに感じているみたい。

「しかし、ルイの予知は凄いですわね。全部当たっています。お父様を脅すとかどうなっているのかと思いましたが、このような未来が見えていたのなら当然ですわね」

 聞けば、この長雨は髭の機嫌を良くしているらしい。

 大金を叩いた価値があったと大笑いしていると聞きます。

「カルロ殿下、私はようやく山を越えたようです……」

 とても感慨深い。前世界線では誕生パーティーへの参加すらできませんでした。

 この世界線こそが辿り着くべき未来であり、望んだものに他なりません。

「ルイは頑張ったからな。スラム街での活動は俺も誇りに思っている」

 どうしてか褒められています。日中をほぼ外で過ごす私に不信感を覚えていると考えていたのに。

「やはり君は悪というより善。いや、聖女との評価に相応しい」

 むず痒い言葉が向けられていました。

 でも、悪を討つために巨悪になろうとしている女を聖女と呼ぶなんて間違っている。

「未来を知っていたから。私は知っていたから行動しただけですわ」

 仮に何も知らなければ、私は毎日露店で買い食いをし、マリィと戯れ合いながら過ごしたことでしょう。

「たとえ知っていたとしても、見て見ぬフリをするのが普通だ。それにルイは彼らの死を受け入れたくなくて、施しをしたのだろ? 遠くから見届けるなんてできないのだろう?」

 問いが向けられています。

 簡単な質問。彼らを切り捨てられるかどうかという話でした。

「できません……」

 嘘は言えませんでした。やはり知っていたら見過ごせないじゃない?

 冗談でも看過できない話。あの子たちには生きる権利がある。

「じゃあ、やはり聖女だ。俺は君が成そうとする全てを応援したい。此度の誕生パーティーも世直しの一つだと確信している」

 私はリッチモンド公爵を嵌めようとしているのです。

 しかし、カルロは私を善だという。

 悪を騙すものが善であるはずはなく、確実に上回る巨悪であったというのに……。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

【完結】あなたの瞳に映るのは

今川みらい
恋愛
命を救える筈の友を、俺は無慈悲に見捨てた。 全てはあなたを手に入れるために。 長年の片想いが、ティアラの婚約破棄をきっかけに動き出す。 ★完結保証★ 全19話執筆済み。4万字程度です。 前半がティアラside、後半がアイラスsideになります。 表紙画像は作中で登場するサンブリテニアです。

【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに

おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」 結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。 「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」 「え?」 驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。 ◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話 ◇元サヤではありません ◇全56話完結予定

あなたの側にいられたら、それだけで

椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。 私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。 傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。 彼は一体誰? そして私は……? アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。 _____________________________ 私らしい作品になっているかと思います。 ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。 ※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります ※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

処理中です...