青き薔薇の悪役令嬢はその愛に溺れたい ~取り巻きモブとして二度目の転生を命じられたとしても~

坂森大我

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第六章 揺れ動く世界線

過去との決別

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「私はスラムの清掃が王国にとって重要だからしております。否定しないでくださいな? それにルーク殿下の問題は早々に解決すべき問題ではありません」

 ものには順序がある。

 確固たる計画が私にはあったのです。

「その時が来ればアナスタシア・スカーレットであることを公表しますから。どうかお待ちください。私には強力な支援者がおります故、ご心配なく。粛々とルーク王子殿下を王太子とするための計画が進行しておりますの。お待ちくださいとしか、今は言えません」

 気の長い私でも、これ以上に首を突っ込もうとするのなら、キレてしまうわよ?

 現状は焦るべきじゃない。全てが破綻する行動は絶対に認められないのよ。

 今は優先順位に沿って動くべきであり、東と北のご老人が欲にまみれて手を挙げたとして、気にする問題じゃないわ。

「ルーク殿下には各地の治水工事に力を入れるようお伝えください。それだけでルーク殿下の株が上がりますから」

「本当でしょうか?」

 今伝えられることはそれだけです。

 確認には大きく頷いて返答としています。

「しかし、私のことをルーク殿下に伝えてはなりません。レグス様、どうか約束してください。清浄なる光はエリカという女性でしたとだけ、お伝えくださいまし」

 これで良いはずだ。本来の聖女はエリカです。彼女とルークが結ばれてはならないけれど、聖女のポジションを彼女から奪うのは違う。

 仲良くなって分かったのよ。エリカが私のような偽物ではないってことを。

「ルーク殿下は喜びますけれど? 貴方様が生きていると知れば……」

「あの時、言ったではないですか? 私は二度とお会いしたくないと。それは事実ですの。私と殿下は共にする時間を有しておりません」

 はっきりと口にしておかねばならない。

 私とルークはあの時間軸を最後に接点を失っていたのですから。

「駄目なのでしょうか?」

「世界のためよ。女神アマンダのお告げといえば信じてもらえるかしら?」

 側近であるレグス近衛騎士団長はやはり主人が王太子になって欲しいと考えるでしょう。

 だからこそ、私の無事を伝えることで奮い立ってもらいたいはず。

「女神アマンダは私に言いました。ルーク殿下とイセリナ様を結びつけるようにと。そうしないと世界は破滅する。だからこそ、私はあのような別れ方を選択したのですわ」

 レグス近衛騎士団長が違和感を覚えるのは当然です。

 私は別れありきで、捲し立てていたことになるのですから。

「世界が破滅するとか、愛の女神様が仰ったのですか?」

「ええ、その通りよ。詳しくは話せないのですけれど、その未来は魔王誕生に繋がってしまうのです。ルーク殿下にはアナスタシア・スカーレットを忘れていただくしかありません。ですが、お約束いたしましょう……」

 私は告げるだけだ。こんな今もルークのために動いているのです。

 秘めたる想いのまま、言葉にするだけでした。

「ルーク第一王子が王太子に選ばれることだけは……」

 レグス近衛騎士団長にはこれだけで充分でしょう。彼はそれ以上を望んでいないはずですし。

 私の話にレグス近衛騎士団長は頭を上下させています。

 ようやく納得したのか、何度も繰り返していました。

「承知しました。貴方様も人知れず行動されている様子。私は貴方様を信じましょう。火竜の聖女ことアナスタシア・スカーレット様を……」

 まあ聖女と言われても仕方がない。何しろ、今の私は無償でスラムを掃除する聖人なのですから。

 小さく微笑んだあと、私はレグス近衛騎士団長へと述べた。

 私の覚悟を再確認してもらうために。

 今はルイ・ローズマリーですわ――と。
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