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第六章 揺れ動く世界線
もう戻れない
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「カルロ殿下、私にキスをするのは二度目ですわ……」
「二度目?」
「驚かれるのも無理はありません。何しろ私は今し方、戻って来たのです。ロマンス好きのアマンダが保存していたこの時間軸に……」
私はこの時間軸へ戻されるまでの日々を伝えています。
このあと髭が来ることや、イセリナまで連れて来ること。中等学院へカルロが入学することや、ルナレイクの一等地に住むことまで。
「アナ、君は皇国が購入した建物まで知っているのか?」
「つい先ほどまで住んでいたのですから。部屋割りから庭木の位置まで詳細をお伝えできますわ」
流石にカルロは驚愕していました。
やはり私の話は半分くらいにしか信じていなかったのかもしれません。
「女神アマンダはこの世界線に望みを託しています。だから、私は貴方の前に戻っている。約二年も時間を遡って……」
もう失敗はしない。セーブされた世界線なんだ。
飢饉も疫病も同じ時期に起きるはず。でも私ならば乗り越えられるはずよ。
「アナ……」
「やめてください。私の名はルイ・ローズマリー。ラマティック正教会の枢機卿ですわ。違いまして?」
三日後にはその役職と名前になる。
今は協議中でしょうけれど、大凡の結末をカルロは思い描いていることでしょう。
「どうして……それを?」
「言ったではないですか? 二度目だと……」
呆然と顔を振るカルロですが、流石に決定打となったのかもしれない。
信じられないでしょうが、信じるしかない。何しろ、全て真実なのですから。
「こうやって世界は同じ時間を繰り返しています。住人たちが知る由もないところで、私は時間を巻き戻って生きているのです。イセリナだった頃は千年以上も存在していましたし」
続けられた私の話にカルロは声を失っています。
死に戻りについて詳しい話をしたのは、これが初めてですから仕方ありませんけれど。
「とても濃密な二年間でしたわ。千年以上も生きている私が知らない世界があった。貴族たちが不平不満を言っている中で、孤児たちは食べるものにも苦労していたのです。なのに私は少しも気付くことなく、千年以上も笑って暮らしていたのですよ……」
思い出しただけで涙が零れてしまう。
彼らは何も悪くない。一つだけ悪いことがあるとすれば、孤児に生まれた運でしょう。
(でも、それだけだ……)
貴族として生まれたのが幸運ならば、彼らは不幸であっただけなんだ。
「私は世界を変えられると思った。今度こそ理想の世界になると疑わなかったわ……」
私はズルい女。涙を見せるだけで、男は手助けしてくれると考えている。
泣き喚くだけで、寄り添ってくれると勘違いしているのです。こんな今も感情に振り回されて、泣き言を口にするしかできないなんて。
「どうしてなのよ!? 愛の女神は平等に愛を与えてくれるんじゃないの!?」
「やめろ、アナ!!」
再びカルロは私にキスをした。
それも今度は唇に。口を開けば愚痴をいう私を黙らせるためかもしれません。
「アナ、俺は信じる。皇国が留学のために屋敷を買ったのは最近のことだ。公にしていないし、君が知るはずもない」
泣きじゃくる私は反応できません。
悔しさしか覚えない先ほどの世界。自身の無力さを味わった世界線に意識は囚われたままでした。
カルロは言いました。
自分勝手な私が、利己的に動かぬように。戒めとなるような言葉を私にかけています。
「アナ、もう戻ってくるな――」
「二度目?」
「驚かれるのも無理はありません。何しろ私は今し方、戻って来たのです。ロマンス好きのアマンダが保存していたこの時間軸に……」
私はこの時間軸へ戻されるまでの日々を伝えています。
このあと髭が来ることや、イセリナまで連れて来ること。中等学院へカルロが入学することや、ルナレイクの一等地に住むことまで。
「アナ、君は皇国が購入した建物まで知っているのか?」
「つい先ほどまで住んでいたのですから。部屋割りから庭木の位置まで詳細をお伝えできますわ」
流石にカルロは驚愕していました。
やはり私の話は半分くらいにしか信じていなかったのかもしれません。
「女神アマンダはこの世界線に望みを託しています。だから、私は貴方の前に戻っている。約二年も時間を遡って……」
もう失敗はしない。セーブされた世界線なんだ。
飢饉も疫病も同じ時期に起きるはず。でも私ならば乗り越えられるはずよ。
「アナ……」
「やめてください。私の名はルイ・ローズマリー。ラマティック正教会の枢機卿ですわ。違いまして?」
三日後にはその役職と名前になる。
今は協議中でしょうけれど、大凡の結末をカルロは思い描いていることでしょう。
「どうして……それを?」
「言ったではないですか? 二度目だと……」
呆然と顔を振るカルロですが、流石に決定打となったのかもしれない。
信じられないでしょうが、信じるしかない。何しろ、全て真実なのですから。
「こうやって世界は同じ時間を繰り返しています。住人たちが知る由もないところで、私は時間を巻き戻って生きているのです。イセリナだった頃は千年以上も存在していましたし」
続けられた私の話にカルロは声を失っています。
死に戻りについて詳しい話をしたのは、これが初めてですから仕方ありませんけれど。
「とても濃密な二年間でしたわ。千年以上も生きている私が知らない世界があった。貴族たちが不平不満を言っている中で、孤児たちは食べるものにも苦労していたのです。なのに私は少しも気付くことなく、千年以上も笑って暮らしていたのですよ……」
思い出しただけで涙が零れてしまう。
彼らは何も悪くない。一つだけ悪いことがあるとすれば、孤児に生まれた運でしょう。
(でも、それだけだ……)
貴族として生まれたのが幸運ならば、彼らは不幸であっただけなんだ。
「私は世界を変えられると思った。今度こそ理想の世界になると疑わなかったわ……」
私はズルい女。涙を見せるだけで、男は手助けしてくれると考えている。
泣き喚くだけで、寄り添ってくれると勘違いしているのです。こんな今も感情に振り回されて、泣き言を口にするしかできないなんて。
「どうしてなのよ!? 愛の女神は平等に愛を与えてくれるんじゃないの!?」
「やめろ、アナ!!」
再びカルロは私にキスをした。
それも今度は唇に。口を開けば愚痴をいう私を黙らせるためかもしれません。
「アナ、俺は信じる。皇国が留学のために屋敷を買ったのは最近のことだ。公にしていないし、君が知るはずもない」
泣きじゃくる私は反応できません。
悔しさしか覚えない先ほどの世界。自身の無力さを味わった世界線に意識は囚われたままでした。
カルロは言いました。
自分勝手な私が、利己的に動かぬように。戒めとなるような言葉を私にかけています。
「アナ、もう戻ってくるな――」
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