110 / 377
第五章 心の在りか
繰り返す時間に
しおりを挟む
降りしきる雨の中、私は頭を冷やして考え込む。
「飢饉はサルバディール皇国や他の国で買い付けを行えばまだ対処可能だ。でも疫病の問題。毒キノコである毒シタケなんかを栽培している国はない」
期待はできませんでしたが、私はスカーレット子爵家の裏山に設置した毒シタケ栽培の原木を確認。
やはりここもまた荒れ果てており、何個か自生しているだけでした。
「これじゃ疫病を回避できない。毒シタケがないのなら、自然と治まるまで待つしかない」
疫病が自然と終息する世界線は、いずれも行き詰まっていました。
主要人物が赤斑病で亡くなることはなかったのですが、国力が落ちた王国は各地での反王家勢力を抑え込めなかったのです。
「王都ではもう流行り出しているのよね?」
私はペガサスを操り、再び王都ルナレイクを目指します。
現状を把握し、何とか対策を練ろうとして。
二時間ほどで私はルナレイクに戻っています。
向かうべきはスラム街。疫病の発生源はそこだったから……。
とりあえず、スラムの様子を聞こうとエリカがいる孤児院を訪ねます。ちょうど夕飯時でしたが、気にしている場合ではありません。
「エリカ、ルイです! 少し話を聞かせて!」
大声で叫ぶと、直ぐに扉が開かれています。
けれど、現れたのは孤児でした。
「ルイ姉ちゃん、エリカ姉ちゃんは戻ってないよ?」
「え? まだ治療院にいるの?」
基本的にエリカは夕方までしか治療院にいません。孤児院での仕事がありましたし、それは教会側も理解していたはず。
問いを返した私ですが、孤児の返答に固まっています。
「三日前から戻ってないよ……」
嘘でしょ!? 三日前って私が最後に差し入れした日じゃん!?
あのあと治療院へ行って戻ってないとかある!?
「本当? エリカは治療院に行ったのよね?」
続けた質問には頷きが返されていました。
こうなったら、私は治療院へと押しかけていくしかない。
ルイ枢機卿だとバレてしまうかもですが、そんなことを気にしている場合じゃないはずだもの。
礼を言った私はペガサスを操り、治療院へと向かう。大聖堂の裏側にあるアウローラ聖教会の治療施設へと。
「すみません! 修道女のエリカを捜しているのですが!?」
受付にいた助祭らしき男に聞くと、困惑顔をして彼は返答を終える。
「エリカの知り合いですか? 生憎と面会できないのですけれど……」
「どうしてです!? 私は急用があって雨の中来たのですよ!?」
言って私はラマティック正教会が発行した身分証を見せる。
「ラララ、ラマティック正教会の枢機卿様でしたか!?」
飛び跳ねて驚くと、深々と頭を下げてくれる。しかし、私は謝罪を求めているわけではありません。
「早く案内して!」
「え、いやその……」
どうにも苛立ってしまうわね。気の長い私でもキレそうになってしまうわ。
ところが、愚図だと思っていた助祭には明確な理由があったみたい。
「エリカは流行病に冒されています……」
嘘でしょ……?
千年から繰り返しても一度もなかったのよ? エリカが赤斑病を罹患しているなんて。
「問題ありません。私は光属性の所有者。適切な治療が行えるものと考えておりますわ」
特効薬は持っていない。しかも、既に三日経過しているのです。
赤斑病は発病してから三日ほどで死に至る。全身に赤斑が現れるまでに薬を飲まなければ助かる見込みはありません。
「こちらです」
治療できると言ったからか、助祭は直ぐに案内してくれた。
ご丁寧に施錠の術式が施されています。疫病の拡散を恐れたのか、厳重な警戒が成されている。
「無駄よ!」
即座に解錠し、私は部屋へと入っていく。
とても小さな個室でした。
壁際に簡素なベッドがあり、そこにエリカが横たわっています。
「エリカ!?」
私が名を呼ぶと、彼女は朦朧とした中で目を開く。
痩せ細った顔。血色が失われていたけれど、彼女は言葉を発しています。
「ルイ様、近付いてはなりません……」
「貴方、いつからこの状態なの!?」
私は問いかけますが、注意喚起しただけで彼女はそれ以上、口を開きませんでした。
咄嗟に服を脱がせます。
助祭が扉の直ぐ近くにいましたけど、気にしている場合ではないのだと。
「嘘!?」
全身に赤斑が回っています。
胸や喉から現れるそれが今や足の指先にまで拡がっていたのです。
もう処置する段階はとうの昔に過ぎていました。けれども、私は抗う。
「エクストラヒール!!」
それは開発した古代魔法の一つ。非常に強力な治癒魔法でした。
失われた部位を再生するほどではないにしても、即死する致命傷でもなければ回復させられる魔法です。
流石に昏倒しそうになる。けれど、何とか持ち堪えて、エリカの名を呼ぶ。
「エリカ! しっかりして!」
エクストラヒールは少しばかり彼女を延命したみたい。
私の問いかけに、小さく笑顔を見せてくれたのですから。
一瞬のあと、意識が朦朧としていました。
かといって魔力切れによる昏倒ではありません。何しろ次の瞬間には視界がブラックアウトしていたのですから。
またやり直しなのね――――。
何とか一回でクリアしようとしていましたが、私は再びルークとキスする場面に戻されるみたいです。
再び彼の好意を一方的に拒絶し、追い返すしかないらしいね……。
失われゆく意識の中で私は嘆息していました。
持ち直したかのような世界線でしたが、過度に改変されたこの世界線は時系列もおかしくなっています。
エリカが失われたことによるリセットは前世でも一度経験しただけだというのに。
仲良くなった友達ですら、私は守れませんでした……。
