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第六章 揺れ動く世界線
善とは何か
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三ヶ月が経過していました。
正体を知られた私はルークがスラム街まで来てしまうのじゃないかと心配していたのですが、どうやらレグス近衛騎士団長は約束を守ってくれたようです。
世間は私がアナスタシア・スカーレットだと、まだ知らないままでした。
「今回の誕生パーティーは開催されるはず……」
初夏からの長雨は今回の世界線でも同じでした。
髭が進言してくれたおかげか、ガゼル王は治水について諸侯たちに指示してくれたみたい。それを受けて余裕のある貴族領は、それなりの対策をしていると聞き及んでいます。
それでも日照不足による食料危機は避けられない状況ですが、洪水による人命は幾らかでも軽減されそうです。
私はデンバー侯爵邸へ向かう前に、スラム街の教会を訪れていました。
それはもちろんのことエリカに会うためであり、今回の彼女は今のところ赤斑病の症状などありません。
「エリカ、身体に赤い斑点のある患者には迷わず薬を与えるのよ? 神聖魔法では効果がないからね?」
「ルイ様、分かっております。既に何人も処置しましたし、赤斑病の恐ろしさは理解しておりますわ」
やはり疫病は発生していました。
スラム街を清潔にしたのですが、どうやら外から赤斑病は持ち込まれたみたいです。
「言っておくけど、エリカ自身に赤斑ができたのなら絶対に飲むこと。薬は沢山用意してあるから」
「心配性ですねぇ。流石は清浄なる光のルイ様です」
どうしてか私はエリカの二つ名で呼ばれています。
スラム街では神でも降臨したかのような持ち上げられようで、流石に困惑していました。
「ルイ、出発するぞ」
おっと、俺様皇太子がお呼びです。
今回も彼は誕生パーティーイベントに手を貸してくれるらしい。上手くいけばリッチモンド公爵を追い詰められることでしょう。
私たちは王都ルナレイクを出発し、まずはイセリナを迎えに行きます。
現世界線でも彼女との関係は良好です。ガラクシアで過ごした半年だけでなく、ルナレイクへ戻ってからも頻繁に会いに行ってましたからね。
既にオリビアとも打ち解けてまして、まるで三姉妹のような関係です。
「ルイが話していましたように、ずっと雨ですわねぇ……」
イセリナが馬車の窓から見上げていいました。
長雨はセントローゼス王国だけでなく、プロメティア世界の南部地域一帯を襲っています。
よって簡単に支援を求めるようなことはできず、各国は自国の食糧難に対処することもままならない状況でした。
まあしかし、サルバディール皇国はまだマシだと言えます。私の忠告通りに食料を国家が率先して備蓄しているのですから。
私たちの馬車は前世界線で橋が流されたという地点へ到着。ところが、現世界線に馬車を停車させる地域住民は存在せず、街道を通過できています。
(髭もやるじゃん……)
金儲け以外で約束を守ってくれるとは意外です。
ここに到着するまで半信半疑であったのですが、既に私たちは流されたという橋を渡っているのです。
「ほう、ランカスタ公爵は立派な橋を架けたのだな?」
カルロが言うと、直ぐにイセリナが答えました。
「ルイと約束しましたからね。お父様は領内の治水工事に大金を叩いておりますわ!」
自慢げに語る彼女。住民のためにした治水工事はイセリナも誇りに感じているみたい。
「しかし、ルイの予知は凄いですわね。全部当たっています。お父様を脅すとかどうなっているのかと思いましたが、このような未来が見えていたのなら当然ですわね」
聞けば、この長雨は髭の機嫌を良くしているらしい。
大金を叩いた価値があったと大笑いしていると聞きます。
「カルロ殿下、私はようやく山を越えたようです……」
とても感慨深い。前世界線では誕生パーティーへの参加すらできませんでした。
この世界線こそが辿り着くべき未来であり、望んだものに他なりません。
「ルイは頑張ったからな。スラム街での活動は俺も誇りに思っている」
どうしてか褒められています。日中をほぼ外で過ごす私に不信感を覚えていると考えていたのに。
「やはり君は悪というより善。いや、聖女との評価に相応しい」
むず痒い言葉が向けられていました。
でも、悪を討つために巨悪になろうとしている女を聖女と呼ぶなんて間違っている。
「未来を知っていたから。私は知っていたから行動しただけですわ」
仮に何も知らなければ、私は毎日露店で買い食いをし、マリィと戯れ合いながら過ごしたことでしょう。
「たとえ知っていたとしても、見て見ぬフリをするのが普通だ。それにルイは彼らの死を受け入れたくなくて、施しをしたのだろ? 遠くから見届けるなんてできないのだろう?」
問いが向けられています。
簡単な質問。彼らを切り捨てられるかどうかという話でした。
「できません……」
嘘は言えませんでした。やはり知っていたら見過ごせないじゃない?
冗談でも看過できない話。あの子たちには生きる権利がある。
「じゃあ、やはり聖女だ。俺は君が成そうとする全てを応援したい。此度の誕生パーティーも世直しの一つだと確信している」
私はリッチモンド公爵を嵌めようとしているのです。
しかし、カルロは私を善だという。
悪を騙すものが善であるはずはなく、確実に上回る巨悪であったというのに……。
正体を知られた私はルークがスラム街まで来てしまうのじゃないかと心配していたのですが、どうやらレグス近衛騎士団長は約束を守ってくれたようです。
世間は私がアナスタシア・スカーレットだと、まだ知らないままでした。
「今回の誕生パーティーは開催されるはず……」
初夏からの長雨は今回の世界線でも同じでした。
髭が進言してくれたおかげか、ガゼル王は治水について諸侯たちに指示してくれたみたい。それを受けて余裕のある貴族領は、それなりの対策をしていると聞き及んでいます。
それでも日照不足による食料危機は避けられない状況ですが、洪水による人命は幾らかでも軽減されそうです。
私はデンバー侯爵邸へ向かう前に、スラム街の教会を訪れていました。
それはもちろんのことエリカに会うためであり、今回の彼女は今のところ赤斑病の症状などありません。
「エリカ、身体に赤い斑点のある患者には迷わず薬を与えるのよ? 神聖魔法では効果がないからね?」
「ルイ様、分かっております。既に何人も処置しましたし、赤斑病の恐ろしさは理解しておりますわ」
やはり疫病は発生していました。
スラム街を清潔にしたのですが、どうやら外から赤斑病は持ち込まれたみたいです。
「言っておくけど、エリカ自身に赤斑ができたのなら絶対に飲むこと。薬は沢山用意してあるから」
「心配性ですねぇ。流石は清浄なる光のルイ様です」
どうしてか私はエリカの二つ名で呼ばれています。
スラム街では神でも降臨したかのような持ち上げられようで、流石に困惑していました。
「ルイ、出発するぞ」
おっと、俺様皇太子がお呼びです。
今回も彼は誕生パーティーイベントに手を貸してくれるらしい。上手くいけばリッチモンド公爵を追い詰められることでしょう。
私たちは王都ルナレイクを出発し、まずはイセリナを迎えに行きます。
現世界線でも彼女との関係は良好です。ガラクシアで過ごした半年だけでなく、ルナレイクへ戻ってからも頻繁に会いに行ってましたからね。
既にオリビアとも打ち解けてまして、まるで三姉妹のような関係です。
「ルイが話していましたように、ずっと雨ですわねぇ……」
イセリナが馬車の窓から見上げていいました。
長雨はセントローゼス王国だけでなく、プロメティア世界の南部地域一帯を襲っています。
よって簡単に支援を求めるようなことはできず、各国は自国の食糧難に対処することもままならない状況でした。
まあしかし、サルバディール皇国はまだマシだと言えます。私の忠告通りに食料を国家が率先して備蓄しているのですから。
私たちの馬車は前世界線で橋が流されたという地点へ到着。ところが、現世界線に馬車を停車させる地域住民は存在せず、街道を通過できています。
(髭もやるじゃん……)
金儲け以外で約束を守ってくれるとは意外です。
ここに到着するまで半信半疑であったのですが、既に私たちは流されたという橋を渡っているのです。
「ほう、ランカスタ公爵は立派な橋を架けたのだな?」
カルロが言うと、直ぐにイセリナが答えました。
「ルイと約束しましたからね。お父様は領内の治水工事に大金を叩いておりますわ!」
自慢げに語る彼女。住民のためにした治水工事はイセリナも誇りに感じているみたい。
「しかし、ルイの予知は凄いですわね。全部当たっています。お父様を脅すとかどうなっているのかと思いましたが、このような未来が見えていたのなら当然ですわね」
聞けば、この長雨は髭の機嫌を良くしているらしい。
大金を叩いた価値があったと大笑いしていると聞きます。
「カルロ殿下、私はようやく山を越えたようです……」
とても感慨深い。前世界線では誕生パーティーへの参加すらできませんでした。
この世界線こそが辿り着くべき未来であり、望んだものに他なりません。
「ルイは頑張ったからな。スラム街での活動は俺も誇りに思っている」
どうしてか褒められています。日中をほぼ外で過ごす私に不信感を覚えていると考えていたのに。
「やはり君は悪というより善。いや、聖女との評価に相応しい」
むず痒い言葉が向けられていました。
でも、悪を討つために巨悪になろうとしている女を聖女と呼ぶなんて間違っている。
「未来を知っていたから。私は知っていたから行動しただけですわ」
仮に何も知らなければ、私は毎日露店で買い食いをし、マリィと戯れ合いながら過ごしたことでしょう。
「たとえ知っていたとしても、見て見ぬフリをするのが普通だ。それにルイは彼らの死を受け入れたくなくて、施しをしたのだろ? 遠くから見届けるなんてできないのだろう?」
問いが向けられています。
簡単な質問。彼らを切り捨てられるかどうかという話でした。
「できません……」
嘘は言えませんでした。やはり知っていたら見過ごせないじゃない?
冗談でも看過できない話。あの子たちには生きる権利がある。
「じゃあ、やはり聖女だ。俺は君が成そうとする全てを応援したい。此度の誕生パーティーも世直しの一つだと確信している」
私はリッチモンド公爵を嵌めようとしているのです。
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