「飢饉はサルバディール皇国や他の国で買い付けを行えばまだ対処可能だ。でも疫病の問題。毒キノコである毒シタケなんかを栽培している国はない」
期待はできませんでしたが、私はスカーレット子爵家の裏山に設置した毒シタケ栽培の原木を確認。
やはりここもまた荒れ果てており、何個か自生しているだけでした。
「これじゃ疫病を回避できない。毒シタケがないのなら、自然と治まるまで待つしかない」
疫病が自然と終息する世界線は、いずれも行き詰まっていました。
主要人物が赤斑病で亡くなることはなかったのですが、国力が落ちた王国は各地での反王家勢力を抑え込めなかったのです。
「王都ではもう流行り出しているのよね?」
私はペガサスを操り、再び王都ルナレイクを目指します。
現状を把握し、何とか対策を練ろうとして。
二時間ほどで私はルナレイクに戻っています。
向かうべきはスラム街。疫病の発生源はそこだったから……。
とりあえず、スラムの様子を聞こうとエリカがいる孤児院を訪ねます。ちょうど夕飯時でしたが、気にしている場合ではありません。
「エリカ、ルイです! 少し話を聞かせて!」
大声で叫ぶと、直ぐに扉が開かれています。
けれど、現れたのは孤児でした。
「ルイ姉ちゃん、エリカ姉ちゃんは戻ってないよ?」
「え? まだ治療院にいるの?」
基本的にエリカは夕方までしか治療院にいません。孤児院での仕事がありましたし、それは教会側も理解していたはず。
問いを返した私ですが、孤児の返答に固まっています。
「三日前から戻ってないよ……」
嘘でしょ!? 三日前って私が最後に差し入れした日じゃん!?
あのあと治療院へ行って戻ってないとかある!?
「本当? エリカは治療院に行ったのよね?」
続けた質問には頷きが返されていました。
こうなったら、私は治療院へと押しかけていくしかない。
ルイ枢機卿だとバレてしまうかもですが、そんなことを気にしている場合じゃないはずだもの。
礼を言った私はペガサスを操り、治療院へと向かう。大聖堂の裏側にあるアウローラ聖教会の治療施設へと。
「すみません! 修道女のエリカを捜しているのですが!?」
受付にいた助祭らしき男に聞くと、困惑顔をして彼は返答を終える。
「エリカの知り合いですか? 生憎と面会できないのですけれど……」
「どうしてです!? 私は急用があって雨の中来たのですよ!?」
言って私はラマティック正教会が発行した身分証を見せる。
「ラララ、ラマティック正教会の枢機卿様でしたか!?」
飛び跳ねて驚くと、深々と頭を下げてくれる。しかし、私は謝罪を求めているわけではありません。
「早く案内して!」
「え、いやその……」
どうにも苛立ってしまうわね。気の長い私でもキレそうになってしまうわ。
ところが、愚図だと思っていた助祭には明確な理由があったみたい。
「エリカは流行病に冒されています……」
嘘でしょ……?
千年から繰り返しても一度もなかったのよ? エリカが赤斑病を罹患しているなんて。
「問題ありません。私は光属性の所有者。適切な治療が行えるものと考えておりますわ」
特効薬は持っていない。しかも、既に三日経過しているのです。
赤斑病は発病してから三日ほどで死に至る。全身に赤斑が現れるまでに薬を飲まなければ助かる見込みはありません。
「こちらです」
治療できると言ったからか、助祭は直ぐに案内してくれた。
ご丁寧に施錠の術式が施されています。疫病の拡散を恐れたのか、厳重な警戒が成されている。
「無駄よ!」
即座に解錠し、私は部屋へと入っていく。
とても小さな個室でした。
壁際に簡素なベッドがあり、そこにエリカが横たわっています。
「エリカ!?」
私が名を呼ぶと、彼女は朦朧とした中で目を開く。
痩せ細った顔。血色が失われていたけれど、彼女は言葉を発しています。
「ルイ様、近付いてはなりません……」
「貴方、いつからこの状態なの!?」
私は問いかけますが、注意喚起しただけで彼女はそれ以上、口を開きませんでした。
咄嗟に服を脱がせます。
助祭が扉の直ぐ近くにいましたけど、気にしている場合ではないのだと。
「嘘!?」
全身に赤斑が回っています。
胸や喉から現れるそれが今や足の指先にまで拡がっていたのです。
もう処置する段階はとうの昔に過ぎていました。けれども、私は抗う。
「エクストラヒール!!」
それは開発した古代魔法の一つ。非常に強力な治癒魔法でした。
失われた部位を再生するほどではないにしても、即死する致命傷でもなければ回復させられる魔法です。
流石に昏倒しそうになる。けれど、何とか持ち堪えて、エリカの名を呼ぶ。
「エリカ! しっかりして!」
エクストラヒールは少しばかり彼女を延命したみたい。
私の問いかけに、小さく笑顔を見せてくれたのですから。
一瞬のあと、意識が朦朧としていました。
かといって魔力切れによる昏倒ではありません。何しろ次の瞬間には視界がブラックアウトしていたのですから。
またやり直しなのね――――。
何とか一回でクリアしようとしていましたが、私は再びルークとキスする場面に戻されるみたいです。
再び彼の好意を一方的に拒絶し、追い返すしかないらしいね……。
失われゆく意識の中で私は嘆息していました。
持ち直したかのような世界線でしたが、過度に改変されたこの世界線は時系列もおかしくなっています。
エリカが失われたことによるリセットは前世でも一度経験しただけだというのに。
仲良くなった友達ですら、私は守れませんでした……。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
75
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる